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そろそろ
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その日は朝から何故だか落ち着かなかった。
そわそわ、ざわざわ?
落ち着きたいのに何だか足がうずうずするというか、無意味に両手をパッパッしたくなるというか。
お腹が張っている気もし、早朝目を覚ました縁はまだ寝ているみんなを起こさないようソッと部屋を後にした。
することもなく重いお腹を抱えながら年寄りのように散歩していれば、これまた散歩仲間らしいサッズに出会った。
「おはようございます」
「おはよ。随分早起きじゃない?」
「うーん、なんだか落ち着かなくて。眠れないので散歩でもしようかと」
「……もしかしてだけど、誰かに言ってきた?」
「いいえ、まだみんな寝ていたので静かに出てきました」
疲れているのに起こすのも可哀想だと言えば、大きな溜め息と共に近くのベンチに呼ばれた。
「もう遅いけどここで大人しくしてて。誰か…お頭でも呼んでくっから」
「え?いいですよ。本当に散歩してただけなので、気が済んだら部屋に戻ります」
態々起こす必要はないと訴えたが、縁の言葉を待たずサッズは走り去っていってしまった。
「暇ですねぇ」
普段ならとくに何も思わないが、今日に限って何かしてないと落ち着かない。
ぶらぶらと子どものように足を揺らし待っていれば、慌てたようにジークが小走りでやってきた。
「大丈夫か?」
「はい。サッズさんにも大丈夫と言ったんですが呼びに行ってしまって…起こしてしまってごめんなさい」
やはり寝ていたのだろう。
少しハネた後ろ髪に起こして申し訳ないと謝れば、笑って頭を撫でられた。
「これくらい何でもねぇよ。散歩でもなんでもいくらでも付き合ってやる」
「なんというか…落ち着かなくて……寝る気にもなれなくてどうしようかと思ってました」
心配しながらも歩きたという縁に手を貸してくれ、2人並んで歩く。
「腹の調子は?」
「少し張っている気がします。そのせいかは分かりませんが、じっとしてられなくて」
「痛くはないんだろ?」
「はい。なので気分転換を兼ねて歩いてました」
覚悟しているとはいえ、初めての出産に緊張しているのかもしれない。
手を握り返してくれる大きく温かい手が嬉しく、少し落ち込んでいた気分が晴れていく気がする。
「ジーク」
「ん?」
「抱っこして下さい」
子どものように手を伸ばせば、嫌な顔することなく優しく抱き上げてくれる。
力強い腕は縁とお腹の子を抱えてもブレることなく安定感があった。
「どうした?」
ポンポンとまるで子どもを寝かしつけるようなそれに、しかし眠気は襲って来ず只々心地よい。
「たぶん、もうすぐな気がするんです」
「そうか」
「……ちゃんと育てられるでしょうか?」
「お前なら大丈夫だろ。それに俺たちもいる」
「……私は子どもの頃に両親を亡くしました。親の愛情を知らないわけじゃありません。でも…上手くできるか不安なんです」
少ないとはいえ両親は愛情をもって自分を育ててくれた。
それは分かっている。
分かっているが、自分もそれが出来るかと聞かれれば分からない。
覚えているのも12歳までであり、その先は?
いくら周りの家族を見てもどれが正解か分からず不安がよぎる。
「家族というものに憧れてはいましたが、いざ我が子が産まれるとなると不安になってしまって」
ジークたちは縁なら大丈夫だと言ってくれるが、縁には不安しかない。
子育てしたこともなければ、男である自分がまともに育てられるのだろうかと考えてしまう。
「そうか。だが、誰だって初めはそんなもんだろ」
「え?」
「今ここにいるガキがいる女たちだって初めはあったんだ。今こそ慣れて肝っ玉でかい母親になっちまったが、昔はもう少し可愛げがあったもんだ」
子ができ、守るべき者が出来た時母は強くなる。
縁の母がそうであったように、父を尻に敷くくらい強く逞しい母は憧れであり何より愛情深い人だった。
「分からなきゃ分かる誰かに聞けばいい。それに子育てに上手いもなんもねぇだろ。ガキたち見てたって誰1人同じ性格はいねぇ」
確かに。
数はそう多くないが、ここにいる子どもたちは元気だが性格がそれぞれ違う。
走り回るのが好きな子もいれば、大人しく部屋で過ごす子もいる。
親の性格であり、育て方の違いなのだろう。
「なら私の子はみんなに心配されるような危なっかしい子になっちゃいますね」
「それはやめてくれ」
「あはははははっ」
心配でおちおち寝てられねぇとボヤくジークに笑ってしまう。
「あははは、でもそう言うことですよね。まあ、セインに似るかもしれませんがこればかりは育ててみないと分かりませんね」
「セインに似るとも限んねぇぞ。パパは3人もいるからな」
「そうですね。楽しみーーいっ」
「縁?」
「い、たい、お腹。い、たたた」
「くそ、陣痛か。部屋に運ぶぞ」
急に来た痛みに驚き、お腹を抱える。
それほどでもないが続く鈍い痛みに辛くてしょうがない。
部屋に戻るとジークがアレンたちを叩き起こす。
バタバタと忙しなく準備を始める姿を見ながら耐えていれば、一度痛みは引いたがまた繰り返し痛みが続く。
こんなのを何時間も続けなければいけないのかと思うと気を失いそうになった。
申し訳ないがお産経験者の女性たちにも手伝ってもらい必死に耐えていれば、セインが手を握ってくれたらしくギュッと力を込める。
「ごめんな。代わってやれなくてごめん」
痛みに強張る縁にセインは優しく額の汗を拭いてくれ、ごめんと謝り続ける。
「大丈夫、大丈夫です。もう少し、で、子どもに会え、ますよ」
人間のお産、それも男の出産は初めてのため皆が戸惑っているが、さすが経験者の母親たちは強くアレンたちに的確な指示を出していく。
それから数時間という長い時間を気が狂いそうになりながら耐える縁であった。
そわそわ、ざわざわ?
落ち着きたいのに何だか足がうずうずするというか、無意味に両手をパッパッしたくなるというか。
お腹が張っている気もし、早朝目を覚ました縁はまだ寝ているみんなを起こさないようソッと部屋を後にした。
することもなく重いお腹を抱えながら年寄りのように散歩していれば、これまた散歩仲間らしいサッズに出会った。
「おはようございます」
「おはよ。随分早起きじゃない?」
「うーん、なんだか落ち着かなくて。眠れないので散歩でもしようかと」
「……もしかしてだけど、誰かに言ってきた?」
「いいえ、まだみんな寝ていたので静かに出てきました」
疲れているのに起こすのも可哀想だと言えば、大きな溜め息と共に近くのベンチに呼ばれた。
「もう遅いけどここで大人しくしてて。誰か…お頭でも呼んでくっから」
「え?いいですよ。本当に散歩してただけなので、気が済んだら部屋に戻ります」
態々起こす必要はないと訴えたが、縁の言葉を待たずサッズは走り去っていってしまった。
「暇ですねぇ」
普段ならとくに何も思わないが、今日に限って何かしてないと落ち着かない。
ぶらぶらと子どものように足を揺らし待っていれば、慌てたようにジークが小走りでやってきた。
「大丈夫か?」
「はい。サッズさんにも大丈夫と言ったんですが呼びに行ってしまって…起こしてしまってごめんなさい」
やはり寝ていたのだろう。
少しハネた後ろ髪に起こして申し訳ないと謝れば、笑って頭を撫でられた。
「これくらい何でもねぇよ。散歩でもなんでもいくらでも付き合ってやる」
「なんというか…落ち着かなくて……寝る気にもなれなくてどうしようかと思ってました」
心配しながらも歩きたという縁に手を貸してくれ、2人並んで歩く。
「腹の調子は?」
「少し張っている気がします。そのせいかは分かりませんが、じっとしてられなくて」
「痛くはないんだろ?」
「はい。なので気分転換を兼ねて歩いてました」
覚悟しているとはいえ、初めての出産に緊張しているのかもしれない。
手を握り返してくれる大きく温かい手が嬉しく、少し落ち込んでいた気分が晴れていく気がする。
「ジーク」
「ん?」
「抱っこして下さい」
子どものように手を伸ばせば、嫌な顔することなく優しく抱き上げてくれる。
力強い腕は縁とお腹の子を抱えてもブレることなく安定感があった。
「どうした?」
ポンポンとまるで子どもを寝かしつけるようなそれに、しかし眠気は襲って来ず只々心地よい。
「たぶん、もうすぐな気がするんです」
「そうか」
「……ちゃんと育てられるでしょうか?」
「お前なら大丈夫だろ。それに俺たちもいる」
「……私は子どもの頃に両親を亡くしました。親の愛情を知らないわけじゃありません。でも…上手くできるか不安なんです」
少ないとはいえ両親は愛情をもって自分を育ててくれた。
それは分かっている。
分かっているが、自分もそれが出来るかと聞かれれば分からない。
覚えているのも12歳までであり、その先は?
いくら周りの家族を見てもどれが正解か分からず不安がよぎる。
「家族というものに憧れてはいましたが、いざ我が子が産まれるとなると不安になってしまって」
ジークたちは縁なら大丈夫だと言ってくれるが、縁には不安しかない。
子育てしたこともなければ、男である自分がまともに育てられるのだろうかと考えてしまう。
「そうか。だが、誰だって初めはそんなもんだろ」
「え?」
「今ここにいるガキがいる女たちだって初めはあったんだ。今こそ慣れて肝っ玉でかい母親になっちまったが、昔はもう少し可愛げがあったもんだ」
子ができ、守るべき者が出来た時母は強くなる。
縁の母がそうであったように、父を尻に敷くくらい強く逞しい母は憧れであり何より愛情深い人だった。
「分からなきゃ分かる誰かに聞けばいい。それに子育てに上手いもなんもねぇだろ。ガキたち見てたって誰1人同じ性格はいねぇ」
確かに。
数はそう多くないが、ここにいる子どもたちは元気だが性格がそれぞれ違う。
走り回るのが好きな子もいれば、大人しく部屋で過ごす子もいる。
親の性格であり、育て方の違いなのだろう。
「なら私の子はみんなに心配されるような危なっかしい子になっちゃいますね」
「それはやめてくれ」
「あはははははっ」
心配でおちおち寝てられねぇとボヤくジークに笑ってしまう。
「あははは、でもそう言うことですよね。まあ、セインに似るかもしれませんがこればかりは育ててみないと分かりませんね」
「セインに似るとも限んねぇぞ。パパは3人もいるからな」
「そうですね。楽しみーーいっ」
「縁?」
「い、たい、お腹。い、たたた」
「くそ、陣痛か。部屋に運ぶぞ」
急に来た痛みに驚き、お腹を抱える。
それほどでもないが続く鈍い痛みに辛くてしょうがない。
部屋に戻るとジークがアレンたちを叩き起こす。
バタバタと忙しなく準備を始める姿を見ながら耐えていれば、一度痛みは引いたがまた繰り返し痛みが続く。
こんなのを何時間も続けなければいけないのかと思うと気を失いそうになった。
申し訳ないがお産経験者の女性たちにも手伝ってもらい必死に耐えていれば、セインが手を握ってくれたらしくギュッと力を込める。
「ごめんな。代わってやれなくてごめん」
痛みに強張る縁にセインは優しく額の汗を拭いてくれ、ごめんと謝り続ける。
「大丈夫、大丈夫です。もう少し、で、子どもに会え、ますよ」
人間のお産、それも男の出産は初めてのため皆が戸惑っているが、さすが経験者の母親たちは強くアレンたちに的確な指示を出していく。
それから数時間という長い時間を気が狂いそうになりながら耐える縁であった。
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