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説教
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どこへ向かっていいか分からず、しかし立ち止まることもできずただ闇雲に歩き続けていれば、近くで何かが崩れる音が聞こえた。
先程のひび割れた壁が崩れるのかもしれないと確認のためにこっそりと様子を窺おうとすれば、パラパラと崩れ始める壁と、その真下に見えた姿に状況も忘れ声を張り上げた。
「そこから離れなさい!」
驚いたような顔と動かない身体に必死に駆け寄る。
止まらない崩壊に伸ばしたこの手は間に合わないと分かると、間に合ってくれと手の平に魔力を込める。
どこからともなく出現した大量の水で身体を包み込むと思いきり自分の方へ引き寄せた。
「っ!大丈夫ですか!?」
勢いあまって反対側の壁にぶつかったが、咳き込む様子に慌てて駆け寄り確認すれば怪我はないようでホッとした。
「げほ、げほっ、ま、なんなっ、げほっ」
咄嗟のことに水をかなり飲み込んでしまったようで、苦しそうに咳き込む背中をさすってやる。
「すいません、加減が出来ませんでした」
今まで水魔法を使ったことがあまりなかったことと、助けようと必死なあまり加減を間違えた。
張り付く髪をどけてやり、苦しさに浮かんだ涙を拭いてやれば、いきなりガバリと抱きつかれる。
そういえば逃げている最中だったと今思い出した。
「離して下さい」
「やだ」
今さらながら逃げようとするが、当たり前だが離してもらえない。
これはマズイと何か武器になりそうなものはないかと周りを見回していればーー
「ごめんなさい」
「…ん?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
急に謝り出した。
意味が分からず、もしや先程の結果水責めのようになってしまった自分のせいでおかしくなったかもしれないとヒヤリとする。
助けたように見えて、実は脳に障害が!?
「ど、どうしました?」
動揺のあまり吃った。
「オレ…ごめんなさい。お願いだから嫌いにならないで」
これは……本格的にマズイかもしれない。
あの苦労性の兄の姿が頭に浮かび、平謝りするしかないと思った。
「嫌い…かどうかはさておき、痛いところはありませんか?」
「ない。ないから嫌いにならないで」
いやいや。いやいやいやいや。
なんと答えるのが正解か分からない。
迂闊に好きだと言えば先程のように部屋に閉じ込められるかもしれず、しかし迷子の子どものように縋り泣きつく姿に嫌いだとも言いづらい。
誰か助けて!
「とりあえず着替えましょう。そのままでは風邪をひきますよ」
「やだ。一緒にいる」
頼むから離れてほしい。
濡れた身体で勝手に風邪をひくのは一向に構わないが、抱きつかれているこちらにも被害が出ているのだ。
じわっと染み込んでくる冷たいものにクシャミをすれば、これまたいったいどうしたことか慌てたように抱き抱えられる。
「な、なに?」
「風邪ひいちゃう!あ、あっためなきゃ。着替え?それとも風呂がいい?あとあったかい飲み物と、布団も……」
クシャミ一つでそれは過保護ではないだろうか。
そもそも濡れているのは縁ではなく彼である。
「私のことはいいですから。貴方が風邪をひいてしまいますよ。早く帰って着替えをーー」
「そ、そうだね早く着替えなきゃ!」
縁の言葉をどう勘違いしたのか分からないが、大変だ大変だと呟き縁片手に走る姿に何も言えないのであった。
それにしてもこの世界の男性はどうしてこうも筋肉質なのだろうか?
ジークたちには劣るがそれなりに身長もあり、細身だが触れてみれば鍛えられていのがよく分かる。
この筋肉を移植する方法はないものか……
状況も忘れ恨めしそうにペチペチと腕を叩けば、鞭を打たれた馬の如く速さが増した。
「お兄さんは見つかったんですか?」
「え?ううん。どっか出かけてるみたい」
話し方が変わっている気がするが、今までのヘラヘラした態度や冷たく笑う彼よりはこちらの方がいい。
それでも身の危険が去ったとは確信できたわけではないので、いつでも反撃出来るように警戒しながらも大人しくしておく。
「これ着替え。風呂もすぐ沸かすから待ってて。あと何か温かい飲み物をーー」
「私より貴方でしょ。やってしまった私が言うことではありませんが、早く温まった方がいい」
渡されたタオルで濡れた頭を拭いてやれば、驚いたのかピクリと肩が揺れた。
「やはりタオルだけじゃダメですね。お風呂どうぞ」
全身びしょ濡れでは少し拭いただけではあまり意味はなかった。
風呂場に追いやろうとするが、腕を掴まれてしまい動けない。
「い、一緒に入ろう?」
「は?嫌ですけど」
何を言っているんだろうか?
「な、なんで?」
「いや、普通に無理でしょ。何故狙われている私が一緒に入らないといけないんですか。さっさと一人で入ってきて下さい」
「やだ!だって…だってオレ入ってる間にどっか行っちゃうでしょ?」
「そりゃ逃げますね」
逆に逃げない人がいるのだろうか?
すでに誘拐犯と被害者の会話とは思えないが、いきなりそんな「いいね、一緒に入ろ!」とはならない。なるわけがない。
「ダメダメダメ。やだ、ならオレも入んない!」
いや、どこの駄々っ子ですか。
「……そうですか。風邪をひかないよう気をつけて下さいね。では私はこれで」
「ダメ!帰っちゃダメ!」
完全に幼稚化している。
貴方は何歳だと聞きたくなるが、それで興味を持たれたと喜ばれるのも癪なので聞いてやらない。
これではずっと静かにしている繋の方がよっぽど大人だと思った縁であった。
先程のひび割れた壁が崩れるのかもしれないと確認のためにこっそりと様子を窺おうとすれば、パラパラと崩れ始める壁と、その真下に見えた姿に状況も忘れ声を張り上げた。
「そこから離れなさい!」
驚いたような顔と動かない身体に必死に駆け寄る。
止まらない崩壊に伸ばしたこの手は間に合わないと分かると、間に合ってくれと手の平に魔力を込める。
どこからともなく出現した大量の水で身体を包み込むと思いきり自分の方へ引き寄せた。
「っ!大丈夫ですか!?」
勢いあまって反対側の壁にぶつかったが、咳き込む様子に慌てて駆け寄り確認すれば怪我はないようでホッとした。
「げほ、げほっ、ま、なんなっ、げほっ」
咄嗟のことに水をかなり飲み込んでしまったようで、苦しそうに咳き込む背中をさすってやる。
「すいません、加減が出来ませんでした」
今まで水魔法を使ったことがあまりなかったことと、助けようと必死なあまり加減を間違えた。
張り付く髪をどけてやり、苦しさに浮かんだ涙を拭いてやれば、いきなりガバリと抱きつかれる。
そういえば逃げている最中だったと今思い出した。
「離して下さい」
「やだ」
今さらながら逃げようとするが、当たり前だが離してもらえない。
これはマズイと何か武器になりそうなものはないかと周りを見回していればーー
「ごめんなさい」
「…ん?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
急に謝り出した。
意味が分からず、もしや先程の結果水責めのようになってしまった自分のせいでおかしくなったかもしれないとヒヤリとする。
助けたように見えて、実は脳に障害が!?
「ど、どうしました?」
動揺のあまり吃った。
「オレ…ごめんなさい。お願いだから嫌いにならないで」
これは……本格的にマズイかもしれない。
あの苦労性の兄の姿が頭に浮かび、平謝りするしかないと思った。
「嫌い…かどうかはさておき、痛いところはありませんか?」
「ない。ないから嫌いにならないで」
いやいや。いやいやいやいや。
なんと答えるのが正解か分からない。
迂闊に好きだと言えば先程のように部屋に閉じ込められるかもしれず、しかし迷子の子どものように縋り泣きつく姿に嫌いだとも言いづらい。
誰か助けて!
「とりあえず着替えましょう。そのままでは風邪をひきますよ」
「やだ。一緒にいる」
頼むから離れてほしい。
濡れた身体で勝手に風邪をひくのは一向に構わないが、抱きつかれているこちらにも被害が出ているのだ。
じわっと染み込んでくる冷たいものにクシャミをすれば、これまたいったいどうしたことか慌てたように抱き抱えられる。
「な、なに?」
「風邪ひいちゃう!あ、あっためなきゃ。着替え?それとも風呂がいい?あとあったかい飲み物と、布団も……」
クシャミ一つでそれは過保護ではないだろうか。
そもそも濡れているのは縁ではなく彼である。
「私のことはいいですから。貴方が風邪をひいてしまいますよ。早く帰って着替えをーー」
「そ、そうだね早く着替えなきゃ!」
縁の言葉をどう勘違いしたのか分からないが、大変だ大変だと呟き縁片手に走る姿に何も言えないのであった。
それにしてもこの世界の男性はどうしてこうも筋肉質なのだろうか?
ジークたちには劣るがそれなりに身長もあり、細身だが触れてみれば鍛えられていのがよく分かる。
この筋肉を移植する方法はないものか……
状況も忘れ恨めしそうにペチペチと腕を叩けば、鞭を打たれた馬の如く速さが増した。
「お兄さんは見つかったんですか?」
「え?ううん。どっか出かけてるみたい」
話し方が変わっている気がするが、今までのヘラヘラした態度や冷たく笑う彼よりはこちらの方がいい。
それでも身の危険が去ったとは確信できたわけではないので、いつでも反撃出来るように警戒しながらも大人しくしておく。
「これ着替え。風呂もすぐ沸かすから待ってて。あと何か温かい飲み物をーー」
「私より貴方でしょ。やってしまった私が言うことではありませんが、早く温まった方がいい」
渡されたタオルで濡れた頭を拭いてやれば、驚いたのかピクリと肩が揺れた。
「やはりタオルだけじゃダメですね。お風呂どうぞ」
全身びしょ濡れでは少し拭いただけではあまり意味はなかった。
風呂場に追いやろうとするが、腕を掴まれてしまい動けない。
「い、一緒に入ろう?」
「は?嫌ですけど」
何を言っているんだろうか?
「な、なんで?」
「いや、普通に無理でしょ。何故狙われている私が一緒に入らないといけないんですか。さっさと一人で入ってきて下さい」
「やだ!だって…だってオレ入ってる間にどっか行っちゃうでしょ?」
「そりゃ逃げますね」
逆に逃げない人がいるのだろうか?
すでに誘拐犯と被害者の会話とは思えないが、いきなりそんな「いいね、一緒に入ろ!」とはならない。なるわけがない。
「ダメダメダメ。やだ、ならオレも入んない!」
いや、どこの駄々っ子ですか。
「……そうですか。風邪をひかないよう気をつけて下さいね。では私はこれで」
「ダメ!帰っちゃダメ!」
完全に幼稚化している。
貴方は何歳だと聞きたくなるが、それで興味を持たれたと喜ばれるのも癪なので聞いてやらない。
これではずっと静かにしている繋の方がよっぽど大人だと思った縁であった。
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