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気をつけてましょう
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うるさいうるさいうるさい!!
「王女様のおかげで庶民は暮らせているのですよね?ならば貴方様は庶民たちのために何をしたのでしょうか?王様でも王太子殿下でもなく、貴方様が庶民如きの暮らしのために何をしてくれたのでしょう?」
強くはないが、はっきりとした口調でそう言われれば腹が立ち、何も言い返せない自分にも腹が立つ。
庶民のため?私が?なんで庶民ごときのために。
そう思いながらもそう言い返せないのは、それでは先程言った言葉がおかしいと認めなければいけないからだ。
「わ、私は王の娘なのよ。ならお父様がしたことは娘である私がしたことにもなるはずよ。お父様のおかげで貴方たちはこの国で暮らせているの。だから貴方がお父様に尽くすように私の言うことも聞くのは当たり前なのよ」
そう、そうよ!
私に逆らうのはお父様に逆らうのと同じなのよ。
「一つ言っておきますが、私はこの国では暮らしておりません。この国の冒険者ギルドにはお世話にはなっておりますが家どころか、この国の生まれでもありませんので付き従う義務も責任もありません」
「なっ!?」
あっさりと言い返され何も言えなくなる。
何故態々外で暮らしているかは分からないが、国外で暮らす者がこの国に尽くす理由はない。
「もう一つ言わせてもらえば、お父上である王がしたことが貴方様のしたことになるのだとすれば、それはもう貴方に王と同等の権力があるということではありませんか?次期国王だという王太子殿下だけでなく、現国王と同等の権力を貴方様はお持ちなのですか?だとすればこの国にはすでに2人国王がいるということですね。お優しいお兄様はもういらないのでは?」
「………」
ちがう。
私は……私はそんなこと……
もう何を言っていいか分からない。
助けを求めるように兄を見るが、変わらず睨みつけてくる表情に泣きそうになる。
ならばとここへ呼び出した宰相を見るが、呆れたようにこちらを見るだけで助けは期待出来そうにない。
どうすればいい?どうしたら……
「ーーとまぁ、色々言ってはみましたが、何も貴方が全て悪いとは言ってません」
「……え?」
「お兄様にしろ貴方にしろ、子が育つには少なからず親の影響があるということです。貴方はそれが当たり前だと言われ育ったのでしょう?」
そう……言われた。
自分たちは特別なのだ、自分たちは王族なのだ。従うのが当たり前。自分たちが何より正しいのだと。
「だからと言ってそう育つことを選んだのは貴方ですが。王子はそれを自ら考え選んだ結果が今の姿です。何が正しく、何を求めるのか。貴方が知る昔のお兄様と今のお兄様。貴方が尊敬し、好きなのはどちらかのお兄様ですか?」
私は……
昔はどうでもいい存在だった。
その見た目のせいか両親が放っておけという言葉に従い無視し、会えば近寄るなとばかりに嫌味も言った。
それが数年たったある日、突如行方不明になって帰ってきたお兄様は人が変わったようだった。
あれほど周りに怒鳴り散らしていたのにそれがなくなり、今まで散々逃げていた勉学にも励むようになった。
剣も真面目に学ぶようになり、メイドたちはいったいどうしたのかと口々に噂していた。
度々そんな話を聞き、気になって遠目に観察していれば確かに変わったとすぐに分かった。
教育係にきちんと頭を下げ、ありがとうと口にする姿には驚いたものだ。
泥だらけになりながらも文句も言わず兵士たちと汗を流し、鍛えられた肉体に女たちもうっとりしていた。
そうなればもう瞳の色など気になることはなく、妹という立場から近寄ってはみたが何を話していいか分からず碌に会話も出来ず逃げてしまっていた。
そんなお兄様が変わった理由を知れば、エニシとかいうどこの誰かも分からない冒険者らしい。
そんなの許せないと思った。
冒険者如きに自分は負けるのかと排除しようとした結果がこれだ。
「私も……私だってお兄様のためにって…」
「何かしたかったんですよね?ですがそれは言わないと伝わりませんよ」
伝える?伝えるっていってもどうやって?
そんなの誰も教えてくれなかった。
兄妹らしいことなど今まで一度もしたことなければ、家族としても仲良く会話した記憶すらない。
「お兄様が好きですか?」
優しいその声に俯いていた顔を上げる。
「遊んで?と可愛いらしくお願いしてみなさい。今までごめんなさいと謝って、これからは仲良くしてほしいと言えば、今の彼ならきっと分かってくれます」
本当に?怒らない?うるさいって怒鳴らない?
ちゃんと妹だと思ってくれる?
「……お前がエニシさんにしたことは許せないが、もうしないと誓えるなら……その、考えてもいい」
「………………ごめんなさい、ごめんなさいお兄様」
「私よりエニシさんに謝れ」
「ごめんなさい。怪我させてごめんなさい。もうしない」
生まれて始めての謝罪は涙で震えていた。
それでも気持ちは伝わったようで、頭を撫でてくれる手が嬉しくまた涙が溢れるのであった。
「王女様のおかげで庶民は暮らせているのですよね?ならば貴方様は庶民たちのために何をしたのでしょうか?王様でも王太子殿下でもなく、貴方様が庶民如きの暮らしのために何をしてくれたのでしょう?」
強くはないが、はっきりとした口調でそう言われれば腹が立ち、何も言い返せない自分にも腹が立つ。
庶民のため?私が?なんで庶民ごときのために。
そう思いながらもそう言い返せないのは、それでは先程言った言葉がおかしいと認めなければいけないからだ。
「わ、私は王の娘なのよ。ならお父様がしたことは娘である私がしたことにもなるはずよ。お父様のおかげで貴方たちはこの国で暮らせているの。だから貴方がお父様に尽くすように私の言うことも聞くのは当たり前なのよ」
そう、そうよ!
私に逆らうのはお父様に逆らうのと同じなのよ。
「一つ言っておきますが、私はこの国では暮らしておりません。この国の冒険者ギルドにはお世話にはなっておりますが家どころか、この国の生まれでもありませんので付き従う義務も責任もありません」
「なっ!?」
あっさりと言い返され何も言えなくなる。
何故態々外で暮らしているかは分からないが、国外で暮らす者がこの国に尽くす理由はない。
「もう一つ言わせてもらえば、お父上である王がしたことが貴方様のしたことになるのだとすれば、それはもう貴方に王と同等の権力があるということではありませんか?次期国王だという王太子殿下だけでなく、現国王と同等の権力を貴方様はお持ちなのですか?だとすればこの国にはすでに2人国王がいるということですね。お優しいお兄様はもういらないのでは?」
「………」
ちがう。
私は……私はそんなこと……
もう何を言っていいか分からない。
助けを求めるように兄を見るが、変わらず睨みつけてくる表情に泣きそうになる。
ならばとここへ呼び出した宰相を見るが、呆れたようにこちらを見るだけで助けは期待出来そうにない。
どうすればいい?どうしたら……
「ーーとまぁ、色々言ってはみましたが、何も貴方が全て悪いとは言ってません」
「……え?」
「お兄様にしろ貴方にしろ、子が育つには少なからず親の影響があるということです。貴方はそれが当たり前だと言われ育ったのでしょう?」
そう……言われた。
自分たちは特別なのだ、自分たちは王族なのだ。従うのが当たり前。自分たちが何より正しいのだと。
「だからと言ってそう育つことを選んだのは貴方ですが。王子はそれを自ら考え選んだ結果が今の姿です。何が正しく、何を求めるのか。貴方が知る昔のお兄様と今のお兄様。貴方が尊敬し、好きなのはどちらかのお兄様ですか?」
私は……
昔はどうでもいい存在だった。
その見た目のせいか両親が放っておけという言葉に従い無視し、会えば近寄るなとばかりに嫌味も言った。
それが数年たったある日、突如行方不明になって帰ってきたお兄様は人が変わったようだった。
あれほど周りに怒鳴り散らしていたのにそれがなくなり、今まで散々逃げていた勉学にも励むようになった。
剣も真面目に学ぶようになり、メイドたちはいったいどうしたのかと口々に噂していた。
度々そんな話を聞き、気になって遠目に観察していれば確かに変わったとすぐに分かった。
教育係にきちんと頭を下げ、ありがとうと口にする姿には驚いたものだ。
泥だらけになりながらも文句も言わず兵士たちと汗を流し、鍛えられた肉体に女たちもうっとりしていた。
そうなればもう瞳の色など気になることはなく、妹という立場から近寄ってはみたが何を話していいか分からず碌に会話も出来ず逃げてしまっていた。
そんなお兄様が変わった理由を知れば、エニシとかいうどこの誰かも分からない冒険者らしい。
そんなの許せないと思った。
冒険者如きに自分は負けるのかと排除しようとした結果がこれだ。
「私も……私だってお兄様のためにって…」
「何かしたかったんですよね?ですがそれは言わないと伝わりませんよ」
伝える?伝えるっていってもどうやって?
そんなの誰も教えてくれなかった。
兄妹らしいことなど今まで一度もしたことなければ、家族としても仲良く会話した記憶すらない。
「お兄様が好きですか?」
優しいその声に俯いていた顔を上げる。
「遊んで?と可愛いらしくお願いしてみなさい。今までごめんなさいと謝って、これからは仲良くしてほしいと言えば、今の彼ならきっと分かってくれます」
本当に?怒らない?うるさいって怒鳴らない?
ちゃんと妹だと思ってくれる?
「……お前がエニシさんにしたことは許せないが、もうしないと誓えるなら……その、考えてもいい」
「………………ごめんなさい、ごめんなさいお兄様」
「私よりエニシさんに謝れ」
「ごめんなさい。怪我させてごめんなさい。もうしない」
生まれて始めての謝罪は涙で震えていた。
それでも気持ちは伝わったようで、頭を撫でてくれる手が嬉しくまた涙が溢れるのであった。
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