二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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頑張って

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 「ママ!」

 駆け寄ってきた繋を抱き上げれば、何故か後ろにはエルに抱かれた双子とアズの姿も見えた。
 頼んだのは繋だけだったのだが……

 「連れてけって聞かなくて…」

 困り顔のエルに苦笑いしたが、連れてきてくれて感謝する。

 「では真と愛依はエルと遊んでなさい。アズもお願いできますか?」

 「うん!アズ、おにいちゃんだもん」

 ありがとうと頭を撫でてやると、繋を抱え少女がいるという部屋に向かう。

 「繋にお願いです。この部屋にいるお姉ちゃんにいたいのいたいのとんでけってしてあげてくれますか?」

 「たいたいの?」

 「そうです。でもママたちはこわいみたいなので繋が代わりにしてあげてくれますか?」

 「いいよー」

 我が子ながら少々呑気過ぎる気がしたが了承した繋に笑いつつ、少女を驚かせないよう部屋の前で繋を下ろせば怖がることなく中へ入っていく。
 何があるか分からない。
 恐怖のあまり繋に手をあげる可能性もあるが、下手に縁が近づき刺激してしまうのも不味いだろう。




 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
 ちょっとした気分転換のつもりだった。
 いつものように買い物をし、気付けば見知らぬ男たちに抱えられ暗い脇道に引きずり込まれた。
 助けを呼ぼうにも口を押さえられ、それがなくとも恐怖で声が出なかった。
 震えながらも必死に暴れたが、数人いる男たちに女1人では何が出来るはずもなく押さえつけられ服を脱がされそうになる。
 もうダメだとめげそうになった時、ふと男たちの手が止まった。
 
 「この子は貴方たちの奴隷でもなければ、性欲処理するための道具でもない。その汚い手で触れることは許しません」

 凛とした透き通った声にもしかしたら助かるかもしれないと必死に声を抑え身体を小さくする。
 バレませんように、男たちが戻ってきませんようにと心の中で祈っていればまたもや見知らぬ人たちが起こそうとしたのか手を伸ばしてきた手に身体が震えた。
 いやいやいや。
 もうあんな目に合うのはいや。
 何か話しかけられてはいたが拒むように頭を振り離れる。
 しかしこのままにはしておけないと強引ではあったが連れていかれ今こうして知らぬ部屋で蹲っている。
 怖い怖い怖い。
 ただ何もかもが恐怖でしかなく逃げようにもどうしていいか分からない。
 どうしようと纏まらぬ頭で考えていれば、コンコンという扉を叩く音と共に開いた戸からひょこっと女の子が顔を出した。

 「ねーね、たいたいの?」

 明らかに自分より年下であるその女の子は目の前までくると、震える私の頭を撫でてきた。

 「たいたい?」

 場違いなほど呑気なその声に全身の力が抜ける。
 男たちには頑張っても無理だったが、子どもならばいくら自分でも抵抗は出来ると思ったのもあるかもしれない。

 「た、たいたいって?」

 思いきって聞いてみるが女の子は分からなかったのかコテンと首を傾げていた。

 「ねーね、たいたい?」

 頑張って伝えようとしてくれているのが分かり、何とか解読しようとする。

 「ねーねとは私のことかしら?」

 ニコッと笑う女の子に正解だと分かった。

 「え、えーと、たいたいというのは…痛いところ?」

 うんうんと頷く姿に分かって良かったと思ったが、こんな小さい子どもに言ってどうにかなるものだろうか?

 「あ、あの……足が少し。あと腕が……」

 それでも繰り返し聞いてくる女の子に答えぬのは申し訳ないとダメ元で言ってみる。

 「いたいのいたいのとんでけー、ねーねのいたいのとんでけー」

 可愛いらしい声と共に痣になっていた腕に小さな手が触れ撫でられる。

 「あ、ありがとう。大丈夫よ。これぐらーーえ?」

 女の子の優しさに痛みはあれど我慢できないほどではないと言おうとしたが、ふとその痛みが消えたこと驚き目を見張る。

 「いたいのいたいのとんでけー」

 今度は赤く腫れる足を撫でられたかと思えばスッと痛みが引き腫れもなくなっていた。

 「ないないした?」

 「え?あ、あの、だ、大丈夫。ありがとう?」

 「ママーー。ねーね、ないないしたー」

 可愛いらしくにっこり笑うと出来たとばかりに両手を上げ駆けていった。
 何が起こったか分からず、ぽけっと女の子が出て行った戸を見つめていれば、これまたひょこっと女の子が顔を出した。

 「ママいーい?」

 「え?マ、ママ?は、はい」

 咄嗟に返事をしてしまったが、誰か入ってくるのだと分かり身体を固くする。

 「こんにちは。驚かせてすいません」

 そう言って入ってきた男の人は先程の女の子によく似た顔だった。

 「私はエニシと言います。この子が娘のケイです。痛いところはもうないですか?」

 心配そうに言われ首を振れば良かったと笑う。
 男の人は部屋に入ってはきたが、入り口辺りから動かずこちらに近寄ってこようとはしない。
 怖がる自分のことを想ってだろう。
 
 「ごめんね」

 「え?」

 何を謝られたのか分からない。

 「私がもう少し早く気づいていればこんな怖い思いせずに済んだでしょう。助けるのが遅れてごめんなさい」

 その言葉であの時自分を助けてくれたのが彼だと分かった。
 よく聞いてみれば、今は柔らかいその声もあの時聞いた声だ。

 「怖かったでしょう?もう大丈夫です。ここにはもうあの男たちはいません。貴方を傷つける人はいません。だからーーもう我慢しなくていいんですよ?」

 優しく語りかけるようなその声に張りつめていた糸が切れた。
 こぼれ落ちる涙を拭く余裕もなく、震える手を伸ばせば優しくその手を握られる。

 「よく頑張りましたね。大丈夫、もう全て終わったんです」

 もう終わったんだと、もう怖がる必要はないんだと撫でられる手に声を上げて泣くのだった。
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