二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
267 / 475

子どもたちのために

しおりを挟む
 「貴方は私の女神だっ!」

 「…………残念ですが男です」

 感動に手を広げ今にも抱きついて来ようとしているが、それを止めるようにジンが後ろから襟首を掴まえてくれているためその手が届くことは一生ないだろう。

 「いえ!貴方は女神……いえ神だ!貴方に出会えたことに感謝をーーーってこら、いい加減離せ」

 「誰が離すか。うちの孫に触れたら殺す」

 気心知れた仲のようではあるが少々会話が物騒である。

 「ふっ、そんな脅し文句でこの私がーーちょっ、締まってる!締まっ、ぐぇ」

 なんだかなぁ。
 どうしたものかと背後にいるマーガレットを振り返れば呆れたような表情でポンポンと隣の席を叩いていた。
 ならばと隣に腰掛ければ、逆にマーガレットが立ち上がりーー
 ガツンッ!!
 ぶつかり合う額同士に自分がされたわけでもないのに痛みに声がでそうになった。

 「いい加減にしなっ!話しが進まないだろ!」

 いつの時代も女性は強し。
 揺れる頭に2人が倒れ込むのを心配しながら見守る。
 
 「うぅ、いたたた。す、すまない、あまりの感動に我を忘れていた。えーと、エニシくんだったね。驚かせてしまって申し訳ない」

 意外にも石頭だったようだ。
 未だ床に沈むジンとは違い男は数回頭を振ると元の状態に戻っていた。

 「それで……なんだったかな。ああ、そう、ミソの販売の話しだったね。喜んで引き受けるよ」

 「ありがとうございます」

 商人とは……こういうものなのだろうか?
 とりあえず話しを受けてもらえたことに感謝し、大まかに話しをつめていく。
 最初こそ何だこれとばかりに首を捻っていたが、その使い方などを縁が説明すれば怖ろしいほど喜んでくれた。

 「これほど素晴らしいものを今まで知らなかったとは商人として何と恥ずかしいことか!いや、むしろ今知れたことに感謝し新たな時代を切り開くのが私の役目!そしてそれを伝授して下さった貴方様こそーー」

 と、冒頭に続くわけだがマーガレットたちに聞いていた通り随分………愉快な人だった。

 「それでなんだが本当に私の商会だけでの独占販売で構わないのだろうか?こちらとしては助かるが、後でやはり別のところと契約したいと言われてはーー」

 「構いません。作れると言っても量は限られていますし、増やせと言われて増やせるものでもありません。何よりこのお2人が信頼出来ると紹介して下さったのが貴方ならば貴方にお願いしたいんですククルさん」

 この話しで一番大切なのが信頼関係だった。
 確かに商会に卸せる量も問題ではあったが、何より大切なのは子どもたちの安全な未来。
 その上で子どもたちが無理なく作れ、それを理解し悪用しない信頼出来る人を2人には頼んだ。
 独占販売にしたのもその方が子どもたちを守ってくれると思ったからだ。
 汚いことを考える大人というのは世界が変わろうがどこにでもいる。
 下手に見知らぬ店に卸しても、それを元に量産しろ、作り方を教えろと襲われてはかなわない。
 作り手である子どもたちを守りたいという縁の願いにマーガレットたちが選んだのがこの商会だったのだ。

 「子どもたちには定期的にお金が入り、貴方もまた新たな商品が手に入り商売が出来る。いかがでしょう?」

 「そこまで言われて断わるなど出来るはずがない。こちらこそ宜しくお願いします」

 子どもたちの所へは商会長である彼自ら買い付けに行ってくれるらしい。
 それほどしてくれるというならばと縁は鞄からを取り出す。

 「私の故郷でもあった醤油というものです。味噌と同じで使い方は多くあります。もし可能であればこちらもこの商会で扱ってほしいのですが」

 「なんと!まだそんな隠し玉があったとは!」

 「ただ私も作り方まではよく分かっていません。なのでこれを元に生産販売をお願い出来ませんでしょうか?」

 「喜んでっ!」

 笑顔で受け取ってくれたククルに胸を撫で下ろしつつ、醤油の美味しさを伝えるため念のため用意しておいたご飯を皆で食べるのだった。

 「これは何と奥深い味わい。これだけ少量にもかかわらずこの存在感。これは売れますよ!必ず私の手で作り上げてみせます!」

 感動に震え再び抱きついてこようとしたが、ジンがそれを許すはずもマーガレットが黙っているはずもなく2人仲良く再び地面と仲良しになっているのだった。

 「あ、これアズと一緒に作ったチーズなんですけど良かったらどうぞ」

 「随分変わった色だね」

 遅くなったがお土産だとマーガレットに渡せば、見たことない色と形に首を傾げていた。

 「山羊のお乳で作りました」

 「「………ヤギ?」」
 「ヤギですって!?」

 驚く3人に物は試しとパンにチーズを乗せ渡してみる。
 クセが気になるかもしれないと念のため蜂蜜も一緒にかけておいた。

 「美味いね」
 「これがヤギか…」
 「~~~~っ、やはり貴方は私の女神だったっ!」

 「男です」

 もうこのやりとりにも慣れた縁であった。
 

 

 

 

 

しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

処理中です...