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気がつく
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小さな手で渡されたのはクッキーが数枚入った包み。
「ケイつくったの。どうぞ」
彼によく似た顔で笑いながら渡されたそれに、ああ可愛いというのはこういうことかと理解した。
子どもなど手がかかる上、説明しても理解するまで時間がかかる面倒な生き物だと思っていた。
今でもそれは少なからず思ってはいるが、あの小さな手で自分のためにと一生懸命作ってくれたのかと思えばいくらレオナルドでも何も感じないわけがない。
全ての子どもにそれが当て嵌まるわけではないが、あの子どもに関しては親が親であるため心から嬉しく思えた。
「以前一緒に遊んでくれたお礼に渡したいと言ったので」
「私は遊んだ覚えがないのだが……」
どう考えても自分はあの子に喜んでもらえるようなことをしてあげた記憶がない。
「一緒にご飯を食べて抱っこもしてくれたでしょ?」
そんなことでいいのかと思った。
そんなことで喜んでくれお礼にとクッキーを渡してくれるのかと信じられなかったが、あの笑顔に嘘はきっとないだろう。
彼らが帰り執務室でもらった包みを開いてみれば、なるほどあの小さな手で作ってくれたのだと分かる小さめのクッキーが数枚入っていた。
以前食べたエニシが作ってくれたものより形はよくなかったが、あの歳で作ったにしては上出来だろう。
一口食べてみれば、懐かしさを感じるのはやはりエニシの作る味に慣れてしまっているからだろう。
以前冗談で餌付けされているのかと言ったことはあったが、あれは間違ってなかったのかもしれない。
疲れた身体に甘いものが染みる。
羨ましそうな顔をしているラックにも渡されていたクッキーをやれば、いい音を鳴らしながら美味しそうに食べていた。
ラックが来て早数ヶ月。
邪魔だと感じたことは一度もない。
もう膝に乗せるには難しいくらい大きくはなったが、時々撫でろとばかりに膝に頭を乗せてくるのも面倒とは感じず、その温かさに癒される。
何よりレオナルドのことをしっかりと見て動いている……気がする。
食事の時間が遅れればまだかと催促はするが、レオナルドも食べ始めないことにはラックも食べずに待っている。
仕事を始めれば大人しく隣に横になっているか、気が向けば訓練所で遊んでいるらしい。
最近は鼻もかなり鋭くなってきたらしく、種類の毒をいくつか教えているとフレックが報告してきていた。
「私はお前のいい主人になれているだろうか?」
「ガゥ?」
狼相手に何を言っているんだと思うが、折角自分にこれほど懐いてくれているのにその本人が何もしないというのもどうかと思ったのだ。
「彼が言った通りだな。お前のためではなく、私のためだった」
面倒なことを押し付けられたかもしれないと最初こそ思ったが、ラックのおかげでそれなりに規則正しい生活をおくれている。
悔しいがエニシが言っていた通りだった。
「おう、邪魔するぞぅ」
「邪魔をするなら帰れ」
「おぬしの都合など儂が聞くわけなかろう」
くたばれクソジジイ。
折角のクッキーだが渡したくなくなってきた。
「エニシが来ておったようじゃのぅ。儂に土産は?」
「ないな」
「何っ!?」
嘘は言っていない。
エニシからはもらっていないのだから。
ニヤニヤと様子を窺っていれば……
「儂に会わずして一体誰に会いに来たんじゃ!」
すごいなこのジジイ。
すごい自意識過剰だ。
エニシがアルバトロスに会いに城に来たことなど数えるほどないというのに。
これはあの子にも嫌われるはずだと呆れた。
「代わりと言ってはなんだが彼の子がアンタにこれを置いていってくれたぞ」
呆れるあまりこれ以上焦らすのも馬鹿らしく思え、預かっていた包みを渡してやる。
「何じゃ?」
「クッキーだ。あの子が自分で作ったらしい。アンタに渡してくれと」
本当はマルズスに渡さなかったおこぼれなのだが、それはあまりに哀れなので黙っておく。
「何じゃと!?儂にか?ほほほほほほほ」
ジジイがいかれたらしい。
奇妙な笑い声を上げながらクッキーを掲げ踊っている。
「他に用がないならさっさと帰ーー」
「ん?ちょっと待て。エニシの子と言ったがどの子のことじゃ?」
「は?」
どの子?……とは?
レオナルドが知っているのはケイと呼ばれた女の子だけなのだが……
「彼はそんなに子がいるのか?」
「知らんかったのか?4人もおるぞ。1人は血が繋がっておらぬようじゃが繋とはまた別にあと2人も…………そういうことか」
何か知らぬが途中で言葉を止め頷くジジイに腹が立つ。
「……何だ?」
「あの子も随分心配症じゃのぅ」
意味が分からない。
何やら訳知り顔でレオナルドを見ながら頷くアルバトロスにどういうことかと聞くが、どうしようかのぅとニヤニヤと楽しそうだ。
「子が多いことくらい別に問題はないだろう?」
「そこじゃないわい。まぁ、儂が勝手に教えてはあの子に悪いからの。知りたいなら本人に聞くことじゃ。じゃがなーー」
それまでのからかいを含んだ表情を消しアルバトロスが見せてたのは……
「おぬしなら大丈夫だと思うが知ったところであの子を責めてやるな。そんなことをすればおぬしは全てを失うぞ」
「…………」
悲しそうな、しかし何か願うような複雑な表情に何も言えなかった。
「あの子のことだ、ただ言うのを忘れとるだけかもしれんが、わざと黙っているのだとすればおぬしのことをそれなりに気に入っておるからじゃろ。失いたくないと思っておるからこそ言ってないだけじゃ」
それだけ言い残し去っていったアルバトロスに何も返すことは出来ないのだった。
「ケイつくったの。どうぞ」
彼によく似た顔で笑いながら渡されたそれに、ああ可愛いというのはこういうことかと理解した。
子どもなど手がかかる上、説明しても理解するまで時間がかかる面倒な生き物だと思っていた。
今でもそれは少なからず思ってはいるが、あの小さな手で自分のためにと一生懸命作ってくれたのかと思えばいくらレオナルドでも何も感じないわけがない。
全ての子どもにそれが当て嵌まるわけではないが、あの子どもに関しては親が親であるため心から嬉しく思えた。
「以前一緒に遊んでくれたお礼に渡したいと言ったので」
「私は遊んだ覚えがないのだが……」
どう考えても自分はあの子に喜んでもらえるようなことをしてあげた記憶がない。
「一緒にご飯を食べて抱っこもしてくれたでしょ?」
そんなことでいいのかと思った。
そんなことで喜んでくれお礼にとクッキーを渡してくれるのかと信じられなかったが、あの笑顔に嘘はきっとないだろう。
彼らが帰り執務室でもらった包みを開いてみれば、なるほどあの小さな手で作ってくれたのだと分かる小さめのクッキーが数枚入っていた。
以前食べたエニシが作ってくれたものより形はよくなかったが、あの歳で作ったにしては上出来だろう。
一口食べてみれば、懐かしさを感じるのはやはりエニシの作る味に慣れてしまっているからだろう。
以前冗談で餌付けされているのかと言ったことはあったが、あれは間違ってなかったのかもしれない。
疲れた身体に甘いものが染みる。
羨ましそうな顔をしているラックにも渡されていたクッキーをやれば、いい音を鳴らしながら美味しそうに食べていた。
ラックが来て早数ヶ月。
邪魔だと感じたことは一度もない。
もう膝に乗せるには難しいくらい大きくはなったが、時々撫でろとばかりに膝に頭を乗せてくるのも面倒とは感じず、その温かさに癒される。
何よりレオナルドのことをしっかりと見て動いている……気がする。
食事の時間が遅れればまだかと催促はするが、レオナルドも食べ始めないことにはラックも食べずに待っている。
仕事を始めれば大人しく隣に横になっているか、気が向けば訓練所で遊んでいるらしい。
最近は鼻もかなり鋭くなってきたらしく、種類の毒をいくつか教えているとフレックが報告してきていた。
「私はお前のいい主人になれているだろうか?」
「ガゥ?」
狼相手に何を言っているんだと思うが、折角自分にこれほど懐いてくれているのにその本人が何もしないというのもどうかと思ったのだ。
「彼が言った通りだな。お前のためではなく、私のためだった」
面倒なことを押し付けられたかもしれないと最初こそ思ったが、ラックのおかげでそれなりに規則正しい生活をおくれている。
悔しいがエニシが言っていた通りだった。
「おう、邪魔するぞぅ」
「邪魔をするなら帰れ」
「おぬしの都合など儂が聞くわけなかろう」
くたばれクソジジイ。
折角のクッキーだが渡したくなくなってきた。
「エニシが来ておったようじゃのぅ。儂に土産は?」
「ないな」
「何っ!?」
嘘は言っていない。
エニシからはもらっていないのだから。
ニヤニヤと様子を窺っていれば……
「儂に会わずして一体誰に会いに来たんじゃ!」
すごいなこのジジイ。
すごい自意識過剰だ。
エニシがアルバトロスに会いに城に来たことなど数えるほどないというのに。
これはあの子にも嫌われるはずだと呆れた。
「代わりと言ってはなんだが彼の子がアンタにこれを置いていってくれたぞ」
呆れるあまりこれ以上焦らすのも馬鹿らしく思え、預かっていた包みを渡してやる。
「何じゃ?」
「クッキーだ。あの子が自分で作ったらしい。アンタに渡してくれと」
本当はマルズスに渡さなかったおこぼれなのだが、それはあまりに哀れなので黙っておく。
「何じゃと!?儂にか?ほほほほほほほ」
ジジイがいかれたらしい。
奇妙な笑い声を上げながらクッキーを掲げ踊っている。
「他に用がないならさっさと帰ーー」
「ん?ちょっと待て。エニシの子と言ったがどの子のことじゃ?」
「は?」
どの子?……とは?
レオナルドが知っているのはケイと呼ばれた女の子だけなのだが……
「彼はそんなに子がいるのか?」
「知らんかったのか?4人もおるぞ。1人は血が繋がっておらぬようじゃが繋とはまた別にあと2人も…………そういうことか」
何か知らぬが途中で言葉を止め頷くジジイに腹が立つ。
「……何だ?」
「あの子も随分心配症じゃのぅ」
意味が分からない。
何やら訳知り顔でレオナルドを見ながら頷くアルバトロスにどういうことかと聞くが、どうしようかのぅとニヤニヤと楽しそうだ。
「子が多いことくらい別に問題はないだろう?」
「そこじゃないわい。まぁ、儂が勝手に教えてはあの子に悪いからの。知りたいなら本人に聞くことじゃ。じゃがなーー」
それまでのからかいを含んだ表情を消しアルバトロスが見せてたのは……
「おぬしなら大丈夫だと思うが知ったところであの子を責めてやるな。そんなことをすればおぬしは全てを失うぞ」
「…………」
悲しそうな、しかし何か願うような複雑な表情に何も言えなかった。
「あの子のことだ、ただ言うのを忘れとるだけかもしれんが、わざと黙っているのだとすればおぬしのことをそれなりに気に入っておるからじゃろ。失いたくないと思っておるからこそ言ってないだけじゃ」
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