341 / 475
お互いに
しおりを挟む
「それにしても本当に不思議ね。あの人も獣人ではあったけど姿は変えられなかったわ」
「そうですね。私もこの子以外に見たことはありません」
どうしてそうなかったのか、もしかしたらアレンたちにも可能なのかは分からないが確かに今までこんなこと見たことはない。
「でも随分縁さんに懐いているみたいだけど本当にいいの?」
「実は…子どもが出来たんです。今お腹の中にいるんですけど、これからこの子にかかりきりになると思うのでどうしてもこの子のことまで見てられるか不安がありまして…」
カイ自身は納得しているのかといえば、納得はしていない。
やはり縁の側にいたいと言ったカイにならばと条件を出したのだ。
「この子が産まれて落ち着くまで、その間だけでもいいので待っていてくれませんか?」
縁とて嫌がるカイに無理強いしたいわけではない。
どうしても嫌だと言うのであれば仕方がないが、もしかしたら人と手を取り合えるいい機会になるかもしれないと期待はしていた。
「カイがどうしても他の子たちと合わないと言うのであれば迎えに来ますから。ここで生活してみて、私と同じようにカイを受け入れてくれる人間もいるんだと知ってほしいんです。全てが全て人間は敵なのではないと知ってほしい」
「おいていかない?」
本当に迎えに来てくれるのかと不安なのだろう。
「どう言うのが正しいのか分かりませんが、カイが嫌いで置いて行こうとしているわけではないんです。君の世界を私だけで終わらせてほしくない。けどそれがカイの望むものなのか、受け入れられないと首を振るなら絶対に迎えに来ます」
カイへ、人と手を取り合って欲しいという希望。
子どもたちへ、獣人への恐怖と蔑みをなくして欲しいという希望。
「カイがいてくれたから私も、お腹の子も無事でした。カイが助けてくれたから今こうして笑っていられる。だからカイにも幸せになってほしい。色んな人と話して、たくさん友達と遊んで、たくさん美味しいものを食べて、毎日楽しいと笑ってほしいんです」
縁に懐いてくれたのは嬉しい。
だが縁を頼り、その他を拒絶していては何も変わらない。
縁が望む通りにならなくても構わないが、何か変わるきっかけにでもなってくれたらと思いはしている。
「色んなものを見て、色んな人と話して、色んなことを考えて、それでももし私といたいと言うのであればその時は迎えに来ます。約束します」
どれだけ縁が望んでも出来ることと出来ないことがある。
カイが望まないならそれを無理強いはしない。
おいでと手を伸ばせば抱きついてきた小さな身体をギュッと抱きしめてやる。
「カイのことが好きだから幸せになってほしい。カイのことが好きだから笑って欲しいんです」
そのために今は少し我慢してほしいと言えば、漸く頷いてくれたのだった。
「あの子たちならきっと大丈夫だと思うわ。ただ戸惑っているだけなのよ」
彼女の言う通り、見たことはあっても自分たちで獣人を買ったことも使ったこともない子どもたちは確かに戸惑っているのだろう。
「きっと貴方以外の人が連れて来てたらこうはいかなかったわ。エニシさんが連れて来たから子どもたちは戸惑ってはいるけど、泣きも怒りもしていないのよ」
それだけ子どもたちの中で縁は信頼が厚いのだと言う。
昔が嘘のように大変だが楽しい毎日をくれた縁を彼らは信頼してくれている。
「みんなエニシさんが大好きなのよ。そう、あの子だって最近毎日のように次はいつ来るのって聞いてきて可愛いったらないわ」
「あの子?」
誰のことだと聞けば、笑って向けられた方向に顔を向けーー
「少し見ない間に大きくなりましたね、サウル」
おいでと手招きすれば、アレンに少し警戒しながらも近寄ってくる。
暫く会わない内に身長も伸び、肉付きもよくなっていた。
「会いに来るのが遅れてごめんなさい。元気にしていましたか?」
「……うん」
素っ気ない返事だが、以前のようにこちらを警戒する態度も睨みつけるような目もしていない。
むしろどこか拗ねているような態度に、どうやらかなり待たせ過ぎてしまったようだと反省した。
「よかった」
先程まで畑仕事でもしていたのか頬に付いていた土を払ってやると、頑張っているようで何よりと頭を撫でてやる。
その手を払いのけることもせず受け入れる姿に微笑む。
「今でも十分頑張ってくれている君に頼むのは申し訳ないですが、この子を任せてもいいですか?」
「そいつ、じゅうじんだろ?」
当たり前だが、先程の変身する姿も揺れる耳と尻尾も彼はずっと見ていたのだ。
「こわい、ですか?」
その姿を珍しそうに見ながらも彼は首を振った。怖くはないと。
「耳と尻尾。少し君たちと違いますがそれだけです。君たちを傷付けるつもりも襲いかかることもありません」
「アンタが連れてきたんだ。そんなこと思ってない。けど使えないやつなら追い出すから」
言い方はいいとは言えないが、素直にいいよと言えない彼なりの言葉なのだろう。
「君ならそう言ってくれると思いました。ありがとう」
人は成長する生き物だとはよくいったものだ。
「そうですね。私もこの子以外に見たことはありません」
どうしてそうなかったのか、もしかしたらアレンたちにも可能なのかは分からないが確かに今までこんなこと見たことはない。
「でも随分縁さんに懐いているみたいだけど本当にいいの?」
「実は…子どもが出来たんです。今お腹の中にいるんですけど、これからこの子にかかりきりになると思うのでどうしてもこの子のことまで見てられるか不安がありまして…」
カイ自身は納得しているのかといえば、納得はしていない。
やはり縁の側にいたいと言ったカイにならばと条件を出したのだ。
「この子が産まれて落ち着くまで、その間だけでもいいので待っていてくれませんか?」
縁とて嫌がるカイに無理強いしたいわけではない。
どうしても嫌だと言うのであれば仕方がないが、もしかしたら人と手を取り合えるいい機会になるかもしれないと期待はしていた。
「カイがどうしても他の子たちと合わないと言うのであれば迎えに来ますから。ここで生活してみて、私と同じようにカイを受け入れてくれる人間もいるんだと知ってほしいんです。全てが全て人間は敵なのではないと知ってほしい」
「おいていかない?」
本当に迎えに来てくれるのかと不安なのだろう。
「どう言うのが正しいのか分かりませんが、カイが嫌いで置いて行こうとしているわけではないんです。君の世界を私だけで終わらせてほしくない。けどそれがカイの望むものなのか、受け入れられないと首を振るなら絶対に迎えに来ます」
カイへ、人と手を取り合って欲しいという希望。
子どもたちへ、獣人への恐怖と蔑みをなくして欲しいという希望。
「カイがいてくれたから私も、お腹の子も無事でした。カイが助けてくれたから今こうして笑っていられる。だからカイにも幸せになってほしい。色んな人と話して、たくさん友達と遊んで、たくさん美味しいものを食べて、毎日楽しいと笑ってほしいんです」
縁に懐いてくれたのは嬉しい。
だが縁を頼り、その他を拒絶していては何も変わらない。
縁が望む通りにならなくても構わないが、何か変わるきっかけにでもなってくれたらと思いはしている。
「色んなものを見て、色んな人と話して、色んなことを考えて、それでももし私といたいと言うのであればその時は迎えに来ます。約束します」
どれだけ縁が望んでも出来ることと出来ないことがある。
カイが望まないならそれを無理強いはしない。
おいでと手を伸ばせば抱きついてきた小さな身体をギュッと抱きしめてやる。
「カイのことが好きだから幸せになってほしい。カイのことが好きだから笑って欲しいんです」
そのために今は少し我慢してほしいと言えば、漸く頷いてくれたのだった。
「あの子たちならきっと大丈夫だと思うわ。ただ戸惑っているだけなのよ」
彼女の言う通り、見たことはあっても自分たちで獣人を買ったことも使ったこともない子どもたちは確かに戸惑っているのだろう。
「きっと貴方以外の人が連れて来てたらこうはいかなかったわ。エニシさんが連れて来たから子どもたちは戸惑ってはいるけど、泣きも怒りもしていないのよ」
それだけ子どもたちの中で縁は信頼が厚いのだと言う。
昔が嘘のように大変だが楽しい毎日をくれた縁を彼らは信頼してくれている。
「みんなエニシさんが大好きなのよ。そう、あの子だって最近毎日のように次はいつ来るのって聞いてきて可愛いったらないわ」
「あの子?」
誰のことだと聞けば、笑って向けられた方向に顔を向けーー
「少し見ない間に大きくなりましたね、サウル」
おいでと手招きすれば、アレンに少し警戒しながらも近寄ってくる。
暫く会わない内に身長も伸び、肉付きもよくなっていた。
「会いに来るのが遅れてごめんなさい。元気にしていましたか?」
「……うん」
素っ気ない返事だが、以前のようにこちらを警戒する態度も睨みつけるような目もしていない。
むしろどこか拗ねているような態度に、どうやらかなり待たせ過ぎてしまったようだと反省した。
「よかった」
先程まで畑仕事でもしていたのか頬に付いていた土を払ってやると、頑張っているようで何よりと頭を撫でてやる。
その手を払いのけることもせず受け入れる姿に微笑む。
「今でも十分頑張ってくれている君に頼むのは申し訳ないですが、この子を任せてもいいですか?」
「そいつ、じゅうじんだろ?」
当たり前だが、先程の変身する姿も揺れる耳と尻尾も彼はずっと見ていたのだ。
「こわい、ですか?」
その姿を珍しそうに見ながらも彼は首を振った。怖くはないと。
「耳と尻尾。少し君たちと違いますがそれだけです。君たちを傷付けるつもりも襲いかかることもありません」
「アンタが連れてきたんだ。そんなこと思ってない。けど使えないやつなら追い出すから」
言い方はいいとは言えないが、素直にいいよと言えない彼なりの言葉なのだろう。
「君ならそう言ってくれると思いました。ありがとう」
人は成長する生き物だとはよくいったものだ。
55
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる