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今日はまだ…
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それから数日、悪阻が酷くベッドとトイレの往復だった。
食べたはしから吐き気が込み上げ、全て出しても治まらぬ吐き気に体力が徐々に奪われていく。
寝たきりのような生活に、しかしこのままではマズいだろうと幾分暑さが抑えられる夜に外に出るとアレンに散歩に付き合ってもらった。
「気分は?」
「大丈夫そうです。あぁ今日は月が綺麗ですね」
ふと月夜に浮かぶそれを見て呟いたが、昔にその言葉に他にも意味があると教えてもらったことを思い出した。
「昔……母に教えてもらったんですけど、月が綺麗ですねって言葉は貴方を愛してますという意味があるらしいですよ」
「なんだそれ。普通に愛してるじゃだめなのか?」
意味が分からんと不思議そうなアレンに声を上げて笑う。
確かに。それは奥ゆかしい日本人がそのまま言葉にするのを躊躇い遠回しに言った言葉だろう。
愛情深く、躊躇うことなく真っ直ぐに愛を伝える獣人には考えられないことに違いない。
縁もそれを聞いた時意味が分からなかったが、歳をとり人に想いを伝えることが恥ずかしいと感じ始めた時にああこういうことかと何となく理解することが出来た。
だが今は……
「私もそんな言葉よりアレンに愛してると言葉にしてもらえる方が嬉しいですね」
「愛してる」
即座にそう返してきたアレンに笑う。
「ありがとう。私もアレンを愛してますよ」
何より嬉しく心が温かくかる。
満足そうに頷くアレンと手を繋ぎゆっくりと庭を歩いて回っていれば、前方からこれまた過保護なフェンリルにもう家に入るよう言われた。
「夜は冷える。子どもたちも待っているぞ」
「はいはい。リルに言われたら仕方ありませんね。子どもたちが探しに来る前に入ります」
子どもたちが風呂に入っている間だけと庭に出ていたのだが、もう時間のようだ。
「そういえば今日リルが獲ってきてくれた実美味しかったです。ありがとう」
たぶんグレープフルーツだとは思うが、辛い吐き気の中スッキリする味わいに最後まで吐くことなく食べることが出来た。
「そうか。ならばまた獲ってこよう。だからお主は家で大人しくしておれ」
「はーい」
「ははははははっ、親子みてぇ」
アレンにリルの言葉は聞こえていないが、何となく2人の様子からどんな会話をしているのか察したらしい。
リルを実の両親と比べたことも代わりだって思ったことはなかったが、まるでそう見えたというなら純粋に嬉しかった。
「リルも大好きですよ」
「そうか」
出会い方はあれだったが、もうリルは縁の家族の1人であり失くせない存在だ。
小さくなれば子犬のようで可愛らしいのに、中身は過保護な番たちと同じく縁に甘く厳しい親のようだ。
「本当ですよ?リルがだーい好きです」
「分かった分かった。我も大好きだぞ」
おざなりな言い方ではあるが、リルが本当は縁を大切にしてくれているのは分かっている。
悪阻が酷く苦しむ縁に少しでも食べられればと日々色々な果物を獲ってきてくれたりするのもその1つだ。
こうして多くの愛情に包まれる日々は幸せで少し……怖い。
「リルは今幸せですか?」
「……ああ。幸せだ」
縁のいきなりの質問に驚きながらも力強くそう答えてくれたリルに微笑む。
無理だとは分かっていても自分の周りにいる人には幸せでいて欲しいと願っている。
人によっては幸せの定義はそれぞれだが、躊躇うことなく答えたリルは本当にそう思ってくれているのだろう。
「俺も幸せだぞ」
何か感じとったのかアレンがそう言い握る手に力がこもった。
嬉しさに泣きそうになり手を伸ばせば強く抱きしめられ抱え上げられた。
「私も幸せです。みんなが、みんなのことが大好きなんです」
「分かってる。縁がそう思ってくれてるのをみんなも分かってるから大丈夫だ」
最近よく感じる不安は妊娠しているせいなのかはよく分からないが、その度みんなが大丈夫だと呆れることなく応えてくれる。
「子どもが産まれたらまたみんなで海にでも行くか。いや、久しぶりにダンジョンにでも行くか。あそこになってたキノコ縁好きだったろ」
「ええ。知ってます?セイン、野菜の中でもとくにキノコが苦手なんですよ」
ふふふと笑いながらもこっそりと教えれば、それは良いことを聞いたとアレンがニヤリと笑った。
繋と同じく少しずつ野菜の好き嫌いを減らしてきているセインだが、やはりどうしても苦手なものはそう簡単になくなりはしない。
それまでの思いつめたような暗い雰囲気から人の好き嫌い暴露話しに笑い合う。
「エルのトマト嫌いは治りつつありますね。サラダじゃなければちゃんと食べられるんですよ」
「他にも色々あったけどな。あれはただ単に食わず嫌いだったんだろうな」
出会った頃に嫌いなのはトマトとしか言わなかったエルだが、家族で食卓を囲むにつれ食べられないと言うものがちらほらあった。
だが何故ダメなのかと聞いた時に「なんとなく」「見た目が」など食べたこともないのにきっと食べられないと理由が多く、どうにか一口だけと縁がお願いして漸く食べれば美味しいと気付き今では当初の話し通りトマトだけになったのだ。
「自分が美味しいと思うものをみんなも美味しいと食べてくれるのは嬉しいですしね」
美味しいものを食べ、みんなで美味しいねと言い合えるのは幸せですねと3人で笑うのだった。
食べたはしから吐き気が込み上げ、全て出しても治まらぬ吐き気に体力が徐々に奪われていく。
寝たきりのような生活に、しかしこのままではマズいだろうと幾分暑さが抑えられる夜に外に出るとアレンに散歩に付き合ってもらった。
「気分は?」
「大丈夫そうです。あぁ今日は月が綺麗ですね」
ふと月夜に浮かぶそれを見て呟いたが、昔にその言葉に他にも意味があると教えてもらったことを思い出した。
「昔……母に教えてもらったんですけど、月が綺麗ですねって言葉は貴方を愛してますという意味があるらしいですよ」
「なんだそれ。普通に愛してるじゃだめなのか?」
意味が分からんと不思議そうなアレンに声を上げて笑う。
確かに。それは奥ゆかしい日本人がそのまま言葉にするのを躊躇い遠回しに言った言葉だろう。
愛情深く、躊躇うことなく真っ直ぐに愛を伝える獣人には考えられないことに違いない。
縁もそれを聞いた時意味が分からなかったが、歳をとり人に想いを伝えることが恥ずかしいと感じ始めた時にああこういうことかと何となく理解することが出来た。
だが今は……
「私もそんな言葉よりアレンに愛してると言葉にしてもらえる方が嬉しいですね」
「愛してる」
即座にそう返してきたアレンに笑う。
「ありがとう。私もアレンを愛してますよ」
何より嬉しく心が温かくかる。
満足そうに頷くアレンと手を繋ぎゆっくりと庭を歩いて回っていれば、前方からこれまた過保護なフェンリルにもう家に入るよう言われた。
「夜は冷える。子どもたちも待っているぞ」
「はいはい。リルに言われたら仕方ありませんね。子どもたちが探しに来る前に入ります」
子どもたちが風呂に入っている間だけと庭に出ていたのだが、もう時間のようだ。
「そういえば今日リルが獲ってきてくれた実美味しかったです。ありがとう」
たぶんグレープフルーツだとは思うが、辛い吐き気の中スッキリする味わいに最後まで吐くことなく食べることが出来た。
「そうか。ならばまた獲ってこよう。だからお主は家で大人しくしておれ」
「はーい」
「ははははははっ、親子みてぇ」
アレンにリルの言葉は聞こえていないが、何となく2人の様子からどんな会話をしているのか察したらしい。
リルを実の両親と比べたことも代わりだって思ったことはなかったが、まるでそう見えたというなら純粋に嬉しかった。
「リルも大好きですよ」
「そうか」
出会い方はあれだったが、もうリルは縁の家族の1人であり失くせない存在だ。
小さくなれば子犬のようで可愛らしいのに、中身は過保護な番たちと同じく縁に甘く厳しい親のようだ。
「本当ですよ?リルがだーい好きです」
「分かった分かった。我も大好きだぞ」
おざなりな言い方ではあるが、リルが本当は縁を大切にしてくれているのは分かっている。
悪阻が酷く苦しむ縁に少しでも食べられればと日々色々な果物を獲ってきてくれたりするのもその1つだ。
こうして多くの愛情に包まれる日々は幸せで少し……怖い。
「リルは今幸せですか?」
「……ああ。幸せだ」
縁のいきなりの質問に驚きながらも力強くそう答えてくれたリルに微笑む。
無理だとは分かっていても自分の周りにいる人には幸せでいて欲しいと願っている。
人によっては幸せの定義はそれぞれだが、躊躇うことなく答えたリルは本当にそう思ってくれているのだろう。
「俺も幸せだぞ」
何か感じとったのかアレンがそう言い握る手に力がこもった。
嬉しさに泣きそうになり手を伸ばせば強く抱きしめられ抱え上げられた。
「私も幸せです。みんなが、みんなのことが大好きなんです」
「分かってる。縁がそう思ってくれてるのをみんなも分かってるから大丈夫だ」
最近よく感じる不安は妊娠しているせいなのかはよく分からないが、その度みんなが大丈夫だと呆れることなく応えてくれる。
「子どもが産まれたらまたみんなで海にでも行くか。いや、久しぶりにダンジョンにでも行くか。あそこになってたキノコ縁好きだったろ」
「ええ。知ってます?セイン、野菜の中でもとくにキノコが苦手なんですよ」
ふふふと笑いながらもこっそりと教えれば、それは良いことを聞いたとアレンがニヤリと笑った。
繋と同じく少しずつ野菜の好き嫌いを減らしてきているセインだが、やはりどうしても苦手なものはそう簡単になくなりはしない。
それまでの思いつめたような暗い雰囲気から人の好き嫌い暴露話しに笑い合う。
「エルのトマト嫌いは治りつつありますね。サラダじゃなければちゃんと食べられるんですよ」
「他にも色々あったけどな。あれはただ単に食わず嫌いだったんだろうな」
出会った頃に嫌いなのはトマトとしか言わなかったエルだが、家族で食卓を囲むにつれ食べられないと言うものがちらほらあった。
だが何故ダメなのかと聞いた時に「なんとなく」「見た目が」など食べたこともないのにきっと食べられないと理由が多く、どうにか一口だけと縁がお願いして漸く食べれば美味しいと気付き今では当初の話し通りトマトだけになったのだ。
「自分が美味しいと思うものをみんなも美味しいと食べてくれるのは嬉しいですしね」
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