426 / 475
自分は……いいです
しおりを挟む
それぞれご褒美も選び終え、ついでに夕食の食材なども買い込むと町を後にしーー
「ちょーーっと、待ったっ!」
「………………」
「えっ、うそ、ちょっ、まっ、ままま、待って下さい!エニシくんっ!」
「ん?」
何やら後ろが騒がしいなと思ってはいたが、下手に絡まれたら堪らないと無視を決め込んでいた縁に男が駆け寄ってきた。
「ああ、ククルさんでしたか。こんにちは」
にこやかに挨拶する縁とは対照的に肩で息をするククルは見るからに苦しそうだ。
知らなかったとは言え無視して走らせてしまったのは申し訳ない。
大丈夫かと落ち着くまで背を撫でてやれば、苦笑いしながらもありがとうと言われた。
「すいません。遠目からエニシくんらしい後ろ姿が見えたので」
「気が付かなくてすいません。何かありましたか?」
正しくは気付いていて無視していたのだが。
「お話ししたいことがありまして。先日は忙しそうでしたのでこの後時間があるようなら」
どうしようかと悩み、後ろにいた2人を窺えば大丈夫だと頷かれたため了承した。
最近はどうだと話しながらククルの店まで歩いていけば、特に変な顔をされることもなく部屋まで通される。
むしろ凄くいい笑顔で従業員たちに挨拶された。なぜ?逆に怖い。
「エニシくんのおかげでうちの店の売り上げは上がる一方ですからね。君に何かするようなバカがいるとすればーー即刻クビです」
それは………脅しではないだろうか?
「というのは半分冗談で、あとは単純に君に対する感謝ですよ。君の提案してくれた商品は従業員たちも知っているので。鍋や包丁なんかは家庭を持つ女性たちから泣いて喜ばれました」
半分ということはもう半分は本気ということではないのだろうか。
だが周りを見る限り嫌々な様子は見られないため聞き流しておくことにする。
「さて、実は話したいと言うこともそのことなんです」
「どういうことでしょう?」
売り上げがあるのは良い事では?と首を傾げる縁に、しかし問題はそこではなく、そのおかけで貯まっていく縁への売り上げ金の一部だった。
最初こそ微々たる金額だったため町に来た時にでも受け取りに来ていたのだが、最近は商品も増え金額が大きくなってきたため困っていたらしい。
「なので商業ギルドに登録してみませんか?そうすればお金も預けておけますし、もしエニシくんがうちで扱えない商品を思い付いても売ることが出来ます」
「商業ギルド、ですか?」
何だそれは。
聞けば、大雑把に言って商標登録所みたいなものだった。
新たに開発、発明したものや、発見、思い付きなどを商品として登録し、お金を払えば誰もがそれを作成、販売が出来るらしい。
分かりやすいようにと丁寧に説明してくれるククルだが………
「面倒ですね」
「……………」
彼には申し訳ないが物凄く面倒である。
昔から説明書を読むのも、手続きなど手間がかかる作業はどうにも苦手だった。
仕事ならばと割り切ってはいたが、私生活では極力したくはない作業だ。
「してみませんか?ということは提案であってしないという選択肢もあるということですよね。ならしなくて結構です」
「……………」
縁の言葉に頭を抱えてしまったククル。
何かダメだったかと隣りに座るエルを窺えば……すごく残念なものを見る目で見られていた。
「この人すっごい儲かる話ししてくれてんのに何で断んの?ってかエニシのせいで常に大金を店の中に用意しておかなきゃいけないなんて可哀想じゃん」
……………大金?
いまいち理解出来ていない縁に、若干涙目になりながらもククルが説明してくれた。
縁に払われるだろう手取りは最早それなりの金額になりつつあるらしい。
だがいつ受け取りに来るか分からない中、常にそんな金額を店に置いておくのも不安があるらしい。
いや、どんだけ!?
「ならククルさんが登録してそこで預かってもらえばいいのでは?」
「いや、どんだけめんどくさがんの?登録してやればいいじゃん」
「えーー」
「そこまでですか。普通なら手を上げて喜ぶ所なんですが」
そこまで言ってもらえるということはそれほどの価値を認められているということなのだろうが、縁にはそれほどまでの欲求はなかったのだった。
ただ自分が欲しいものを作ってもらったついでにククルにどうかと提案していただけであり、どうしてもとは思っていない。
ある意味縁の気分一つである。
「必要なものは私の方で用意しておきますから!本当にエニシくんにはサインだけしてもらえれば!それだけでいいですから!」
何もそこまでせずとも。
ククルの熱い説得(泣き落とし)により登録することが決まった。
後日書類が揃ったと連絡があり店を訪れれば、心変わりしない内にと急かされサインするまで部屋から出してもらえないのであった。
「いや、いくら私でもここまで来て逃げませんよ」
「分かってます。ですが早く!早くサインを!」
ある意味で信用がなくなったかもしれない。ククルの縁に対する信用が。
「ちょーーっと、待ったっ!」
「………………」
「えっ、うそ、ちょっ、まっ、ままま、待って下さい!エニシくんっ!」
「ん?」
何やら後ろが騒がしいなと思ってはいたが、下手に絡まれたら堪らないと無視を決め込んでいた縁に男が駆け寄ってきた。
「ああ、ククルさんでしたか。こんにちは」
にこやかに挨拶する縁とは対照的に肩で息をするククルは見るからに苦しそうだ。
知らなかったとは言え無視して走らせてしまったのは申し訳ない。
大丈夫かと落ち着くまで背を撫でてやれば、苦笑いしながらもありがとうと言われた。
「すいません。遠目からエニシくんらしい後ろ姿が見えたので」
「気が付かなくてすいません。何かありましたか?」
正しくは気付いていて無視していたのだが。
「お話ししたいことがありまして。先日は忙しそうでしたのでこの後時間があるようなら」
どうしようかと悩み、後ろにいた2人を窺えば大丈夫だと頷かれたため了承した。
最近はどうだと話しながらククルの店まで歩いていけば、特に変な顔をされることもなく部屋まで通される。
むしろ凄くいい笑顔で従業員たちに挨拶された。なぜ?逆に怖い。
「エニシくんのおかげでうちの店の売り上げは上がる一方ですからね。君に何かするようなバカがいるとすればーー即刻クビです」
それは………脅しではないだろうか?
「というのは半分冗談で、あとは単純に君に対する感謝ですよ。君の提案してくれた商品は従業員たちも知っているので。鍋や包丁なんかは家庭を持つ女性たちから泣いて喜ばれました」
半分ということはもう半分は本気ということではないのだろうか。
だが周りを見る限り嫌々な様子は見られないため聞き流しておくことにする。
「さて、実は話したいと言うこともそのことなんです」
「どういうことでしょう?」
売り上げがあるのは良い事では?と首を傾げる縁に、しかし問題はそこではなく、そのおかけで貯まっていく縁への売り上げ金の一部だった。
最初こそ微々たる金額だったため町に来た時にでも受け取りに来ていたのだが、最近は商品も増え金額が大きくなってきたため困っていたらしい。
「なので商業ギルドに登録してみませんか?そうすればお金も預けておけますし、もしエニシくんがうちで扱えない商品を思い付いても売ることが出来ます」
「商業ギルド、ですか?」
何だそれは。
聞けば、大雑把に言って商標登録所みたいなものだった。
新たに開発、発明したものや、発見、思い付きなどを商品として登録し、お金を払えば誰もがそれを作成、販売が出来るらしい。
分かりやすいようにと丁寧に説明してくれるククルだが………
「面倒ですね」
「……………」
彼には申し訳ないが物凄く面倒である。
昔から説明書を読むのも、手続きなど手間がかかる作業はどうにも苦手だった。
仕事ならばと割り切ってはいたが、私生活では極力したくはない作業だ。
「してみませんか?ということは提案であってしないという選択肢もあるということですよね。ならしなくて結構です」
「……………」
縁の言葉に頭を抱えてしまったククル。
何かダメだったかと隣りに座るエルを窺えば……すごく残念なものを見る目で見られていた。
「この人すっごい儲かる話ししてくれてんのに何で断んの?ってかエニシのせいで常に大金を店の中に用意しておかなきゃいけないなんて可哀想じゃん」
……………大金?
いまいち理解出来ていない縁に、若干涙目になりながらもククルが説明してくれた。
縁に払われるだろう手取りは最早それなりの金額になりつつあるらしい。
だがいつ受け取りに来るか分からない中、常にそんな金額を店に置いておくのも不安があるらしい。
いや、どんだけ!?
「ならククルさんが登録してそこで預かってもらえばいいのでは?」
「いや、どんだけめんどくさがんの?登録してやればいいじゃん」
「えーー」
「そこまでですか。普通なら手を上げて喜ぶ所なんですが」
そこまで言ってもらえるということはそれほどの価値を認められているということなのだろうが、縁にはそれほどまでの欲求はなかったのだった。
ただ自分が欲しいものを作ってもらったついでにククルにどうかと提案していただけであり、どうしてもとは思っていない。
ある意味縁の気分一つである。
「必要なものは私の方で用意しておきますから!本当にエニシくんにはサインだけしてもらえれば!それだけでいいですから!」
何もそこまでせずとも。
ククルの熱い説得(泣き落とし)により登録することが決まった。
後日書類が揃ったと連絡があり店を訪れれば、心変わりしない内にと急かされサインするまで部屋から出してもらえないのであった。
「いや、いくら私でもここまで来て逃げませんよ」
「分かってます。ですが早く!早くサインを!」
ある意味で信用がなくなったかもしれない。ククルの縁に対する信用が。
42
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる