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当たり前の感情
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そこにいるのは気が付いていた。
腕の中で眠る縁は気付いていないだろうが、部屋に連れてくる段階から背中に視線は感じており、しかし縁のことを考えてか止められなかっただけだ。
「…………いいぞ」
これなら暫く目を覚ますことはないだろうと声をかければ、静かに戸が開かれる音が聞こえた。
「縁は?」
「寝てる。俺は子どもたちを見てくるから後は任せていいか?」
「ああ」
「分かった」
掴まれていた手を起こさないよう静かに外すとそのままアレンに握らせる。
場所を代わるようにアレンが横になると、反対側からはセインが縁の身体に手を回していた。
「縁に当たんなよ」
「分かってんよ」
こうして悩みや弱音を吐く時、縁はジークの側にくることが多い。
ジークには嬉しい限りだが、同じ番としてアレンやセインが少々気に食わないと思うこともあるだろう。
だがそれを言ってこないのは彼らも自分たちだけでは縁の心を理解してやることができないと分かっているから。
ジークとて全てを理解してやることは出来ない。
だがそれも重ねた年と、彼らより経験があることにより多少は理解してやれるだけだ。
そのための役割分担であり、今のところそれに彼らが文句を言ってくる様子はない。
「玲がエルのところにいる………頼む」
「分かった」
これも最近の変化ではあるが、アレンが自分から何かを頼んでくるようになった。
番としての嫉妬がなくなったわけではない。
しかしずっと縁にだけ向けられていたものが我が子が出来、守る者が増えたことによって人に頼るということを覚え始めていた。
起こさないよう静かに部屋を出ると、子どもたちの様子を見に行く。
「パパ、おそといきたい!」
「は?帰ってきたばっかだろ」
「いくの!」
ジークを見つけた途端走り寄ってきた愛依を受け止めれば、外に行くんだと引っ張っていこうとする。
「愛依、今日はだーめ。狩りはまた今度」
「やだ!」
あまりに頑なな様子にどうしたものかと思っていれば、事情を知っているらしいエルが玲を抱えてやってきた。
「どういうこった?」
「あっちでやった狩りが上手くいかなかったんだよ。で、今度こそって張り切ってるんだろうけど……」
「ママやくそくしたもん!こんどはパパといくって。アイおっきいのとってあげるんだもん!」
なんとなく話しは察することが出来たが、帰ってきたばかりであまり無理をさせたくなく、縁も休んでいることから起こすのは気が引ける。
「分かったから、それは明日にしろ。明日ならやり方教えてやるから」
「やだ!」
「愛依っ!」
「っ」
今日行くんだと譲らない愛依に、しかし意外にもエルが声を上げ愛依を叱った。
「今日はダメ。帰ってきたばっかでしょ?ママのために頑張りたいのは分かるけど今日はお休み」
「~~~っ、なんで!?」
まだ幼い愛依には納得出来ないのだろう。
「愛依はいいかもしれないけどママは疲れてるんだよ。今無理して倒れたらどうするの?また会えなくなってもいいの?」
「や、やだ……」
少なからず獣人である自分と人間である縁の身体的差に気付いてはいるみたいだが、その加減がいまいち理解出来てはいないのだ。
「なら今日は休ませてあげよう?ママが元気になったら一緒に行こう。愛依が上手く捕まえられるところママに見せてあげなきゃ。オレも見たいしさ」
「うん」
「…………」
ジークが口を挟む間もなく話しは終わってしまった。
すんなり頷いた愛依にも驚いたが、エルが叱るという今まで見られなかった光景に何より驚いた。
「オ、オレだって叱る時はちゃんと叱れるし………。いや、まぁエニシに言われたからなんだけどさ。気を付けるようにはしてる」
ジークの視線に気付いたのか、気まずそうな顔をしながらも自分は兄なんだからそれぐらいしないとと口を尖らせている。
その表情からエルも子どもたちを叱る意味をきちんと理解しているのだろう。
「甘やかすだけじゃダメだってエニシも言ってたし。エニシって辛くても自分から言わないから休ませんのも大事でしょ?」
自身が知らない内に周りも成長していっているのだと理解する。
それは見た目の問題だけではなく、アレンやエルなど心の強さもその内の1つだろう。
「お前も縁のことよく分かってきたみてぇだな」
「ははっ、でしょ!…………それに、オレもエニシには少しでも長生きして欲しいしさ」
ジークたち獣人以上に長寿であるエルにはこの時間もきっと大切な思い出なのだろう。
短いからこそ大切であり、無くさないように必死に足掻いてもいる。
「………そうか。悪いな」
結局ジークも今はもう置いていく側でしかない。
どんなに気を付けていても死はいずれ訪れるものであり、年齢的にもジークが先か縁が先かの違いだ。
残される側の苦しみも悲しみも理解しているからこそ、エルに申し訳なく頼りにもしている。
「ううん。オレ今すっごい楽しいよ。繋と愛依の花嫁姿も見届けあげないといけないしね!」
「それは一生なくていい!」
親バカだねぇと笑うエルに、お前も親になれば分かるとガシガシと頭を撫で回してやるのだった。
腕の中で眠る縁は気付いていないだろうが、部屋に連れてくる段階から背中に視線は感じており、しかし縁のことを考えてか止められなかっただけだ。
「…………いいぞ」
これなら暫く目を覚ますことはないだろうと声をかければ、静かに戸が開かれる音が聞こえた。
「縁は?」
「寝てる。俺は子どもたちを見てくるから後は任せていいか?」
「ああ」
「分かった」
掴まれていた手を起こさないよう静かに外すとそのままアレンに握らせる。
場所を代わるようにアレンが横になると、反対側からはセインが縁の身体に手を回していた。
「縁に当たんなよ」
「分かってんよ」
こうして悩みや弱音を吐く時、縁はジークの側にくることが多い。
ジークには嬉しい限りだが、同じ番としてアレンやセインが少々気に食わないと思うこともあるだろう。
だがそれを言ってこないのは彼らも自分たちだけでは縁の心を理解してやることができないと分かっているから。
ジークとて全てを理解してやることは出来ない。
だがそれも重ねた年と、彼らより経験があることにより多少は理解してやれるだけだ。
そのための役割分担であり、今のところそれに彼らが文句を言ってくる様子はない。
「玲がエルのところにいる………頼む」
「分かった」
これも最近の変化ではあるが、アレンが自分から何かを頼んでくるようになった。
番としての嫉妬がなくなったわけではない。
しかしずっと縁にだけ向けられていたものが我が子が出来、守る者が増えたことによって人に頼るということを覚え始めていた。
起こさないよう静かに部屋を出ると、子どもたちの様子を見に行く。
「パパ、おそといきたい!」
「は?帰ってきたばっかだろ」
「いくの!」
ジークを見つけた途端走り寄ってきた愛依を受け止めれば、外に行くんだと引っ張っていこうとする。
「愛依、今日はだーめ。狩りはまた今度」
「やだ!」
あまりに頑なな様子にどうしたものかと思っていれば、事情を知っているらしいエルが玲を抱えてやってきた。
「どういうこった?」
「あっちでやった狩りが上手くいかなかったんだよ。で、今度こそって張り切ってるんだろうけど……」
「ママやくそくしたもん!こんどはパパといくって。アイおっきいのとってあげるんだもん!」
なんとなく話しは察することが出来たが、帰ってきたばかりであまり無理をさせたくなく、縁も休んでいることから起こすのは気が引ける。
「分かったから、それは明日にしろ。明日ならやり方教えてやるから」
「やだ!」
「愛依っ!」
「っ」
今日行くんだと譲らない愛依に、しかし意外にもエルが声を上げ愛依を叱った。
「今日はダメ。帰ってきたばっかでしょ?ママのために頑張りたいのは分かるけど今日はお休み」
「~~~っ、なんで!?」
まだ幼い愛依には納得出来ないのだろう。
「愛依はいいかもしれないけどママは疲れてるんだよ。今無理して倒れたらどうするの?また会えなくなってもいいの?」
「や、やだ……」
少なからず獣人である自分と人間である縁の身体的差に気付いてはいるみたいだが、その加減がいまいち理解出来てはいないのだ。
「なら今日は休ませてあげよう?ママが元気になったら一緒に行こう。愛依が上手く捕まえられるところママに見せてあげなきゃ。オレも見たいしさ」
「うん」
「…………」
ジークが口を挟む間もなく話しは終わってしまった。
すんなり頷いた愛依にも驚いたが、エルが叱るという今まで見られなかった光景に何より驚いた。
「オ、オレだって叱る時はちゃんと叱れるし………。いや、まぁエニシに言われたからなんだけどさ。気を付けるようにはしてる」
ジークの視線に気付いたのか、気まずそうな顔をしながらも自分は兄なんだからそれぐらいしないとと口を尖らせている。
その表情からエルも子どもたちを叱る意味をきちんと理解しているのだろう。
「甘やかすだけじゃダメだってエニシも言ってたし。エニシって辛くても自分から言わないから休ませんのも大事でしょ?」
自身が知らない内に周りも成長していっているのだと理解する。
それは見た目の問題だけではなく、アレンやエルなど心の強さもその内の1つだろう。
「お前も縁のことよく分かってきたみてぇだな」
「ははっ、でしょ!…………それに、オレもエニシには少しでも長生きして欲しいしさ」
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短いからこそ大切であり、無くさないように必死に足掻いてもいる。
「………そうか。悪いな」
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