26 / 38
四章 夏期講習
01
しおりを挟む
side:まこと
「夏期講習?」
後ろで、守くんが聞き返す。
「うん。その塾で体験授業みたいなのがあってね、明日から何日か行くんだ。だからお盆まで会えない……あっ、やられた?!」
そう答えていたら、画面の中で僕の操作しているキャラクターが、穴に落ちた。
夏祭りの次の日、八月の始め。僕は守くんの家に来ていた。
今日は、守くんのお父さんが居て家に二人きりじゃなかったから、宿題したあとはリビングでゲームをしていた。
「うーん、難しいなあ……守くん何でそんなにできるの?」
「まあ、慣れてるからな」
守くんは、敵に当たらないように、器用にキャラクターを動かしていく。
すごいなあ。
「てか、夏期講習って……十分勉強出来るだろ、わざわざ行かなくていいんじゃないか?」
「うーん、けど僕――ってあぁーっ!?また死んだ!?!」
軽快なリズムと共に、僕の残機が減っていく。
「えーもう全然できないよーやだー」
「まあ初めてだし、しょうがないだろ」
「もう、声が笑ってるよ?」
リモコンを放置して、あぐらをかいている守くんの膝に、頭をのせて横になる。
「……で、なんだって?」
「あのね、僕ほんとに勉強しか得意なことないから、ちゃんとやらなきゃ。守くんみたいにゲーム上手くないし、音楽とかオシャレとかも全然分かんないし」
「何言ってんだよ、まことはもっと良いとこあるだろ。優しいし性格良いし平等だし、あと、」
そこまで言って恥ずかしくなったのか、守くんは言葉を切った。
「……まあ、そんなとこだな」
「えー、もっと褒めてくれるんじゃないの」
「ねぇよ。図々しいな」
「…………」
「……ッあ?! ばっばかやめろ変態っ!!!」
わざと股間に頭を擦り付けると、リモコンで頭を叩かれた。
地味に痛かったので、そうするのは止めて、また膝に頭を戻す。
「守くんは、塾とか行かないの?」
「まだ二年生だし」
「そっか。じゃあ三年生になったら、一緒のところ行こうよ」
「……まことの通うところ、難しそう」
「守くんなら大丈夫だよ。一緒にがんばろう」
「はいはい」
答えながら、守くんはゲームのステージをクリアした。
見計らってまた守くんの足の間に座ると、後ろから肩に頭を乗せられた。
髪が、僕の頬をかすめて、くすぐったい。
「ねえ、えっちなことしたいねー」
「…………」
「守くんの部屋行きたい」
「……二階に、親父いるから」
「守くんが声出さなければバレないよ」
「あ? なんだよ、俺ばっかうるさいみたいな」
ムッとする守くんが面白くて、笑う。
すると、リビングのドアが開く音がした。
「や、ここにいたのか」
そう言って入ってきたのは、守くんのお父さん。
黒のシンプルなポロシャツを着て、四角い眼鏡をかけている。
「はじめまして。こんにちは」
「こんにちは。仲良いね」
ぴったりくっついてる僕らを見て、微笑む。
優しそうなおじさんだ。あと、背が高いところとか、目元とか、守くんに似てる気がする。
「ちょっと電気屋に行ってくるよ。一応鍵は持っていくけど、守たちはまだ家にいる?」
「ああ。いつ帰ってくるんだ?」
「二時間後くらいかな。じゃあ、留守番よろしくね」
そう言っておじさんは、部屋を出た。
続いて、がちゃんと、玄関の閉まる音。
すぐに守くんの方を振り返った。
「これでえっちなことできるね!!!」
「…………」
反論されるか叩かれると思ってたけど、守くんはただ僕を見ていた。
そのまま、何も言わない。
……あれ?
「え? したいの?」
「……うざ」
そう言って目を反らす。頬が、赤い。
…………お???
「なに? なに? 溜まってるの?」
「違う。ばか」
もっと顔を背けて、そう否定する守くん。
シャツの中に手を入れたら、すぐビクッてなった。あー、かわいい。
ズボンに手をかけると、守くんは慌ててその手を止めた。
「おい。何してんだよ」
「たまにはリビングでするのも良いかなーって」
「良くない」
「え~なんで~。ほら、マンネリって良くないじゃん?」
そう駄々をこねたら、守くんはますますムッとした。
そして、ぐっと僕を引き寄せ、抱き止められたような状態になる。
「えっ何?!……うわっ!?」
どきまぎしてたら、なんと僕の体を持ち上げられ、そのまま立たれた。
足が完全に浮いて、守くんに抱っこされてるみたいな状態になる。
「まこと、軽すぎ……」
「なにこれ?! やだー、恥ずかしい! 下ろして!!」
じたばたするけど離してもらえず、守くんはそのまま廊下の方に向かった。
……あっけどちょっと楽しくなってきた。
軽い方とはいえ40キロはあるのに。
守くん、力持ちだなぁ。
「やっぱり、男の子なんだね」
「やっぱりって何……」
「ときめいた」
「ふ、少女漫画みたい」
ちょっと笑われた。
階段手前で下ろされ、そのまま守くんの部屋まで行く。
「やっぱり、守くんの部屋落ち着くね」
「まこと」
寝ようとしたら、ベッドに座らされた。
守くんも座り、向き合う。
まだクーラーを入れていない、蝉の声が響く、蒸し暑い部屋。
「どうしたの?」
「あのさ……マンネリとか気にしなくていいからさ……俺……」
守くんは何か言おうと、口をもごもごさせている。
顔が赤い。
……よっぽど、言いにくいこと?
それって……。
「俺……俺、実は」
「痔になったの?」
「………………」
聞くと、盛大にため息をつかれた。
「ばか」
「え? 痔だから今日はやめようって話じゃないの?」
「違う。もうやだ。知らね」
そう言って、守くんは枕に突っ伏す。
あれ、違ったの……?
「わかんないけど、大丈夫だよ、僕は守くんが好きだよ」
「…………っ」
守くんは、壁の方を向いた。
髪の隙間から見える耳が赤い。
「今日どうしたの?なんか変だよ」
「べ、別に……なんでもねぇ……」
後ろから抱き締めて聞くけど、やっぱり首を横に振られる。
しばらくすると、「今度、ちゃんと言うから……」という呟きが聞こえた。
「夏期講習?」
後ろで、守くんが聞き返す。
「うん。その塾で体験授業みたいなのがあってね、明日から何日か行くんだ。だからお盆まで会えない……あっ、やられた?!」
そう答えていたら、画面の中で僕の操作しているキャラクターが、穴に落ちた。
夏祭りの次の日、八月の始め。僕は守くんの家に来ていた。
今日は、守くんのお父さんが居て家に二人きりじゃなかったから、宿題したあとはリビングでゲームをしていた。
「うーん、難しいなあ……守くん何でそんなにできるの?」
「まあ、慣れてるからな」
守くんは、敵に当たらないように、器用にキャラクターを動かしていく。
すごいなあ。
「てか、夏期講習って……十分勉強出来るだろ、わざわざ行かなくていいんじゃないか?」
「うーん、けど僕――ってあぁーっ!?また死んだ!?!」
軽快なリズムと共に、僕の残機が減っていく。
「えーもう全然できないよーやだー」
「まあ初めてだし、しょうがないだろ」
「もう、声が笑ってるよ?」
リモコンを放置して、あぐらをかいている守くんの膝に、頭をのせて横になる。
「……で、なんだって?」
「あのね、僕ほんとに勉強しか得意なことないから、ちゃんとやらなきゃ。守くんみたいにゲーム上手くないし、音楽とかオシャレとかも全然分かんないし」
「何言ってんだよ、まことはもっと良いとこあるだろ。優しいし性格良いし平等だし、あと、」
そこまで言って恥ずかしくなったのか、守くんは言葉を切った。
「……まあ、そんなとこだな」
「えー、もっと褒めてくれるんじゃないの」
「ねぇよ。図々しいな」
「…………」
「……ッあ?! ばっばかやめろ変態っ!!!」
わざと股間に頭を擦り付けると、リモコンで頭を叩かれた。
地味に痛かったので、そうするのは止めて、また膝に頭を戻す。
「守くんは、塾とか行かないの?」
「まだ二年生だし」
「そっか。じゃあ三年生になったら、一緒のところ行こうよ」
「……まことの通うところ、難しそう」
「守くんなら大丈夫だよ。一緒にがんばろう」
「はいはい」
答えながら、守くんはゲームのステージをクリアした。
見計らってまた守くんの足の間に座ると、後ろから肩に頭を乗せられた。
髪が、僕の頬をかすめて、くすぐったい。
「ねえ、えっちなことしたいねー」
「…………」
「守くんの部屋行きたい」
「……二階に、親父いるから」
「守くんが声出さなければバレないよ」
「あ? なんだよ、俺ばっかうるさいみたいな」
ムッとする守くんが面白くて、笑う。
すると、リビングのドアが開く音がした。
「や、ここにいたのか」
そう言って入ってきたのは、守くんのお父さん。
黒のシンプルなポロシャツを着て、四角い眼鏡をかけている。
「はじめまして。こんにちは」
「こんにちは。仲良いね」
ぴったりくっついてる僕らを見て、微笑む。
優しそうなおじさんだ。あと、背が高いところとか、目元とか、守くんに似てる気がする。
「ちょっと電気屋に行ってくるよ。一応鍵は持っていくけど、守たちはまだ家にいる?」
「ああ。いつ帰ってくるんだ?」
「二時間後くらいかな。じゃあ、留守番よろしくね」
そう言っておじさんは、部屋を出た。
続いて、がちゃんと、玄関の閉まる音。
すぐに守くんの方を振り返った。
「これでえっちなことできるね!!!」
「…………」
反論されるか叩かれると思ってたけど、守くんはただ僕を見ていた。
そのまま、何も言わない。
……あれ?
「え? したいの?」
「……うざ」
そう言って目を反らす。頬が、赤い。
…………お???
「なに? なに? 溜まってるの?」
「違う。ばか」
もっと顔を背けて、そう否定する守くん。
シャツの中に手を入れたら、すぐビクッてなった。あー、かわいい。
ズボンに手をかけると、守くんは慌ててその手を止めた。
「おい。何してんだよ」
「たまにはリビングでするのも良いかなーって」
「良くない」
「え~なんで~。ほら、マンネリって良くないじゃん?」
そう駄々をこねたら、守くんはますますムッとした。
そして、ぐっと僕を引き寄せ、抱き止められたような状態になる。
「えっ何?!……うわっ!?」
どきまぎしてたら、なんと僕の体を持ち上げられ、そのまま立たれた。
足が完全に浮いて、守くんに抱っこされてるみたいな状態になる。
「まこと、軽すぎ……」
「なにこれ?! やだー、恥ずかしい! 下ろして!!」
じたばたするけど離してもらえず、守くんはそのまま廊下の方に向かった。
……あっけどちょっと楽しくなってきた。
軽い方とはいえ40キロはあるのに。
守くん、力持ちだなぁ。
「やっぱり、男の子なんだね」
「やっぱりって何……」
「ときめいた」
「ふ、少女漫画みたい」
ちょっと笑われた。
階段手前で下ろされ、そのまま守くんの部屋まで行く。
「やっぱり、守くんの部屋落ち着くね」
「まこと」
寝ようとしたら、ベッドに座らされた。
守くんも座り、向き合う。
まだクーラーを入れていない、蝉の声が響く、蒸し暑い部屋。
「どうしたの?」
「あのさ……マンネリとか気にしなくていいからさ……俺……」
守くんは何か言おうと、口をもごもごさせている。
顔が赤い。
……よっぽど、言いにくいこと?
それって……。
「俺……俺、実は」
「痔になったの?」
「………………」
聞くと、盛大にため息をつかれた。
「ばか」
「え? 痔だから今日はやめようって話じゃないの?」
「違う。もうやだ。知らね」
そう言って、守くんは枕に突っ伏す。
あれ、違ったの……?
「わかんないけど、大丈夫だよ、僕は守くんが好きだよ」
「…………っ」
守くんは、壁の方を向いた。
髪の隙間から見える耳が赤い。
「今日どうしたの?なんか変だよ」
「べ、別に……なんでもねぇ……」
後ろから抱き締めて聞くけど、やっぱり首を横に振られる。
しばらくすると、「今度、ちゃんと言うから……」という呟きが聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
今日も、社会科準備室で
下井理佐
BL
内気で弱気な高校生・鈴山夏芽(すずやまなつめ)は、昼休みになると誰もいない社会科準備室でこっそりと絵を描いていた。
夏芽はいつものように社会科準備室を開ける。そこには今年赴任してきた社会科教室・高山秋次(あきつぐ)がいた。
新任式で黄色い声を受けていた高山がいることに戸惑い退室しようとするが、高山に引き止められる。
萎縮しながらも絵を描く夏芽に高山は興味を持ち出し、次第に昼休みが密かな楽しみになる。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
【2025/11/15追記】
一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
蓮城さんちの兄と弟
桐山アリヲ
BL
親の再婚で兄弟になった、男子高校生ふたりのおはなし。しっかりもので美形の兄、柊也(受)と、陸上短距離に打ちこむ弟、夏樹(攻)。周囲のひとたちとの関わりや競技を通して、ふたりの関係が変化していく過程を描きます。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる