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episode1 四年経っても治らない
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episode.1 side:Sora
「――っ、ぁ」
深いところを突かれて、思わず声が漏れた。
肩に顔を埋めると、強く抱きしめ返される。
彼はオレの耳元でくすりと笑い、低い声で囁いた。
「いいよ……もっと聞かせて」
それでふつりと、理性の糸が切れた。
「あ、あっ、アオイッ…!」
肌と肌が触れ合って、その熱さに溶けそうになる。
快楽が、脳を満たしていく。
「――ソラ」
呼ばれて、混濁した意識から醒める。
ラブホの薄暗いライトの下には、色素の薄い双眸があった。
そのいつも勝ち気な雰囲気の目は、今は優しくオレを見ている。
「あ……ごめん、寝てた」
「ううん」
慌てて謝るオレに、アオイは口角を上げる。
アオイが隣に座って、ベッドがきしむ音がした。
「寝顔がかわいいから、もっと見てようと思ったんだけどさ」
「からかうなよ」
そう怒ると、アオイはハハッと明るく笑って、
「……ソラ」
そうして、少し声を落として名前を呼んでから、突然キスをした。
「ん…、っ…」
そのまま、舌が絡み合い、次第に深くなっていく。
呼吸を忘れて長いキスをしてたら、ふいに口が離れた。
「っは……なに?」
また頭の中が溶けそうになりながら、視線を上げる。
するとアオイは、まっすぐオレを見て、微笑んで言った。
「好きだ」
そのたった3文字の言葉は、じわじわと胸に広がって、オレの心を温めていく。
「……急だね」
「ごめん。けど、ソラのことが好きだ。ずっと、会ったときから」
そう言って、アオイはオレを抱きしめた。
オレも抱きしめ返して、嬉しくて涙ぐみながら答えた。
「……オレも、アオイのこと好きだよ」
すると、アオイの手の力が一層強くなる。
……ああ、こんなに幸せなことがある?
好きな人と、両思いで。こうして抱き合って。
だから、次の言葉には、耳を疑った。
「けど……ごめん」
「……え?」
「俺……もう、お前とは会えない」
そう言ったアオイの声は小さく、震えていた。
「就職先の仕事の都合で、もうこんな風に会えそうにないんだ」
「これを機会に、すっぱりこういうこと、やめようと思って」
「だからさ……お前もこういうの、やめなよ」
「うん」
――『アオイ』と出会ったのは、オレが高一のときだった。
オレは『ソラ』と言う名前でSNSをやっていた。
そうしたら、何人かと気が合って、グループでチャットや通話をするようになって、そしてオフ会をすることになって。
そのグループの中の一人に、『アオイ』がいた。
そのときのアオイは、大学二年生で、そのときから背が高くて、かっこよくて、優しくて。
それから、アオイとは地元が近いこともあって、二人だけで遊ぶようになった。
「俺、ゲイだって言ったら引く?」
そう打ち明けたのは、アオイからだった。
ありきたりなカラオケボックス。二人きりの薄暗い部屋。
思わずドリンクのコップを傾ける手が止まった。
……だって、オレはいわゆるバイで、アオイのこともずっとそういう対象として見ていたからだ。
だから、ドキドキしながら、冗談めかして答えた。
「そうなの? じゃあ、オレとかどう?」
「それ、本気で言ってる?」
アオイはわざとらしくオレの肩を抱き、にやっと笑う。
「……うん」
頷くと、アオイは笑みを消し、軽く目を見開いた。
その日、アオイと初めてキスをした。
コーヒーの味だった。
オレは女の子と良く遊んでたから、アオイのことも気軽にホテルに誘って、そういうことをする関係なった。
……抱かれたのは初めてだったけど。
けれど、それは一度だけじゃ終わらなくて。
お互いに告白も、正式に付き合う宣言もしないまま体を繋げることを繰り返して……オレたちは所謂セフレになった。
けど、オレはだんだんアオイのことが本気で好きになってきて、アオイ以外の人と遊ぶこともなくなった。
アオイもオレ以外の人と関係を持っていないと言っていたから、『ただのセフレ』という表現が正しかったのかはわからない。
とにかく、お互いの学校の名前も本名も知らないまま、その関係は今、オレが高三になるまで続いた。
アオイは元々、真面目な性格だった。
待ち合わせ場所には必ず十分前にはいるし、乗る電車の時間を分単位で調べて決めていた。
セックスのときも――いや、これは恥ずかしいから、秘密。
「……だからって、仕事の都合で会うのやめなくてもいいのに……」
「ふ、未練たらたらじゃん」
そう呟くと、オフ会友達の『モカ』ちゃんは、フラペチーノのストローから口を離して、笑う。
モカは、オレと同い年の女の子で、オレとアオイが付き合っていることを知っていた。
「けど、私もアオイに会えなくなるのは寂しいな。面白いやつだったのに。アカウントも消しちゃったしさ」
「うん……」
SNSの画面に、目を落とす。タイムラインから消えたアオイのアイコンに、視界がにじむ。
……結局アオイは、オレやオレたちとのやりとりなんて、ひとときの遊びにすぎなかったんだよな。
そうナイーブな気持ちになっていたら、ばしん、と強く、モカに肩を叩かれた。
「痛ぁ?!」
「泣くなって! ソラくんなら、他にもいい人見つかるよ!」
「な、泣いてないし!?!」
慌てて、モカから顔をそむける。
「それで、ソラくんは進路どうするの?」
「……専門学校行くことにした」
高校を卒業したら、適当にバイトでもしようかと思ったけど。
アオイもがんばってるんだし、オレもがんばろうと思ったんだ。
「何の専門?」
「医療系」
「ふふ、まっじめー」
「からかわないでよ、本当に真面目に考えたんだからさ」
オレは、母親を病気で亡くしていた。だから医療機関には元々興味があったんだ。
医者とか看護師とか薬剤師とか、そういうのは頭が悪いオレには無理だけど……何かできることがあったらやりたいと思う。
「わかってるよ」
そう言ってモカは、「応援してるね」と笑った。
そうしてオレは、医療関係の事務に携わる専門学校に進学した。
でも、休みの日に街へ出掛けて、昔アオイと行った駅やカラオケの前を通るたび、アオイがいないかなって期待して、つい探してしまうしまう自分がいる。
結局見つけられなくて落胆するのを、何度も何度も繰り返して……オレも大概だなって思う。
そんな日々を送って学校を卒業し、無事総合病院で事務員を務めることになった。
毎日真面目に働いていたら、だんだんと街でアオイの姿を探すこともなくなってきたけど、まだ新しい恋なんてする気にはなれなかった。
そうして、あっという間に三年が過ぎた春。
オレは、担当事務が受付から病棟内へと異動になった。
「――っ、ぁ」
深いところを突かれて、思わず声が漏れた。
肩に顔を埋めると、強く抱きしめ返される。
彼はオレの耳元でくすりと笑い、低い声で囁いた。
「いいよ……もっと聞かせて」
それでふつりと、理性の糸が切れた。
「あ、あっ、アオイッ…!」
肌と肌が触れ合って、その熱さに溶けそうになる。
快楽が、脳を満たしていく。
「――ソラ」
呼ばれて、混濁した意識から醒める。
ラブホの薄暗いライトの下には、色素の薄い双眸があった。
そのいつも勝ち気な雰囲気の目は、今は優しくオレを見ている。
「あ……ごめん、寝てた」
「ううん」
慌てて謝るオレに、アオイは口角を上げる。
アオイが隣に座って、ベッドがきしむ音がした。
「寝顔がかわいいから、もっと見てようと思ったんだけどさ」
「からかうなよ」
そう怒ると、アオイはハハッと明るく笑って、
「……ソラ」
そうして、少し声を落として名前を呼んでから、突然キスをした。
「ん…、っ…」
そのまま、舌が絡み合い、次第に深くなっていく。
呼吸を忘れて長いキスをしてたら、ふいに口が離れた。
「っは……なに?」
また頭の中が溶けそうになりながら、視線を上げる。
するとアオイは、まっすぐオレを見て、微笑んで言った。
「好きだ」
そのたった3文字の言葉は、じわじわと胸に広がって、オレの心を温めていく。
「……急だね」
「ごめん。けど、ソラのことが好きだ。ずっと、会ったときから」
そう言って、アオイはオレを抱きしめた。
オレも抱きしめ返して、嬉しくて涙ぐみながら答えた。
「……オレも、アオイのこと好きだよ」
すると、アオイの手の力が一層強くなる。
……ああ、こんなに幸せなことがある?
好きな人と、両思いで。こうして抱き合って。
だから、次の言葉には、耳を疑った。
「けど……ごめん」
「……え?」
「俺……もう、お前とは会えない」
そう言ったアオイの声は小さく、震えていた。
「就職先の仕事の都合で、もうこんな風に会えそうにないんだ」
「これを機会に、すっぱりこういうこと、やめようと思って」
「だからさ……お前もこういうの、やめなよ」
「うん」
――『アオイ』と出会ったのは、オレが高一のときだった。
オレは『ソラ』と言う名前でSNSをやっていた。
そうしたら、何人かと気が合って、グループでチャットや通話をするようになって、そしてオフ会をすることになって。
そのグループの中の一人に、『アオイ』がいた。
そのときのアオイは、大学二年生で、そのときから背が高くて、かっこよくて、優しくて。
それから、アオイとは地元が近いこともあって、二人だけで遊ぶようになった。
「俺、ゲイだって言ったら引く?」
そう打ち明けたのは、アオイからだった。
ありきたりなカラオケボックス。二人きりの薄暗い部屋。
思わずドリンクのコップを傾ける手が止まった。
……だって、オレはいわゆるバイで、アオイのこともずっとそういう対象として見ていたからだ。
だから、ドキドキしながら、冗談めかして答えた。
「そうなの? じゃあ、オレとかどう?」
「それ、本気で言ってる?」
アオイはわざとらしくオレの肩を抱き、にやっと笑う。
「……うん」
頷くと、アオイは笑みを消し、軽く目を見開いた。
その日、アオイと初めてキスをした。
コーヒーの味だった。
オレは女の子と良く遊んでたから、アオイのことも気軽にホテルに誘って、そういうことをする関係なった。
……抱かれたのは初めてだったけど。
けれど、それは一度だけじゃ終わらなくて。
お互いに告白も、正式に付き合う宣言もしないまま体を繋げることを繰り返して……オレたちは所謂セフレになった。
けど、オレはだんだんアオイのことが本気で好きになってきて、アオイ以外の人と遊ぶこともなくなった。
アオイもオレ以外の人と関係を持っていないと言っていたから、『ただのセフレ』という表現が正しかったのかはわからない。
とにかく、お互いの学校の名前も本名も知らないまま、その関係は今、オレが高三になるまで続いた。
アオイは元々、真面目な性格だった。
待ち合わせ場所には必ず十分前にはいるし、乗る電車の時間を分単位で調べて決めていた。
セックスのときも――いや、これは恥ずかしいから、秘密。
「……だからって、仕事の都合で会うのやめなくてもいいのに……」
「ふ、未練たらたらじゃん」
そう呟くと、オフ会友達の『モカ』ちゃんは、フラペチーノのストローから口を離して、笑う。
モカは、オレと同い年の女の子で、オレとアオイが付き合っていることを知っていた。
「けど、私もアオイに会えなくなるのは寂しいな。面白いやつだったのに。アカウントも消しちゃったしさ」
「うん……」
SNSの画面に、目を落とす。タイムラインから消えたアオイのアイコンに、視界がにじむ。
……結局アオイは、オレやオレたちとのやりとりなんて、ひとときの遊びにすぎなかったんだよな。
そうナイーブな気持ちになっていたら、ばしん、と強く、モカに肩を叩かれた。
「痛ぁ?!」
「泣くなって! ソラくんなら、他にもいい人見つかるよ!」
「な、泣いてないし!?!」
慌てて、モカから顔をそむける。
「それで、ソラくんは進路どうするの?」
「……専門学校行くことにした」
高校を卒業したら、適当にバイトでもしようかと思ったけど。
アオイもがんばってるんだし、オレもがんばろうと思ったんだ。
「何の専門?」
「医療系」
「ふふ、まっじめー」
「からかわないでよ、本当に真面目に考えたんだからさ」
オレは、母親を病気で亡くしていた。だから医療機関には元々興味があったんだ。
医者とか看護師とか薬剤師とか、そういうのは頭が悪いオレには無理だけど……何かできることがあったらやりたいと思う。
「わかってるよ」
そう言ってモカは、「応援してるね」と笑った。
そうしてオレは、医療関係の事務に携わる専門学校に進学した。
でも、休みの日に街へ出掛けて、昔アオイと行った駅やカラオケの前を通るたび、アオイがいないかなって期待して、つい探してしまうしまう自分がいる。
結局見つけられなくて落胆するのを、何度も何度も繰り返して……オレも大概だなって思う。
そんな日々を送って学校を卒業し、無事総合病院で事務員を務めることになった。
毎日真面目に働いていたら、だんだんと街でアオイの姿を探すこともなくなってきたけど、まだ新しい恋なんてする気にはなれなかった。
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