百夜の秘書

No.26

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玩具選び

一、

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「蝶、今日から新しい仕事を頼めないかな。もちろん報酬は弾むし、君の時間を二時間ほどくれるだけでいいんだけど」
 二人きりの、天藍の書斎。突然の天藍の言葉に、蝶は反射的に聞き返した。
「勤務時間が伸びるということですか……?!」
 何せ、今は午後六時半。
 蝶の膀胱は既に、九時間半溜め続けた大量の小水でパンパンだった。
 蝶は必死に、その尿が外へと漏れ出さないようにしながら、あと三十分という残りの勤務時間を全うしようとしていたのに。
 それを、二時間も延長?
 蝶は珍しく動揺し、目を泳がせた。
「きゅ、急に言われても、困ります……!」
「違う違う、安心して、この秘書の仕事とはまた別の話。君がちゃんとその貞操帯を外して、夕食を食べたあとだよ」
 足を震わせながらそう言う蝶に、天藍はひらひらと手を振り、
「ほら、以前商談で会った、鳳梨さんっていう綺麗な女の人がいたでしょう? 鳳梨さん、子会社で大人の玩具の開発も始めたんだって」
「……あの方、そんな事業まで……」
 蝶は鳳梨の顔を思い出して、そう呟くと、天藍も困ったように笑い、
「それで、男性向けの道具を作るってことになったらしくて。まずは市場に出回っている既存の道具での感想を色々な人から聞きたいからって、僕に話が回ってきたんだ。だからそれを、蝶に試して欲しい」
「なぜ私が?」
「僕の周囲で君が一番、正直な意見を言ってくれそうだったから。……それに、君はもはやそういった身体の関係も抵抗はないでしょう?」
 天藍はそう、微笑んで言う。
 蝶は呆れてため息をついた。
「自分で試せば良いじゃないですか」
「それが、おしりに挿れる道具も多いんだよ。僕は君みたいにそっちは開発していないし」
 その言葉に、蝶は一瞬呼吸が止まった。
 天藍はその蝶の様子に気づいたようで、ふっと笑い、
「そうそう、君、いつも後ろを使って自慰してるよね」
 図星を突かれ、蝶の背中にだらだらと冷や汗が流れた。
 ……人が夜な夜な布団の中でそこに指を挿れ、抜き差しして気持ちよくなっているのを、この人は前から知っていたとでも言うのか。
 蝶は羞恥で真っ赤にした顔を、ふいとそらした。
「だ、だから何です? 男に貞操帯をつけさせ、長時間用を足すことを防いで興奮しているような貴方ほど変態ではないと思いますが」
 そう、まさに貞操帯をつけられ九時間半も用を足すことを防がれてる蝶は、そう天藍に訴える。
 自分でそう話しながら、蝶は強い尿意を一層感じて、耐えきれず足をクロスさせた。
「何も、蝶の自慰の仕方が悪いとは一言も言ってないよ。ただ、だから適任だろうと思ったんだ」
 天藍はそう言って微笑み、不意に、目の前の蝶のその下腹を、持っていた万年筆の蓋の部分で押し込み、そのままツーっと下へ移動させた。
 そう、その膀胱の中身が、出口まで届くように。
「っ~~~!!!」
 蝶はその刺激に決壊しそうになり、瞬時に身体をビクつかせた。
「んっ、ふーっ、はーっ、んんっ」
 蝶は咄嗟に服の上から股を抑え込み、前屈みになる。
 しかし、股には貞操帯がある。そこを抑えても揉んでも何も感じることができず、蝶はただ苦しそうにガチャガチャとベルトを押さえながら、余裕なく足踏みを繰り返した。
 天藍は満足げに微笑む。
「おや、そんなところを抑えてどうしたの? もしかして、お手洗いに行きたいのかい?」
「……い、行きたく、ありません……っ」
「じゃあ、あと三十分、仕事がんばってね」


 しかし、鳳梨の頼みを聞くとは別に、天藍には目的がもう一つあった。
 それは、あの強情な蝶が理性を失って啼いて喘ぐような、蝶のための大人の玩具を探すこと。

 蝶はそれを知らず、今日も十時間の我慢を達成し、貞操帯を外され自由になった身でトイレへ駆け込んで念願の長い長い放尿をした後、他の従業員と共に夕食を食べ、天藍の寝室へ向かった。
 そうして、蝶の第二の仕事が始まった。

 天藍は、蝶が快楽に溺れることを期待し、その日から毎晩、ディルドやバイブやオナニーホールなど、色々なアダルトグッズを蝶に試した。
 しかし蝶は、「痛い」「物足りない」「異物感が強い」「内臓に来て怖い」「太すぎる」「気持ち良くない」などと実に正直な意見を淡々と述べ、それはもう鳳梨の助けにはなったが、天藍は蝶の理性を失うような姿を見ることはできなかった。
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