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火属性現る
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「先生さよーならー」
「気をつけて帰れよ」
最後の授業が終わり、教室から出ていく生徒を、ホワイトボードを消しながら見守る。
そして、教室には誰もいなくなった……と思ったら、相川だけが残っていた。
いつも一緒にいるもう一人のギャル・篠原は、確か今日は風邪で休みだ。
「どうした?相川」
相川はカバンの上で頬杖をついて、俺をじっと見つめて……そしてこう聞いてきた。
「せんせ、首のそれキスマ?」
「っ……!!」
慌てて、その視線の先にあった首元を抑える。
しまった。さっきの休み時間、ネクタイを緩めていたのを忘れてた。
「ち、がう、これは……そう、蚊に刺された」
「この季節にぃ?」
「……くっ……」
いや、言い訳が我ながら下手すぎる。
俺が黙っていると、相川はにやにやしながら席を離れ、顔を覗き込んできた。
「教えてくれないなら、塾長先生に聞いてこようかなぁ」
「……お菓子で見逃してくれませんか」
「しょうがないな~」
二人で、塾の向かいのコンビニへ寄る。
外は凍えそうなほど寒かったが、星と月は明るかった。
板チョコを買ってやると、早速相川は箱の封を切って、一口かじった。
「先生、やっぱ彼女いたんだぁ。隅におけないねぇ」
「……広めるなよ」
「広めないよー。どんなひと? まさか、うちの塾の中にいる?!」
「いや、職場は関係ない」
俺は一緒に買ったコーヒーを一口飲んで、そして相川に笑って答えた。
「どんな人、か……ま、可愛いかな」
「あは、なんか先生がそういうこと言うとキモ」
「おい。聞いておいてお前」
相川はけらけら笑って、首を傾げた。
「その人と結婚するの?」
「ん~、どうだろ。まだ付き合ってそんなに経ってないしな……」
「えー、なにそれ。結婚したいんだったら早くそれっぽいこと言っとかないと、逃げられちゃうよー?」
「ははは」
思わず笑う。女子高生のくせに、ませたことを言う。
逃げる? 一芽に限ってそれはないだろ。だって俺のこと、めちゃくちゃ好きだし。
「そういえばさ、ずっと気になってたんだけど」
「ん?」
相川は、キラキラした目で俺に聞いた。
「サイクラのメジくんって、先生の友達なんだよね! 家近いの?」
「ごめん、そういうのは言えない」
「えー。てか、なんで先生とメジくんが知り合いなの?」
それを聞いて、どう返答するか少し考える。
まあ、もしこいつがライブに来るんだったらどうせバレるだろうし、言ってもいいか。
「……実は」
周囲に聞こえないように、相川に耳打ちした。
「……えー?!先生ライブでギターやるの?!」
「しーっ!!声が大きい!!」
「だから知り合いだったんだ! てか先生ってギターリストだったの?!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。昔弾いてた縁で、今回誘ってもらえたんだ」
「へぇ……すごいなあ……」
相川は俺を見つめ、また一口板チョコをかじる。
そして、ぽつりと呟いた。
「うちさ、本当はトランペット奏者になりたかったんだよね」
「……え?」
それは予想外の言葉に、思わず聞き返した。
相川は、ローファーでコンクリートをつつきながら、静かに話す。
「吹部でずっと吹いてて、楽しくて、レギュラーにも選ばれてたから、このままプロになりたいって思ってたの。けど、中学生んとき親に反対されたんだ。だって、プロ目指すんだったら、音大とか行かなきゃ無理じゃん? 学費クソ高いし」
相川の言葉は、痛いほどわかった。俺も同じような理由で、一度音楽を辞めていたから。
相川はチョコレートのついた唇をぺろっと舐め、そして笑った。
「先生みたいに、大人になってからもトランペットやれるかな」
「うん。やれる」
俺は、断言した。そして、彼女の肩を叩く。
「とにかく今は、目の前のことを頑張れ。来週期末だろ」
「はぁ~がんばりますか~」
「気をつけて帰れよ」
最後の授業が終わり、教室から出ていく生徒を、ホワイトボードを消しながら見守る。
そして、教室には誰もいなくなった……と思ったら、相川だけが残っていた。
いつも一緒にいるもう一人のギャル・篠原は、確か今日は風邪で休みだ。
「どうした?相川」
相川はカバンの上で頬杖をついて、俺をじっと見つめて……そしてこう聞いてきた。
「せんせ、首のそれキスマ?」
「っ……!!」
慌てて、その視線の先にあった首元を抑える。
しまった。さっきの休み時間、ネクタイを緩めていたのを忘れてた。
「ち、がう、これは……そう、蚊に刺された」
「この季節にぃ?」
「……くっ……」
いや、言い訳が我ながら下手すぎる。
俺が黙っていると、相川はにやにやしながら席を離れ、顔を覗き込んできた。
「教えてくれないなら、塾長先生に聞いてこようかなぁ」
「……お菓子で見逃してくれませんか」
「しょうがないな~」
二人で、塾の向かいのコンビニへ寄る。
外は凍えそうなほど寒かったが、星と月は明るかった。
板チョコを買ってやると、早速相川は箱の封を切って、一口かじった。
「先生、やっぱ彼女いたんだぁ。隅におけないねぇ」
「……広めるなよ」
「広めないよー。どんなひと? まさか、うちの塾の中にいる?!」
「いや、職場は関係ない」
俺は一緒に買ったコーヒーを一口飲んで、そして相川に笑って答えた。
「どんな人、か……ま、可愛いかな」
「あは、なんか先生がそういうこと言うとキモ」
「おい。聞いておいてお前」
相川はけらけら笑って、首を傾げた。
「その人と結婚するの?」
「ん~、どうだろ。まだ付き合ってそんなに経ってないしな……」
「えー、なにそれ。結婚したいんだったら早くそれっぽいこと言っとかないと、逃げられちゃうよー?」
「ははは」
思わず笑う。女子高生のくせに、ませたことを言う。
逃げる? 一芽に限ってそれはないだろ。だって俺のこと、めちゃくちゃ好きだし。
「そういえばさ、ずっと気になってたんだけど」
「ん?」
相川は、キラキラした目で俺に聞いた。
「サイクラのメジくんって、先生の友達なんだよね! 家近いの?」
「ごめん、そういうのは言えない」
「えー。てか、なんで先生とメジくんが知り合いなの?」
それを聞いて、どう返答するか少し考える。
まあ、もしこいつがライブに来るんだったらどうせバレるだろうし、言ってもいいか。
「……実は」
周囲に聞こえないように、相川に耳打ちした。
「……えー?!先生ライブでギターやるの?!」
「しーっ!!声が大きい!!」
「だから知り合いだったんだ! てか先生ってギターリストだったの?!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。昔弾いてた縁で、今回誘ってもらえたんだ」
「へぇ……すごいなあ……」
相川は俺を見つめ、また一口板チョコをかじる。
そして、ぽつりと呟いた。
「うちさ、本当はトランペット奏者になりたかったんだよね」
「……え?」
それは予想外の言葉に、思わず聞き返した。
相川は、ローファーでコンクリートをつつきながら、静かに話す。
「吹部でずっと吹いてて、楽しくて、レギュラーにも選ばれてたから、このままプロになりたいって思ってたの。けど、中学生んとき親に反対されたんだ。だって、プロ目指すんだったら、音大とか行かなきゃ無理じゃん? 学費クソ高いし」
相川の言葉は、痛いほどわかった。俺も同じような理由で、一度音楽を辞めていたから。
相川はチョコレートのついた唇をぺろっと舐め、そして笑った。
「先生みたいに、大人になってからもトランペットやれるかな」
「うん。やれる」
俺は、断言した。そして、彼女の肩を叩く。
「とにかく今は、目の前のことを頑張れ。来週期末だろ」
「はぁ~がんばりますか~」
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