隣の夜は青い

No.26

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火属性現る

04

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「先生さよーならー」
「気をつけて帰れよ」

 最後の授業が終わり、教室から出ていく生徒を、ホワイトボードを消しながら見守る。
 そして、教室には誰もいなくなった……と思ったら、相川だけが残っていた。
 いつも一緒にいるもう一人のギャル・篠原は、確か今日は風邪で休みだ。

「どうした?相川」

 相川はカバンの上で頬杖をついて、俺をじっと見つめて……そしてこう聞いてきた。

「せんせ、首のそれキスマ?」
「っ……!!」

 慌てて、その視線の先にあった首元を抑える。
 しまった。さっきの休み時間、ネクタイを緩めていたのを忘れてた。

「ち、がう、これは……そう、蚊に刺された」
「この季節にぃ?」
「……くっ……」

 いや、言い訳が我ながら下手すぎる。
 俺が黙っていると、相川はにやにやしながら席を離れ、顔を覗き込んできた。

「教えてくれないなら、塾長先生に聞いてこようかなぁ」
「……お菓子で見逃してくれませんか」
「しょうがないな~」



 二人で、塾の向かいのコンビニへ寄る。
 外は凍えそうなほど寒かったが、星と月は明るかった。
 板チョコを買ってやると、早速相川は箱の封を切って、一口かじった。

「先生、やっぱ彼女いたんだぁ。隅におけないねぇ」
「……広めるなよ」
「広めないよー。どんなひと? まさか、うちの塾の中にいる?!」
「いや、職場は関係ない」

 俺は一緒に買ったコーヒーを一口飲んで、そして相川に笑って答えた。

「どんな人、か……ま、可愛いかな」
「あは、なんか先生がそういうこと言うとキモ」
「おい。聞いておいてお前」

 相川はけらけら笑って、首を傾げた。

「その人と結婚するの?」
「ん~、どうだろ。まだ付き合ってそんなに経ってないしな……」
「えー、なにそれ。結婚したいんだったら早くそれっぽいこと言っとかないと、逃げられちゃうよー?」
「ははは」

 思わず笑う。女子高生のくせに、ませたことを言う。
 逃げる? 一芽に限ってそれはないだろ。だって俺のこと、めちゃくちゃ好きだし。

「そういえばさ、ずっと気になってたんだけど」
「ん?」

 相川は、キラキラした目で俺に聞いた。

「サイクラのメジくんって、先生の友達なんだよね! 家近いの?」
「ごめん、そういうのは言えない」
「えー。てか、なんで先生とメジくんが知り合いなの?」

 それを聞いて、どう返答するか少し考える。
 まあ、もしこいつがライブに来るんだったらどうせバレるだろうし、言ってもいいか。

「……実は」

 周囲に聞こえないように、相川に耳打ちした。

「……えー?!先生ライブでギターやるの?!」
「しーっ!!声が大きい!!」
「だから知り合いだったんだ! てか先生ってギターリストだったの?!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。昔弾いてた縁で、今回誘ってもらえたんだ」
「へぇ……すごいなあ……」

 相川は俺を見つめ、また一口板チョコをかじる。
 そして、ぽつりと呟いた。

「うちさ、本当はトランペット奏者になりたかったんだよね」
「……え?」

 それは予想外の言葉に、思わず聞き返した。
 相川は、ローファーでコンクリートをつつきながら、静かに話す。

「吹部でずっと吹いてて、楽しくて、レギュラーにも選ばれてたから、このままプロになりたいって思ってたの。けど、中学生んとき親に反対されたんだ。だって、プロ目指すんだったら、音大とか行かなきゃ無理じゃん? 学費クソ高いし」

 相川の言葉は、痛いほどわかった。俺も同じような理由で、一度音楽を辞めていたから。
 相川はチョコレートのついた唇をぺろっと舐め、そして笑った。

「先生みたいに、大人になってからもトランペットやれるかな」
「うん。やれる」

 俺は、断言した。そして、彼女の肩を叩く。

「とにかく今は、目の前のことを頑張れ。来週期末だろ」
「はぁ~がんばりますか~」


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