契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

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新たなる風

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「っだーーーー!しつけーし、うるせぇー!!」

 ライルと話をしている間に、ついにコダがジェフの質問攻めに嫌気をさして大声を上げた。

「うわっ!だからコダって嫌いだー!いつもみんなの前じゃ無口で格好つけてるけど、本当は僕より子供みた……」

 その先を言うよりも早くタカオがジェフの口をふさぎ、グリフが暴れそうなコダの首根っこを掴み引き離した。

「いいかげんにしろ」

 グリフの呆れた声が響く。それはコダとジェフ両方に向けられていた。

「でもっ!僕だって知りたいんだ!だって……」

 ジェフは口を覆っていたタカオの手を引き剥がすと、グリフに食ってかかった。

 グリフは足を止めると、掴んでいたコダをぼとりと床に落とした。タカオがそれに気がついて、ジェフをなだめようとし、ジェフも遅れて気がつくと顔を強張らせた。

 グリフは振り返りもしなかった。

「まるで、いつかの誰かみたいだ」

 グリフの言葉に戸惑ったのは、ジェフではなくコダとライルのほうだった。コダは訝しげな顔でグリフを見上げる。グリフはジェフに振り返ると、先ほど言いかけたことを聞く。

「だって、何なんだ?」

 怒られると思ったジェフは、助けを求めるようにタカオを見るけれど、タカオを見たところで肩をすくめただけだった。助けを求めるのを諦めたジェフは、決意を決めたようにグリフに一歩近づいた。

「だって、100年前のことになると、母ちゃんも、エントも、他のみんなだって、何か隠してる。誰も本当のことを言ってないんだ。グリフもイズナもだ。コダなんか、何も教えてくれない!」

「それは、お前がまだ子供だから」

 コダがそう口を挟むと、思わず、自分で自分の口を塞いだ。

「コダ?」

 コダの不思議な行動にジェフは首を傾げた。

「なんでもない」

 コダはそう言うと考え込むように視線を落とし、それ以上は何も言わなかった。ジェフはグリフを見上げて、やはり質問攻めにする。

「ねぇ、100年前、コダとグリフに何が起こったの?どうしてばらばらになったの?王子は本当に、みんなが言うように逃げちゃったの?王都はどうして、闇の者に滅ぼされたの?どうしてドワーフは」

 その質問が積み重なるほど、コダとグリフの表情は曇っていく。彼らには、過去を思いだすのは苦痛なのかもしれない。多くのことを奪われたなら、それも当然だ。その心を想像すると、タカオは胸が苦しくなった。タカオはそっとジェフの肩を掴むと、もうその質問を止めさせた。

「コダとグリフが言えないのは、ジェフが子供だからなわけじゃないよ。本当に大切な話をするには、時間がかかるんだ。自分と向き合わなきゃならないから」

「よく分かんないよ」

 ジェフはそう言って口をとがらせる。

「ジェフ、君はもう子供じゃないだろ?自分で見て、考えて、判断できる。できるよな?できないならまだ子供だ」

 ライルが誰よりも大きな声でそう言って、ジェフの頭をぐしゃぐしゃにする。ジェフは慌てて抵抗した。

「なんだってできるよ!僕はもう子供じゃないから!」

「そうか。子供じゃないなら、少しくらい、相手が話しだすのを待ってみるもんだ。それが大人の余裕ってやつだ」

 ライルはにやりとすると、ジェフはうなずきそうになってから思いとどまった。

「でももし、ずっと話しださなかったら、どうするの?」

 可笑しそうに笑うと、ライルは少し考えてからそれに答えた。

「待ってもダメだったら、咳払いをひとつすればいい」

「咳払い?それでもだめなら?」

「あくびだ。それから大きな伸びをして、大きく息を吸い込んだ」

「バカみたい。そんなの意味ないよ」

「大いにあるさ。準備が整ったら、今度は天気の話しだ。天気の話でなくてもいい。そう、当たり障りのない話だ。相手を油断させて、信用させる。油断させるには、そうだな……」

 いつの間にか、ライルの話にジェフはすっかりと夢中になっていた。




「助かったよ」

 ライルの話を熱心に聞くジェフに聞こえないように、コダは声をひそめてタカオにそう言った。けれど、グリフが不機嫌そうな顔をして、ライルとジェフを睨んでいる。

 イズナがすっと現れると、グリフの心の声を読んだかのようにぼそりと呟いた。

「あいつ、あの手この手で聞き出そうとしてくるぞ。昔のどっかの誰かみたいに」

 イズナとグリフの視線は完全にコダに向かい、大きなため息を吐き出した。
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