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人葬れば立煙
しおりを挟む煙が夕暮れ空に消える。
その母を焼いた火に悼みはなく、どちらかといえば仰々しい悲しみ合戦に嫌気がさす。別になんとも思ってないのだろ?だって俺は何も思ってないのだもの。
じきにほかの煙突からも煙は上がる。それらが絡み合って空へと消える。知らない誰かと交わっているのを子どもが見ている。そういうと見たくもない光景だ。
「あれ、もしかして…」
という声に反応して振り返ると、どこかで見たような顔がある。果たして誰だっけ?
「あの…もしかしてだけど、小学生のとき…」
「あぁ!」
十数年も前の記憶を掘り出しても名前は思い出せなかったが、顔は思い出せた。
「どうしたの?」
「いや、母親がね…」
「へぇ…それは寂しいね」
思ってもないが。
「まあでも、長生きじゃないかしら」
「…あれ、お兄さんは?確かいたよね、お兄さん。せっかくだから挨拶したいのだけれど…」
「あっいや、今日は来てなくて…」
「あ、そう…」
なんだか歯切れ悪い。
「…そういえば!最近何してるの?就職とか…?」
「ん?あぁ実は芸人やってて…」
「そうなんだ!あ!確かにキャンプファイアーの余興すごく面白かったもんね!」
「そうそうそうそう、あそこで勘違いしたんだよ、俺は面白い!って」
気が乗らない話題よりも、こちらの話題の方が良さそうだ。
「テレビとかにも出てるの?」
「いや…ほとんど出たことない。ずっとライブライブライブの毎日でね。あ、動画サイトにネタあるから見てみてよ」
と、携帯を見せ、ついでに連絡先も交換する。細かいことだけれど、少しずつ見てくれる人を増やすのが肝要なのだ。
「へぇ…これ?」
「うん。暇なときにでも見て!じゃ、そろそろ時間だから…」
「そ、そっか…あ、そういえばね!わたし今タクシーの運転手してるんだけど!せっかくなら送ろうか?」
「あぁ、そうね…明日東京帰るときにでも駅まで送ってもらおうかな。明日の時間が決まったらまた連絡するわ!」
そういう会話と共に退屈な葬式も終わり、田舎から引き揚げようと揚々と彼女のタクシーを呼ぶ。
「お待たせ」
そういうと彼女はタバコを吸っていた。
「あ、吸っていいの?」
「うん。まぁ、個人でやってるから」
「ふーん」
と言い俺も吸う。禁煙なんて都会のマナーかと思ったら、こっちでも白い目で見られるようになっていて肩身が狭かったなぁ…。
夜の町は暗い。街灯こそあれ、人ではなく車のためについている寂しい灯りたち。ただそれら少しずつが集まって視界を開いている。ここは人間の場だと指し示し、山々に対して結界を張っているようだが、それは虚勢にも思える。人口も少なくなっているようだし、俺もその一人だし。
「…あのさ、あそこに山があるでしょ?」
「ま、あるというか、昨日の火葬場があったところだろ?それが?」
「わたしの兄…あそこに埋めたんだよね」
「…埋めた?」
平静を装いつつ、不意に落ちた灰が肌に熱い。グッと堪えたのは、真剣だったからだ。
「兄は引き篭もりでさ。親は容認していたし、わたしも別になんとも思っていなかったの。でも…父親が亡くなって、母親が倒れたあともその調子で、親の入院費も兄の面倒もわたしが見なくちゃいけなくなって…他に頼る人も居なくてさ。母親のことはいいの。問題は兄。他の人に言っても取り付く島もないって感じ。二言目には『兄が働けばいいじゃないか?』ってさ。でも、それを兄には言えなかったんだよね…結局。そしたらある日、ケチつけられてさ。夕飯の味付けが違う。ママはこんな味付けはしない。オマエのメシは不味いって…。なんか、ほんと許せなくなっちゃって。で、ふと気づいたの。今、兄の存在を気にかけているのはわたしだけだって。殺しても別に問題ないんじゃないかって。だから少しずつ食事に毒を入れてね…うん。そして、いつのまにか死んでた。いつ死んだかもわからない。いや、わからないふりをしてたの。毎回食事を取りに行くたびに、今日は残してるな。もしかして気づいたのかな?みたいなこと思いながら、二、三日くらいして本格的に食べてないことを確認して。で、部屋に入って…うん。そこからはどうしたかはほとんど覚えてないや。重くてそれどころじゃなかったし。寝袋に入れて、はみ出ないようにテープでぐるぐる巻きにして、で、この車に載せて運んで行って、深夜、あの山に。深く深くに埋めて…そして一服したのは夜明け前だったかな?…昨日さ。煙を見ていたの。あの時のタバコの煙と一緒だと思って。でも違う。昨日の煙にはお母さんが入ってる。あの日の煙はタバコの煙。わたしの魂は入っていても、兄の魂は埋まったまま…きっと幽霊になってまだそこにいるんだろうなって」
そういうと、軽く一回口につけたあと、まだそこまで吸っていないタバコを缶コーヒーへと捨てた。どうしようもなく疲れているのだろう。最後の善性で、窓から捨てていないだけなんだろうな。誰かに見られている意識…それは神様かもしれないし、幽霊かもしれない。
「昨日、動画見たよ。あの頃のままでさ。嫉妬しちゃった。でも、面白くってさ。あーあ、わたしも君みたいになれたのかなぁ…兄さえいなければ…」
「関係ないんじゃない?」
「え?」
「関係ないよ。俺はただ非情だっただけ。やりたいことだけ貫いただけ。反対に、君は優しすぎるんだ、その方が人間としては素晴らしい」
「…そうなのかなぁ」
煙はただ空へと向かう。俺は自分の言葉を反芻する。間違っていないか、大丈夫だったか。
やがてエンジンをかけると彼女は駅へ向かわず、そのまま俺とともに東京へと走り出した。俺も二度とこの地へ帰ることはないだろう。
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