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導入
しおりを挟む久々の分科会招集である。
速水雅紀が徐に会議室を開けると、知った顔が並んでいた。
「あれ、雅紀やん」
桜咲。雅紀と同じ学院出身の友人だ。黒髪短髪の女性で、闊達闊達な関西弁を話す。
そして奥で静かに魔導書を読んでいる御仁も、雅紀は知っていた。
「直也さん、お久し振りです」
「…………ああ」
顔を上げて雅紀を見た彼は、頷いたのち視線を魔導書へと戻した。
柊直也。雅紀を育てている人が手を差し伸べた外典だ。珍しいことに、ほとんど拘束具がついていない。それだけ危険度が低いと見られている。
そして一番奥では、辰栄が地図を広げて睨んでいた。
扉が開いた。振り返れば立つのは黒髪の女性だ。見たことがある気はするが、名前が出てこない。
「揃いましたね。分科会ミーティングを始めます」
辰栄の言葉に全員が席へと着いた。
「速水雅紀君、桜咲さん、柊直也さん。
君達には異境にいる禁書を編纂してもらいます。
そちらの女性は付き添いです。編纂の立ち会いをして頂きます。名前は現地で聞いてください。
異境の地図もお渡ししておきますね」
渡された地図を見て、既視感に目を瞬かせた。
固まった雅紀に、同じく地図を見た女性が唇の端を上げる。
「気付いたかい」
「……では、そうなのですか。何故この地図がここに」
話が読めない桜が首を傾げる中、直也がああ、と理解出来たように口を開いた。
「ハーメルンの異境と同じ配置図か」
「ハーメルンと!?」
禁書【ハーメルンの笛吹き男の慟哭】が構築する異境がある。白い建物が街を覆い、中央に骨によって組み立てられた塔が立つ場所で、偶発的に異境に入る事になった分科会からの情報で地図を描き、禁書により攫われた子供達の帰還を目的に、雅紀・車屋・茶屋の三人で異境へ進入したこともあった。
雅紀・桜の共通の友人であるアルファルドという青年が、昔この異境から脱出した生い立ちを持ち、同じように子供達を帰還させようとしたところ、禁書とその所有者である「狂人」に捕まった……という浅からぬ縁がある。
結局アルファルドは別の分科会により救出されたが、子供達はまだ救えていないこともあり、大法典として狂人討伐の機運は高まっている。その旗頭の一人が、目の前に居る辰栄だ。
そういった因縁のある土地と同じ配置図とはどういう事かと辰栄を見れば、彼は口を開いた。
「……今から向かう異境は、『この先有り得たかもしれない未来の分岐点の一つ』です。
場所は異境『ハーメルン』で、大法典が狂人討伐を行うため攻勢をかけた最中だと思われます。だから、ハーメルンの地図が役立つのです」
「未来の分岐点……」
「とはいえ、ほぼほぼ有り得ない未来の内容も拾っている可能性があります。例えば、大法典に所属している人が敵になっていたりだとか」
「要は知り合いに会っても信用したらあかんてことですか」
桜がふむふむと唸った。直也は顔色を変えない。女性は目を細めている。
雅紀としては、自分もそうだが、桜もやや心配ではある。懐に入れるとトコトン優しいのだ、彼女は。仲の良い魔法使いが敵でいないことを祈るしかない。
そうしている間にも、辰栄の話は続いた。
「状況は着かないと分かりません。編纂時期に関してもあちらで皆さんで決めていただきたいですが、長くは持待てません。精々6時間くらいと思ってください」
「6時間……ですか」
通常は編纂までは3日4日ほど余裕がある事が多い。
対して6時間とはかなり急だ。
顔を引きつらせた雅紀を他所に、辰栄が持っていた筆を奮った。
気が付けば、姿鏡が壁に立てかけてあった。
「改めて。禁書名は【鏡の世界のもしも】です。3単語ですね。
あとは皆さんで自己紹介や話し合いを終えたのち、鏡の中へ入ってください。あれが入り口です。
それでは、あなた達の幸運を祈ります」
辰栄はそれだけ言い、席へと戻った。
女性が代わりに立ち上がり、地図を広げる。そして、中央の広場を指差した。
「もしはぐれたら、この広場で待ち合わせだ。
念話は傍受される可能性があると心得な。それでも構わないなら繋げて構わない」
「分かりました」
「お前達全員知り合いだろう?
あたしも三人の名前や所属は知っている。自己紹介は必要ない。さっきも言ったが、あたし自身の名乗りは向こうでやる。理由は『大母亲』の関係者で、今名乗っても恐らく異境先では認識出来なくなる可能性が高いからだ」
大母亲、に桜の身が僅かに動いた。
既視感を覚えた様な顔つきである。桜も「見た事はあるが誰か思い出せない」状態になったようだ。
長い黒髪の女性だ。耳元にイヤリングやピアスを嵌めており、手には鎖が巻きついている。
さて、と女性が口を開いた。
「ここまで異論はなさそうさね。
一応確認しておこう、お前さん達はこの会議室に来るまでに『誰』と出会った?」
質問の意図が読めないが、確かに同じ道を通る御仁と会話をした。
「木波芳養さんとお会いしました」
「うちは渚大地さんと」
「……宗貴将と」
それぞれ伝えると、彼女はゆるりと微笑んだ。
「あたしの勘が正しければ、全員あちらでは敵だ。
何を話していたかを念頭に置いて、気を付けな」
「!?」
腰を浮かした桜を手で制し、女性は辰栄を見る。
「『誰かに捧げる励ましの言葉』翁長テトを呼びな」
「理由をお聞きしても?」
「手数が足らない。もう一人要る。
この三人ではノーマルエンドには辿り着けるが、ベストエンドには足らない。ここで拾っておかないとまずい情報に関してだろう。嫌な予感がする。
越境者と縁のあるやつがいい。恐らくあちらでは既に死んでいる奴が一番後腐れがなくていい、その中で直感で一番いいと思ったのが彼だ」
「承知しました。お呼び出しします。来たらそのまま送り込みますね。……どうして貴方があちらのことを知っているのかお聞きしても?」
「考えればわかる話だろう。彼はあたしが救った命だ」
「納得しました」
その後話を打ち切られ、まともな会話もないまま鏡の前に立つことになった。
姿鏡に足を踏み入れる。
どこかに強く引かれる感覚ののち、視界は暗転した。
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