マギカロギア-小説『鏡の世界のもしも』

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第1サイクル

1-0 大母亲

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 分科会招集の一週間前。
「来週、例の異境への道が繋がるんだろう。
 あたしを同行させな。それが『豹子頭』林冲討伐に手を貸す対価だ」

 大母亲は辰栄にそう言い放った。
 辰栄は警戒したように眉を潜めて口を開く。

「構いませんが、あちらの大母亲は、」
「あたしから代替わりしてるんだろう。知ってるよ。
 だから別の入れ物にあたしの人格だけ移して参加する。異境でならあたしも名乗れるだろう?」
「……誰から例の異境についての情報を」
「黙秘するよ。先方との契約だ」

 言いつつ辰栄を見据える。
 事態を見守っていた萩原がそっと手を挙げた。

「異境に行って何がしてえんだ?」
「『嘆きの詩人』に接触する。それと、豹子頭の実際の強さも見たいからね」



 そして現在。
 大母亲の殻を脱ぎ捨てた女性は塔の頂上へと降り立った。周囲を黒い澱みが覆い、女性へと手のように伸びる。
 それを、女性はむんずと掴んだ。びくりと驚いたように震えた澱みは霧散する。

(御守りを借りておいて良かったね)

 内心確認しつつ、『御守り』と称したそれを取り出す。牡丹の刺繍の入った巾着袋だ。しかし刺繍の柄は不慣れなのか、やや歪み、巾着も全体的に古びている。
 当然だ、『罪人』菊市紋次郎が愚者時代に初めて編んだものである。夜明壱夜が魔法で丁寧に修繕しながら長く使ってきた一点物で、彼が気に入り持ち歩く道具のひとつだ。
 懐から取り出すと、乳白色の輝きを纏った何かが巾着袋の中から帯のように飛び出した。帯が重なったそこにいたのは、女性だ。

「言っただろう。断章『女』」

 声をかければ、乳白色に輝く女性――断章は面白くなさそうに睨んだ。やがて、黒い澱みの中心部を指差す。

「そこにこの異境の夜明殿が居るのかい。
 じゃあ、助けに行こうかね。道はお前さんが開いてくれるんだろう?」
『穢れであれば払えるわ。でも、魔法使いに取り憑いた穢れは戦わないと無理ね』
「なら蹴散らすまでさ」

 断章『女』は、大母亲の継承戦および夜明と因縁のある禁書『百の鬼と夜を行く女』に属する。所在は夜明の所持品のどれかにランダムに憑依していると数百年前に割れており、ただ探し出すには手間がかかる事と、ほぼ無害なため、時が来るまでと放置されていた。
 ただ、この『女』は禁書のもとになった土地神の性質を一部受け継いでおり、破邪の力を有していた。かつ、「夜明の所持品に憑依する」という性質上、夜明が憑依した所持品を落とすなどした場合は夜明の行き先を探知して彼の手元に戻るといった機能も有している。
 それは、この異境でも例外ではないため、夜明の居場所探知機としては最適、故に所持品から『女』を引き当て借りたのだ。

 わらわらと正気を失った魔法使いが、学派の敵味方関係なく群がってくる。
 魔法を駆り、吹き飛ばした。
 花火のように紫の光が周囲に爆ぜる。刃物、銃火器、爆弾、全ての戦いに使える「武器」と呼ばれるそれらが組み上がっていく。

「我が存在はただ1人の為に在り。
 あの子の遺志を継ぐ為に在り。
 その為なら1人からでも戦争くらい始めてやるさ。
 故に我が名は『歩く戦争屋』杜京。
 蜂の巣になりたい連中からかかってきな」

 紫の閃光が澱みを裂き、迸った。
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