15 / 54
1章:冒険の終わりと物語の始まり
憎悪の理由
しおりを挟む
これは、クロウがマリーに殺される数日前のお話―————————。
温かい日差しが窓から差し込むキッチンで、黒髪の少女と赤毛の女が向かい合っていた。始めに口を開いたのは黒髪の少女———アリスだった。
「君の目的は何だい?」
アリスのその一言を聞いたマリ―だったが、きょとんとした表情で言葉を返した。
「目的って何だい?それよりクロウ君を起こしてきてくれるかい、もう少しで朝ご飯の準備ができるからさ」
「とぼけなくてもいいんだよ。昨日の時点で違和感はいくつもあったんだ」
不気味な沈黙が訪れた。マリーの横にたたずむ息子のアレンが、彼女のエプロンの端をぎゅっとつかんだ。アリスはその様子を見て、はぁーとため息をつき
「答えてくれる気はないようだね。じゃあ、質問を変えよう。アレン君の正体はいったい何だい、彼は本当に生きているのかい?」
その言葉を聞いたマリーの表情が一瞬凍り付いた。静寂が場に訪れる。マリーは張り付いた笑顔で
「アリスちゃん、何を言っているのかしら?アレンならほら、私のエプロンの裾をつかんでいるじゃない」
と言った。アリスはさらに追及を続けた。
「・・・じゃあアレン君、すまないが少ししゃべってみてくれるかな?」
再び静寂が訪れる。再度、マリーが弁明を始めたが、その表情には何の感情も見られなかった。
「・・・・実はね、アレンは生まれた時からしゃべれないのよ。あんまりそういうことは言いたくなかったものだから言わなかったのだけど、それでもし誤解させちゃったならごめんなさいね」
「・・・君は確か言っていたよね、その子の父親は魔王に徴兵されてしまったと。魔王が倒されたのは20年以上も前だ、その時にアレン君の父君がなくなったのならアレン君は今頃10歳以上のはずなんだがね。どう見ても彼の年齢は5,6歳程度だよ」
「・・・・クロウ君にもう言ったのかい?」
マリー光の消えた赤い瞳でそうアリスに聞いた。
「言ってないさ、さっきも言っただろう?私が知りたいのは君の目的、ただそれだけだ」
アリスはそう言いきった。そして
「やはり、君が昨日言っていた魔王の徴兵が関係しているのかい?」
と続けた。マリーは目を見開いた。
「それほど驚くことでもないだろうさ。君の夫は人族との戦争のために徴兵され、そこで亡くなったといった。しかしだね、多少の戦闘はあったが、表面的な人族と魔人族との全面戦争は起こらなかった、誰かさんが魔王を倒したからだ。なのに君の夫は亡くなった。仮にだ、君の夫が魔王の住む城の守りを任されていて、そこに乗り込んだ人間がいたというのなら、あとは想像に難くないだろう?」
「そう、そこまでわかっているのね。じゃああなたは何が聞きたいの?さっきは目的が知りたいって言ったけど、その様子だともう何もかもわかっているんじゃない?」
とマリーは半ばあきらめたような口調で、どこかなげやりに言った。
「ひとつわからないことがあるんだ。どうして君は我々を助けたんだい?憎むべき人間が岸に流されていても普通は助けないだろう?」
「・・・私が憎んでいるヒトはこの世に3人いるのよ。一人はクロウ君、もう一人は無理やり私たちの村からあの人―——私の夫を徴収していった魔王。つまりねアリスちゃん、クロウ君は憎むべき相手なんだけど、感謝したい相手でもあるのよ。川で彼を見つけた時、正直どうするか迷ったわ。だけどね、彼はあの岸で魔族のあなたを抱いていたの、まるで守っているみたいにね。それでね、どうするのか、どうすべきかどうかを決めるのは彼がどんな人間かを見てから決めようと思ったのよ」
「・・・そうか。ちなみにあと一人は誰なんだい?」
マリーは言うのをためらっているのか、少しの間が空いた。しかし、彼女は意を決したのか、ふーっと息を吐くと話し始めた。
「もう一人、一番憎いのは私自身なのよ。あの人、私の夫が死んだと聞いてからなかなか立ち直れなくてね、ずっとふさぎ込んでいたのよ。そんな私を心配してアレンは私が好きな花を採りに行ってくれたのよ。あの日も昨日みたいに雨が降った次の日で川の流れが速かったのよ・・・」
そこまで聞けばその先を察することはアリスにとってとても簡単なことだった。
「私があの子を見つけることができたのは次の日になってからだったわ。その時にはもうあの子の体は冷たくなっていて・・・、手に私の好きな花を———エクリースを握りしめていたわ」
マリーはそう話を締めくくった。
「アリスちゃん、あなたがどうしたいのかは分からないけど、もしよかったらもう少しだけクロウ君には黙っていてもらえないかしら」
アリスは目を細め、少し考えているようだった。
「・・・分かった、クロウにはこのことはとりあえず黙っておくことにするよ」
マリーはありがとうと言って頭を下げた。アリスはわざと明るい声を出し
「朝からこんな話をして悪かったね。私はクロウを起こしに行くとするよ」
と言い、クロウの寝ている寝室に向かって歩き出した。
「―———以上が我々がこの村で迎えた初めての朝の話だよ」
クロウはアリスの話を聞き、彼女の憎悪の理由を理解した。だが、彼女にどうやって報いればいいのか、今のクロウには分からなかった
温かい日差しが窓から差し込むキッチンで、黒髪の少女と赤毛の女が向かい合っていた。始めに口を開いたのは黒髪の少女———アリスだった。
「君の目的は何だい?」
アリスのその一言を聞いたマリ―だったが、きょとんとした表情で言葉を返した。
「目的って何だい?それよりクロウ君を起こしてきてくれるかい、もう少しで朝ご飯の準備ができるからさ」
「とぼけなくてもいいんだよ。昨日の時点で違和感はいくつもあったんだ」
不気味な沈黙が訪れた。マリーの横にたたずむ息子のアレンが、彼女のエプロンの端をぎゅっとつかんだ。アリスはその様子を見て、はぁーとため息をつき
「答えてくれる気はないようだね。じゃあ、質問を変えよう。アレン君の正体はいったい何だい、彼は本当に生きているのかい?」
その言葉を聞いたマリーの表情が一瞬凍り付いた。静寂が場に訪れる。マリーは張り付いた笑顔で
「アリスちゃん、何を言っているのかしら?アレンならほら、私のエプロンの裾をつかんでいるじゃない」
と言った。アリスはさらに追及を続けた。
「・・・じゃあアレン君、すまないが少ししゃべってみてくれるかな?」
再び静寂が訪れる。再度、マリーが弁明を始めたが、その表情には何の感情も見られなかった。
「・・・・実はね、アレンは生まれた時からしゃべれないのよ。あんまりそういうことは言いたくなかったものだから言わなかったのだけど、それでもし誤解させちゃったならごめんなさいね」
「・・・君は確か言っていたよね、その子の父親は魔王に徴兵されてしまったと。魔王が倒されたのは20年以上も前だ、その時にアレン君の父君がなくなったのならアレン君は今頃10歳以上のはずなんだがね。どう見ても彼の年齢は5,6歳程度だよ」
「・・・・クロウ君にもう言ったのかい?」
マリー光の消えた赤い瞳でそうアリスに聞いた。
「言ってないさ、さっきも言っただろう?私が知りたいのは君の目的、ただそれだけだ」
アリスはそう言いきった。そして
「やはり、君が昨日言っていた魔王の徴兵が関係しているのかい?」
と続けた。マリーは目を見開いた。
「それほど驚くことでもないだろうさ。君の夫は人族との戦争のために徴兵され、そこで亡くなったといった。しかしだね、多少の戦闘はあったが、表面的な人族と魔人族との全面戦争は起こらなかった、誰かさんが魔王を倒したからだ。なのに君の夫は亡くなった。仮にだ、君の夫が魔王の住む城の守りを任されていて、そこに乗り込んだ人間がいたというのなら、あとは想像に難くないだろう?」
「そう、そこまでわかっているのね。じゃああなたは何が聞きたいの?さっきは目的が知りたいって言ったけど、その様子だともう何もかもわかっているんじゃない?」
とマリーは半ばあきらめたような口調で、どこかなげやりに言った。
「ひとつわからないことがあるんだ。どうして君は我々を助けたんだい?憎むべき人間が岸に流されていても普通は助けないだろう?」
「・・・私が憎んでいるヒトはこの世に3人いるのよ。一人はクロウ君、もう一人は無理やり私たちの村からあの人―——私の夫を徴収していった魔王。つまりねアリスちゃん、クロウ君は憎むべき相手なんだけど、感謝したい相手でもあるのよ。川で彼を見つけた時、正直どうするか迷ったわ。だけどね、彼はあの岸で魔族のあなたを抱いていたの、まるで守っているみたいにね。それでね、どうするのか、どうすべきかどうかを決めるのは彼がどんな人間かを見てから決めようと思ったのよ」
「・・・そうか。ちなみにあと一人は誰なんだい?」
マリーは言うのをためらっているのか、少しの間が空いた。しかし、彼女は意を決したのか、ふーっと息を吐くと話し始めた。
「もう一人、一番憎いのは私自身なのよ。あの人、私の夫が死んだと聞いてからなかなか立ち直れなくてね、ずっとふさぎ込んでいたのよ。そんな私を心配してアレンは私が好きな花を採りに行ってくれたのよ。あの日も昨日みたいに雨が降った次の日で川の流れが速かったのよ・・・」
そこまで聞けばその先を察することはアリスにとってとても簡単なことだった。
「私があの子を見つけることができたのは次の日になってからだったわ。その時にはもうあの子の体は冷たくなっていて・・・、手に私の好きな花を———エクリースを握りしめていたわ」
マリーはそう話を締めくくった。
「アリスちゃん、あなたがどうしたいのかは分からないけど、もしよかったらもう少しだけクロウ君には黙っていてもらえないかしら」
アリスは目を細め、少し考えているようだった。
「・・・分かった、クロウにはこのことはとりあえず黙っておくことにするよ」
マリーはありがとうと言って頭を下げた。アリスはわざと明るい声を出し
「朝からこんな話をして悪かったね。私はクロウを起こしに行くとするよ」
と言い、クロウの寝ている寝室に向かって歩き出した。
「―———以上が我々がこの村で迎えた初めての朝の話だよ」
クロウはアリスの話を聞き、彼女の憎悪の理由を理解した。だが、彼女にどうやって報いればいいのか、今のクロウには分からなかった
0
あなたにおすすめの小説
辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた
平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。
それから幾千年。
現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。
そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。
ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。
だが彼自身はまだ知らない。
自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。
竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。
これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる