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122.キーワード『はじめて』

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 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。
 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。
 物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。
 依田俊介・・・伝子の翻訳部後輩。元は宅配便配達員だったが、今はホテル支配人になっている。
 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進むが、今は建設会社非正規社員。演劇は趣味として続けている。
 福本祥子・・・福本の妻。昔、福本と同じ劇団にいた。福本の劇団の看板女優。
 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。
 藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。料理教室経営者。
 大文字綾子・・・伝子の母。ずっと、犬猿の仲だったが、仲直りした。だが、伝子には相変わらず「くそババア」と呼ばれている。
 金森和子二曹・・・空自からのEITO出向。
 増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。
 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。
 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。
 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。
 江南(えなみ)美由紀警部補・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。
 夏目警視正・・・警視庁副総監の直属。斉藤理事官(司令官)の代理。
 なる。EITO準隊員。
 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
 河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。EITOに就職。
 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向
 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。
 村越警視正・・・副総監付きの警察官幹部。久保田管理官との連絡役を行っている。

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==

 午前11時。喫茶アテロゴ。
「お疲れ様です。」と、辰巳がコーヒーを高遠の前に出した。
「青木君、どこにいたんだ?」と物部が尋ねると、「スーパーカーイベントの会場です。そんなに大規模じゃないから、ギャラリーは少なかったみたいだけど、それなりに集まったみたいです。避難誘導は警官隊だけでした。MAITOも待機していたけど、結局消火弾は使わなかった。」
 消火弾とは、陸自の特殊訓練グループMAITOの開発した武器で、大きな水たまりが空中から落ちてくるイメージで、鎮火を早く済ませることが出来る。通常は、消防隊と連携して活動を行う。
「まあ、水浸しになっても、無傷なら、泉さんも『今日の洗車は要らないかな?』とかギャグで沸かせるかも知れないですね。」と、高遠は笑った。
「それで、厄介な敵の対処法は?高遠。」「陽動の部分だけでもヒントありならマシかな?後は成り行きです。何らかのイベント絡むかも知れないから、そこに気を付けて。辰巳君も、何かイベント情報あったら、教えてね。」と高遠は辰巳に言った。
「高遠君、手伝いに行けなくてごめんね。」と、栞は高遠に手を合せた。
「いいですよ、先輩。他にも行けなかった人はいるんだし。慶子ちゃん、祥子ちゃん、あ、あつこ警視もだ。」
「警視は何で?」「健太郎君の定期健診。工藤さんとかには、病院から指示を出したらしいです。流石、池上病院。」
 物部は声を潜めて、「ホットラインを使ったのか?」と高遠に尋ね、高遠は頷いた。
「高遠君。総子ちゃんと大前さんが捕まったのは何故?」と、栞が言った。
「隊員達の士気を上げる為、わざと指揮権を渡したそうです。勿論、知事の護衛の為でもありますが。」と、高遠は応えた。
 客が増え始めたので、物部は小さなディスプレイを閉じた。辰巳は、冷めたコーヒーを下げた。今朝はスマホではなく、EITOが開発したリモート会議用ノートPCを試したのだった。
 午前11時半。伝子マンション。
「ねえ、伝子。ひかる君に進学祝いあげる?」「あげたいけど、前のショックがまだなあ。」と、伝子は天井を見上げた。
 伝子達の仲間でもある、中山ひかるは、前の幹、つまり、敵幹部と知らず、『交際』していた。男子ではあったが、トランスジェンダーだった。
 最終決戦の時に、正体を知った、ひかるはショックからまだ醒めていない。
「青木君の話だと、どうせ大学に入学すると離ればなれになるから、ってゲーセンや映画館をはしごしているらしい。」
「どこの大学だっけ?」「青木君は、青葉新緑大学。ひかる君は、京都森村外国語大学。キョーシン。僕らの後輩になるって言ってたじゃん。」
「そうか。京都と東京か。夏休みに帰省したら、皆で祝ってやろう。」「うん。あ。副部長がね、下宿紹介してやったって。」「そりゃあいい。そうかあ。私たちの後輩かあ。」
「後輩?って言った?」と言いながら、綾子が入って来た。
「お義母さん。ひかる君が、僕らの後輩になるんですよ。」「キョーシン?そうなの?お祝いしてあげなくちゃね。」
「今な。学とも話してたんだが、夏休みに帰省した時にお祝いしようか?って。」
「パーティーはそれでもいいけど、やっぱり何か送ってあげれば?そうだ。商品券よ。全国使えるやつ。」
「それ、いいですね。すぐ手配します。」と、高遠は、高峰くるみに電話した。
「もしもし、くるみさん?高遠です。」
 チャイムが鳴ったので、綾子が出ると、藤井だった。
「おはぎ、どうだった?」と、藤井は言った。伝子が空の容器を持って進み出た。
「ええ?全部食べたの?」「ああ。下痢するくらい食えって言ったでしょ?本気で食いやがった。さやかが10個で。なぎさが11個。私が3個で、学が1個。」
「若いのねえ。森さんは3個で、綾子さんが1個、私が1個。30個完売・・・あ、売ってなかった。」と、藤井は笑った。
「楽しそうに食べてたわ。初めて知ったけど、自衛隊同期なんだって言ってた。ショック乗り越えられるわね、きっと。」
 綾子の言葉に、「そうだ。乗り越えられるさ。今回、私は司令塔だけで、前線にでなかったから、なぎさが気を利かせて、都知事のエスコート役をやらせたらしい。だから、さやかも今回は戦闘に加わっていない。傷は残ったが、ほぼ完治はしているが、前線に出せないなあ、と思ってたんだ。」と、説明した。
「注文しておいた。この季節、お祝いの商品券はよく売れるんだって言ってたよ。お義母さん。ありがとうございます。」
 高遠の言葉に、「えへん、参ったか。」と綾子は言い、「一言多いぞ、クソババア。」と、伝子が言い、藤井がクスクス笑った。
 正午。昼食の準備を始めた高遠だったが、EITO用のPCが起動した。
 4人は、すぐ移動した。
 理事官は、「二人だけでいいんですけど・・・まあ、いいか。」
 画面が切り替わり、New tubeの画面が出てきた。
 《
 恐れ入ったよ、EITOのAIには。靴屋のイベント以外にも3件用意したけど、全部クリアしちゃうなんて、無敵じゃん。ひょっとしたら、ゲームの達人か名人もついてるの?
 じゃあ、ヒントだけで勝負してみる?いい?答は聞こえないけど、オッケーだよね、多分。手のこんだことはしないよ。今回のヒントはねえ。『はじめて』。ね、簡単だよね。1週間以内だよ。内容と場所は推理してね。じゃ、またねー。
 》
「さっき、頭痛薬飲んだよ。」と、理事官は言った。以前の動画もそうだったが、アバターに被って聞こえるのは、キンキン声だ。
「午後2時から会議だ。今日はオスプレイには、新しい操縦士が同乗する。増員したからな。」と言い、画面は消えた。
「変な声ね、あんたは平気なの?」と、綾子は伝子に尋ねた。
「あかりで慣れている。今度入った下條も、あんな声だ。変成器なしでだ。」と、伝子は平然と言った。
「カレーラーメンにしましょう。」と、藤井が言った。
 午後2時。EITO本部。会議室。
「今日から勤務の、ロバート・アンダーソンだ。米軍陸軍の少佐だ。名前に日本名は入っていないが、日系で日本語が話せる。」と、理事官が紹介した。
「今日は。ロバートです、ひいおばあちゃんが日本人です。オスプレイ担当です。よろしくお願いします。」
 拍手が起こった。
「では、会議をしよう。一週間以内と言っていたが、今日明日かも知れない。時間はあまりないからな。さて、『はじめて』と言っているが、はじめてで思いつくことをブレーンストーミングしてみよう。」
 ホワイトボードが出され、日向が書記を勤める。
「卒業式・・・いや、入学式。」と馬越が言った。
「入園式・・・は入学式に入りますか?」と大町が言った。
「一緒にしておこう。さやか。入学式の後ろにカッコだ。」と、伝子が言った。
 一部、『さやか』に反応したが、誰も不服は言わなかった。日向は『入学式(入園式)』と、書き換えた。
「入社式も同じ部類ですか?」と、田坂が言った。
「これは、別口だろう。日向。入社式。」と、理事官が言った。
「初入荷。流通関係ですかねえ。靴屋はもう終ったけど。」と、安藤が言った。
「いいだろう。」と、理事官が言ったので、日向は書き加えた。
「初夢・・・はもう遅いですね。」と、静音が明るく言う。
「それは、残念ながら却下だな。他にはないか?どんどん言えばいいぞ。絞り込むには要素が多い方がいい。」と、夏目が諭した。
「初黒星とか、初白星。」と浜田が言った。
「勝負事か。いいだろう。」と理事官は言った。
「初出産・・・済みません、私事で。」と、あつこは頭をかいた。
「いいだろう。じゃあ、初孫も入れておこうか。副総監には、初孫なんだろう?渡辺。」と、理事官は言った。
「あのう、言いにくいんですけど、処女航海っていうのは、初が付いてないけど、はじめてですよね。」と、みちるが言った。
 真意を察した理事官は「そうだな。ブラックスニーカーは、『はじめて』とは言ったが、『初』のつくものとは言わなかったから、入れておこう。」と、言った。
「もし、これがキーワードなら、海自や海上保安庁の協力が必要ですね。」と、なぎさが言った。
「うむ。そうだ。まだ、ないか。稲森、どうだ。」と、理事官は言った。
「処女作・・・は関係ないですよね。」「まあ、いれておこう。これの場合は山村編集長に協力して貰えるかな?大文字君。」「勿論です。」
「初お目見えとか、初舞台とかは・・・ダメですよね。」と、江南が言ったが、「まあ、書いとこう。」と理事官は言った。
「初当選とか初登庁とかは?」と、伊知地が言った。
「統一地方選挙か。あり得るなあ。日向。前にまる付けておけ。」と、理事官は言った。
「会議途中ですが、理事官。伊地知は素晴らしいブーメランです。金森ほどではなくても、充分戦力になります。」と、あつこが言った。
「そうか。頼もしいな。新人でも、どんどん活躍して貰わないとな。」
 理事官が、そう言った時、管内警報が鳴り、河野事務官の声が響いた。
「警視庁から入電。高速2号線で玉突き事故。先頭車は、仕掛けられた爆発物を踏み、大破。既に消防、MAITOが向かっていますが、EITOにも応援要請。避難誘導に当たると共に、テロの可能性の調査依頼です。」
「よし、エマージェンシーガールズ出動!あ。伊地知達は初出動だな。」と、伝子は呟いた。
 午後3時。高速2号線。多重事故現場。
 避難誘導とは逆の方向に走って逃げる男を警察官姿の小坂、下條が追っていた。止めようとした、警察官姿のあかりも一緒に追いかけていた。
 それを見た警察官姿の結城はDDバッジを押した。DDバッジとは、EITOやDDメンバーの緊急連絡用バッジで、身に着けているだけでも発信していて、ある程度のエリアを特定出来る。しかし、押すことで的確な位置情報を発信する。常時発信しないのは、敵に感知されにくくする為である。結城達警察からの出向者は、普段は警察官の制服で警察の仕事をしている。
 結城は、緊急連絡用ガラケーを取り出し、EITOに子細を伝えた。
「了解しました。今、一佐のチームと警視のチームが現場に向かっています。」と言う草薙の声が聞こえた。
 午後3時半。止まっているトラックに逃げた男は飛び込み、代わりに大勢の男達が出てきて、あかり達3人を捕らえ、トラックの中に連れ込んだ。荷台は閉められ、発進した。
 午後4時。後から到着した白バイ隊が、みちる達を追いかけたが、料金所を突破し、一般道に降りたトラックの行方は掴めなかった。
 午後4時。伝子のマンション。
 伝子から詳細を聞いた高遠は、「『はじめて』にやられたね。勿論、本命は別の事件だろうけど、事故の時に誘拐は確かに『はじめて』だよ。たまたま、あかりちゃん達が捕まっただけだ。EITOはエリアを把握しているんだよね。」
「渋谷・新宿エリアということだけは分かっている。結城警部に確認したが、あかりは追跡発信用ガラケーを持っていない。新人の暴走に加わっちゃ、世話ないよ。」
「伝子。一般人が誘拐されなかっただけでもラッキーと思わなくちゃ。」「そうだな。やっぱりウチの旦那は頭がいい。」
「それで、事故は?」「MAITOがいち早く鎮火したお陰で、もうすぐ後片付けに入るらしい。私より、あつこやみちるがカンカンだよ。」
「久しぶりの『お仕置き部屋』?」と、藤井は言った。
「かもねえ。」と、高遠は、外国人が『お手上げ』の時にするように、両手を広げて首をすくめた。
 午後5時。警視庁。久保田管理官執務室。
 村越警視正が入って来た。「今、110番を通じての音声ファイルを転送しました。お開け下さい。」
 久保田管理官がファイルを開けると、誘拐宣言の音声だった。
 《
 警視庁の、婦警さん、いや、女性警察官を3人預かった。警察手帳によると、新町あかり巡査、小坂雅巡査、下條梅子巡査だ。24時間やる。1000万用意しろ。
 》

「水、お持ちしましょうか?」「うむ。頼む。」
 村越警視正が部屋を出て行った。管理官は、引き出しから、胃腸薬を取り出した。
 ―完―


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