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5【双子Diary】弟
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明日から新しい家族が増えます。みんな、仲良くするように。
双子が堂園家の息子になってちょうど一年になろうとしていた頃、また秀春の気まぐれが暴走した。また養子をひとりもらうことにした秀春は上機嫌で息子たちに報告し、亜楼をほとんどキレさせた。ひと通り暴れて気が済んだのか、亜楼はもう秀春の気まぐれは病気だと思うことにしてあきらめた。結局双子と一緒に新しい弟のための部屋を掃除しているあたり、自分もずいぶん丸くなったなと苦笑する。
そして新しい住人がやって来るという日、海斗と眞空は待ち切れなくて玄関の辺りをうろうろ歩き回っていた。まだ名も知らない弟に、そわそわが止まらない。
『あー、もうメンドくせぇなぁ! ちったぁ大人しくしろ!』
落ち着きを完全に失っている双子に痺れを切らし、亜楼は不機嫌そうに弟たちを叱る。
『だってだって、弟ができるんだぜ! オレ兄貴になるんだ! うれしくて、じっとなんかしてらんないって! どんなやつが来るんだろうな! なぁ! なぁ!』
けんか三昧ですっかり怒られ慣れている海斗は、まったく悪びれた様子もなくその場でぴょんぴょん飛び跳ねてみせた。鬱陶しいと一喝し、亜楼は海斗にげんこつを食らわせる。
『亜楼は……うれしくない?』
そういえば自分たちが堂園家に来たときも少し戸惑っていた兄を思い出し、心細げに眞空が訊いた。なんてことない涼しい顔をしているが、本当は兄という責任を苦に思っているのかもしれないと急に不安になる。
『べ、別に……どっちでもねぇよ。また秀春さんの物好きに付き合わされるのかと思ったら、ちょっと、メンドくせぇと思っただけだ』
何もない天井を見上げながらぼそぼそとそう言う亜楼は、まんざらでもないようだった。眞空は安心して、にっこりと兄に微笑みかける。今自分たちが大切にされていることを思えばする必要のない心配だったと、少しでも亜楼を疑ってしまった自分を眞空は恥ずかしく思った。
そのとき、玄関のチャイムが軽やかに鳴り響いた。鳴った途端ダッシュで扉に向かった双子は、奪い合うようにその重いドアを開ける。
その先にいたのが、秀春に手をひかれた冬夜だった。美しい顔立ちと色素の薄い美しい髪色をした、乱暴に触れたら折れてしまいそうな、儚げな少年。はっきりとした二重に、高く通った鼻、薄い口唇に、陶器のような透き通った肌を持つ少年はひどく儚い印象なのに、面と向かった双子の時間を止めてしまうことなど容易いくらいの圧倒的存在感を持っていた。
『……冬夜?』
眞空が、半信半疑でその名を口にした。その言い方で何かを思い出した秀春が、腰を折ってやさしく眞空をのぞき込む。
『あぁそうか、眞空は冬夜とひばり園でよく一緒に遊んでたよねぇ。そう、冬夜だよ』
『冬夜! おれのことおぼえてる? よく一緒に折り紙したよね?』
控えめに冬夜がコクリとうなずくと、眞空はぱぁっと顔を輝かせた。もう会えないと思っていた、ひばり園で大切にしていた二つ年下の友達。
『おい冬夜、おまえ今日からオレたちの弟だかんな! 眞空の友達なのはいいけど、オレのこともちゃーんとうやまえよなっ!』
妙に偉そうな態度で大きく腕組みをする海斗は、兄になるのがうれしくてたまらないと見える。
『偉そうにすんじゃねぇよ、おまえは』
と、亜楼がまた海斗に軽いげんこつを見舞った。
『イッテー……何すんだよ亜楼!?』
『フンッ、おまえみたいなガキに兄貴の役が務まるかっての』
『なんだと!』
茶飯事のちょっとしたけんかが始まると、秀春は呆れて、冬夜に申し訳なさそうな顔を向けた。
『こら、けんかはやめなさい。冬夜がびっくりするだろ? ごめんね冬夜、こんな騒がしい家で。亜楼と海斗のけんかはほとんど毎日のことで、そう、三度の飯みたいなもんで……』
秀春が弁解しているのを聞いているのかいないのか、冬夜はただじっと眞空を見つめていた。見つめられていることに気づいた眞空は、ん? と首をかしげる。
『さわがしくなんてないよ……それより、ありがとう、秀春さん』
『え?』
突然告げられた礼に、秀春は何事かと冬夜の美しい顔をのぞき込んだ。それでもその双眸は眞空にべったり張りついたままだ。
『また、会えた……』
もう会えないと、思っていたから。たったそれだけを、かすれたような声でそっとつぶやくと、冬夜はうっすらと口元を緩ませて笑む。
『さぁ、早く上がって、冬夜の歓迎会を始めようじゃないか』
秀春が促すと、双子は顔を見合わせてうなずき合い、並んで冬夜に手を差し伸べた。一年前、亜楼が不器用な両の手を自分たちに伸ばしてくれたのと同じように。確実に受け継がれている家族としての誇り、そして絆。亜楼も少し離れた後ろから弟たちを見守っている。
冬夜が最初に眞空の手をつかむと、
『なんだよ! オ、オレだってちゃんとおまえの……あ、兄貴なんだぜ?』
と、ちょっと本当に兄としての自信を失いかけていた海斗は焦って訴えた。そんな海斗の手も、もちろん冬夜はしっかりと握る。明らかにほっとした表情の海斗を見て、秀春がいとおしそうに微笑む。
亜楼がゆっくりと近づいてきて、冬夜の小さな頭に大きくてあたたかい手をのせた。ポンポンと、二回やさしく撫でつけて言う。
『俺も含め、頼りねぇ兄貴ばっかだけどよ、がんばってみるからさ。よろしくな……冬夜』
『……よろしくおねがいします』
大きい兄に名を呼ばれ、冬夜は少し頬が紅潮するのを感じていた。深々と下げた頭が、なかなか上げられなくなる。
亜楼が息子になり、海斗と眞空が息子になり、冬夜が息子になり。三度目のはじまりを奇跡のように思いながら、秀春は息子たちが幸いの顔をして戯れているのをずっと眺めていた。
双子が堂園家の息子になってちょうど一年になろうとしていた頃、また秀春の気まぐれが暴走した。また養子をひとりもらうことにした秀春は上機嫌で息子たちに報告し、亜楼をほとんどキレさせた。ひと通り暴れて気が済んだのか、亜楼はもう秀春の気まぐれは病気だと思うことにしてあきらめた。結局双子と一緒に新しい弟のための部屋を掃除しているあたり、自分もずいぶん丸くなったなと苦笑する。
そして新しい住人がやって来るという日、海斗と眞空は待ち切れなくて玄関の辺りをうろうろ歩き回っていた。まだ名も知らない弟に、そわそわが止まらない。
『あー、もうメンドくせぇなぁ! ちったぁ大人しくしろ!』
落ち着きを完全に失っている双子に痺れを切らし、亜楼は不機嫌そうに弟たちを叱る。
『だってだって、弟ができるんだぜ! オレ兄貴になるんだ! うれしくて、じっとなんかしてらんないって! どんなやつが来るんだろうな! なぁ! なぁ!』
けんか三昧ですっかり怒られ慣れている海斗は、まったく悪びれた様子もなくその場でぴょんぴょん飛び跳ねてみせた。鬱陶しいと一喝し、亜楼は海斗にげんこつを食らわせる。
『亜楼は……うれしくない?』
そういえば自分たちが堂園家に来たときも少し戸惑っていた兄を思い出し、心細げに眞空が訊いた。なんてことない涼しい顔をしているが、本当は兄という責任を苦に思っているのかもしれないと急に不安になる。
『べ、別に……どっちでもねぇよ。また秀春さんの物好きに付き合わされるのかと思ったら、ちょっと、メンドくせぇと思っただけだ』
何もない天井を見上げながらぼそぼそとそう言う亜楼は、まんざらでもないようだった。眞空は安心して、にっこりと兄に微笑みかける。今自分たちが大切にされていることを思えばする必要のない心配だったと、少しでも亜楼を疑ってしまった自分を眞空は恥ずかしく思った。
そのとき、玄関のチャイムが軽やかに鳴り響いた。鳴った途端ダッシュで扉に向かった双子は、奪い合うようにその重いドアを開ける。
その先にいたのが、秀春に手をひかれた冬夜だった。美しい顔立ちと色素の薄い美しい髪色をした、乱暴に触れたら折れてしまいそうな、儚げな少年。はっきりとした二重に、高く通った鼻、薄い口唇に、陶器のような透き通った肌を持つ少年はひどく儚い印象なのに、面と向かった双子の時間を止めてしまうことなど容易いくらいの圧倒的存在感を持っていた。
『……冬夜?』
眞空が、半信半疑でその名を口にした。その言い方で何かを思い出した秀春が、腰を折ってやさしく眞空をのぞき込む。
『あぁそうか、眞空は冬夜とひばり園でよく一緒に遊んでたよねぇ。そう、冬夜だよ』
『冬夜! おれのことおぼえてる? よく一緒に折り紙したよね?』
控えめに冬夜がコクリとうなずくと、眞空はぱぁっと顔を輝かせた。もう会えないと思っていた、ひばり園で大切にしていた二つ年下の友達。
『おい冬夜、おまえ今日からオレたちの弟だかんな! 眞空の友達なのはいいけど、オレのこともちゃーんとうやまえよなっ!』
妙に偉そうな態度で大きく腕組みをする海斗は、兄になるのがうれしくてたまらないと見える。
『偉そうにすんじゃねぇよ、おまえは』
と、亜楼がまた海斗に軽いげんこつを見舞った。
『イッテー……何すんだよ亜楼!?』
『フンッ、おまえみたいなガキに兄貴の役が務まるかっての』
『なんだと!』
茶飯事のちょっとしたけんかが始まると、秀春は呆れて、冬夜に申し訳なさそうな顔を向けた。
『こら、けんかはやめなさい。冬夜がびっくりするだろ? ごめんね冬夜、こんな騒がしい家で。亜楼と海斗のけんかはほとんど毎日のことで、そう、三度の飯みたいなもんで……』
秀春が弁解しているのを聞いているのかいないのか、冬夜はただじっと眞空を見つめていた。見つめられていることに気づいた眞空は、ん? と首をかしげる。
『さわがしくなんてないよ……それより、ありがとう、秀春さん』
『え?』
突然告げられた礼に、秀春は何事かと冬夜の美しい顔をのぞき込んだ。それでもその双眸は眞空にべったり張りついたままだ。
『また、会えた……』
もう会えないと、思っていたから。たったそれだけを、かすれたような声でそっとつぶやくと、冬夜はうっすらと口元を緩ませて笑む。
『さぁ、早く上がって、冬夜の歓迎会を始めようじゃないか』
秀春が促すと、双子は顔を見合わせてうなずき合い、並んで冬夜に手を差し伸べた。一年前、亜楼が不器用な両の手を自分たちに伸ばしてくれたのと同じように。確実に受け継がれている家族としての誇り、そして絆。亜楼も少し離れた後ろから弟たちを見守っている。
冬夜が最初に眞空の手をつかむと、
『なんだよ! オ、オレだってちゃんとおまえの……あ、兄貴なんだぜ?』
と、ちょっと本当に兄としての自信を失いかけていた海斗は焦って訴えた。そんな海斗の手も、もちろん冬夜はしっかりと握る。明らかにほっとした表情の海斗を見て、秀春がいとおしそうに微笑む。
亜楼がゆっくりと近づいてきて、冬夜の小さな頭に大きくてあたたかい手をのせた。ポンポンと、二回やさしく撫でつけて言う。
『俺も含め、頼りねぇ兄貴ばっかだけどよ、がんばってみるからさ。よろしくな……冬夜』
『……よろしくおねがいします』
大きい兄に名を呼ばれ、冬夜は少し頬が紅潮するのを感じていた。深々と下げた頭が、なかなか上げられなくなる。
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