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海に異変があるようです。
しおりを挟む「実は最近魚がざわついているんです」
「ざわつく? 魚が? そんなこと分かるのか?」
フィルさんの言葉にユーリが訝し気に聞いている。私も魚がざわつくとはどういうことか想像出来ない。試しにいけすの中を除いてみるが、魚は大人しく泳いでおり異変があるとは思えない。
「もちろん本当にざわついてるのかは分からないんですが、魚が普段よりも泳ぐのが早かったり、群れを作らない魚が群れを作って集まっていたりと普段と違う様子が見られるんです。まるで海に居る何かに怯えているような、何か来ると言っているような気がすると従業員の間でも噂になっていて」
「普段と違う様子か……。海には異変はないんだよな?」
ミラー様は黙って何やら考え込んでおり、ユーリが質問をする。
「異変と言えば……水の温度を管理している者が普段より水温が上がってきていると言っていました。高くなると言っても本当に0.3度とかほんのわずかみたいなんですが」
「温度が高くなるか……。確かに海に異常が起きているのかも知れない。ここ以外でもそう言った話は出ているのか?」
そうミラー様が言うとフィルさんが他の従業員にも何か心当たりがないか聞いてくれる。すると1人の女性が手を上げて前に出てくる。
「私の旦那は漁師をやっているんですが、海の魚も同じようです。それと普段はこの海までこない魚を見かけることもあって、海の生態系が変わってきているみたいだとも言っていました」
「なるほど。漁師の方へも話を聞きに行く必要がありそうだな。マークちょっと良いか」
そう言うとミラー様は私たちと少し離れた所でマーク様と話し始める。するとそれを見た若い女性の従業員達がわずかに色めき立つ。
「見て! やっぱりミラー様はマーク様とできているという噂は本当だったんだわ」
「ええ、ミラー様が結婚しないのもマーク様がいらっしゃるからなのよね。本当に2人とも美しくて尊い」
本人達は小声で話しているようだが、興奮しているのか声がこちらまで漏れて聞こえてくる。そういえばそんな噂が立って居るんだっけ。ミラー様は男色家だとか。マーク様がミラー様に何かを耳打ちするとさらに彼女達の悲鳴が大きくなる。
「あいつらも大変だよな。俺だったらそんな噂が国中に流れていると思うと耐えられない」
「ええ、王子だものね。城だけでなくこんな広く噂になるなんて……嫌になりそう」
そう私たちが小声で話していると、フィルさんが声をかけてくれる。
「お二人は冒険者なんですよね。皆さんのおかげで我々は無事に生活できているので本当にありがとうございます」
「いえ、別に特別なことをしている訳じゃないですから。それが私達の仕事なので……」
今まであまり人と関わって来なかった為、他の人から見て冒険者がどう思われているのか知らなかったからフィルさんが頭を下げてくれるが恐縮してしまう。隣のユーリを見ても同じように少し居心地悪そうにしている。きっと彼も感謝されることに慣れていないタイプなのだろう。
「そういえばこの港町に勇者のパーティが来ると噂になっているんですけどお二人は知っていますか?」
「……。勇者のパーティですか?」
「はい、何でもダンジョン一つを壊滅させただとか、お年寄りを助けただとかかなり話題なんですよ。しかも男女の2人組らしくてとても美男美女のパーティだとか。正直冒険者の中にはかなり乱暴な者もいるので、そのような冒険者が来てくれるとなると嬉しいですね」
ダンジョンを壊滅……確かにここに来るまでの間に寄った小さなダンジョンで、空気が気まず過ぎてお互い無言で魔物を倒しまくっていたらいつの間にか魔物を全滅させて私たちしか残って居なかったのよね。あれには流石にビックリしたし、後から来た冒険者に驚かれたっけ。もしかしてあの人たちが話を広げたのかしら。
お年寄りを助けたのは、道端に座ってたおじいさんのぎっくり腰をヒールで治したのよね。でもそのおじいさんは大量の野菜が入った籠を持っていて、食材目当てでユーリに助けろと指示されたのよね。普段は誰でも彼でもヒールをかけたりしない。大混乱を起こしてしまうし、厄介な事件に巻き込まれるからね。だからそんなに褒められたことじゃないんだけど……。ユーリも少し気まずそうに頭をかいている。
「それにしてもお二人も噂の勇者のように美男美女ですなあ。お二人みたいな人の好い冒険者が増えてくれればもっと安心して暮らせるんですがね」
「そんな褒めていた頂く程ではありませんよ。この辺りの冒険者はそういった人は少ないんですか?」
「昔はそんなことなかったんだが、最近は乱暴な者が増えて飲食店で暴れたり、道端で暴行された者も居ると聞いているよ」
「そんな。なんて人達なの。彼らを取り締まったりなどはしないんですか?」
今までの町ではそんな冒険者の話を聞いたことない私は信じられなくて思わず怒りが湧いてきてしまう。
「普通は取り締まってもらうんだが、ここ最近魔物も増えてきてしまってそういった者にも強く出られないそうなんだ。あなた達も海の洞窟のダンジョンに行かれるんでしょう? 気を付けて下さいね、あそこはここ最近魔物がダンジョンから溢れ出ることもあるくらい増えているんです」
「その話は本当か!!」
私たちが話していると、ミラー様達が慌てた様子で話に入ってくる。先程までの優しい様子と打って変わって強い口調にフィル様も少し驚いた様子だ。
「は、はい。冒険者たちのおかげでこの辺りまでは魔物は来ませんが、入り口付近には魔物がうろうろしていて一般の者は近づかないようになっています」
「それはいつからだっ。そんな話国には届いていない!!」
「えっと……。私も詳しくは分からないのですが確か半年……、いや1年くらい前だったかも知れません」
「1年も前から!? 何でそんな大事なことを報告あげないんだっ」
いつものミラー様らしくなく、私たちの前でも怒りを露わにしている。フィルさんも困惑しているし、先程まで噂話をしていた女性達も少し怯えた様子だ。
「ミラー様、フィルさんも詳しくは分からないようですしこの件についてはギルドに一度話を聞きに行った方が良いのではないですか?」
「……ああそうだな。申し訳なかった。今日は他に用が出来たのでこれで失礼する。あなた達の養殖の技術は国にとっても重要であるから今後も宜しく頼んだよ」
一声かけると元のミラー様の調子に戻ったようで少し安心する。あのままじゃ今度はミラー様の悪い噂が広まってしまいそうだったもんね。
私たちはフィルさんにお礼を告げると養殖場を後にした。一度宿に戻ってからマーク様とミラー様はまた出かけるらしい。ユーリもミラー様に頼まれごとをされており、私一人でお留守番だ。
一人部屋に居て先程のダンジョンの件を考えていると誰かが来たみたいだ。
トントントン。
「ユリ殿。今少し宜しいでしょうか」
「はい、入って頂いて大丈夫ですよ」
訪れたのは大量の資料と様々な素材を持ったマーク様だった。
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