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運命のつがいと初恋 第2章
⑤
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デザートの後、リビングでお絵かきしていた凛子は東園に「風呂にはいろうか」と声を掛けられぐずることなく抱っこされた。
今日はウサギプリンのおかげでご機嫌がいいようだ。
陽向は凛子の部屋と自分の部屋から着替えをとり、脱衣所に置いた。
洗濯機の隣にある棚から凛子用のバスタオルを取り出しつつ、浴室から聞こえる凛子の歌に耳を澄ます。朝の幼児番組のオープニングテーマだ。上手に歌えているなあとほっこりしながらリビングに戻り自分のマグカップを流しに置いた。
凛子と東園が風呂から上がってきたら凛子はもう寝る時間だ。
そろそろかな、と浴室へ向かっていると「凛子がそっち行った」と東園の焦った声が聞こえたと同時に凛子が廊下に飛び出してきた。
ちょっと遅かったかと思いながらお湯でほかほかになった凛子をひょいと抱え上げ脱衣所に連れ戻す。
「りんちゃん、ちゃんとパジャマ着ないと風邪引いちゃうよ」
「ぶーんやー」
凛子は着替えの後のドライヤーが嫌いなのだ。分かっているけれどこの時期濡れた髪のままでは本当に風邪を引いてしまう。
陽向が凛子を着替えさせている間に東園は横で着替える。といってもいつも下着とスウェットのズボンだけ履いて凛子の着替えを待っている。
彼にはこの後重要な仕事がある。
「よし、馨いいよ、あ、」
着替えを終えた凛子を抱き上げて貰おうと声を掛けたら、それを合図とばかりに凛子が陽向の腕からするりと抜け、走り出そうとした。
「おおっと、凛子、ドライヤーがまだだぞ」
脱走の予測をしていた東園が先手を打っていたようで凛子は走り出す前に東園に抱き上げられてしまった。
「ああん」
「ごめんね、すぐ終わるから頑張ろう」
東園が暴れる凛子を抱いているうちに急いで凛子の長い髪を乾かしていく。
「りんちゃん、これ、音が嫌なのかな? それとも熱いのかな?」
「あちゅいの」
東園は顎を突っ張られて大変そうだ。
陽向も一度抱き手を経験しているが、陽向の力では抱いていられるものの右へ左へ身体ごと持って行かれ、乾かし手の東園がやりにくそうだった。よって今の作業分担に落ち着いたのだ。
「そっかー。でも冷たい風だと寒くなるから、あとちょっとだけ温かい風で頑張ろうね」
凛子の嫌いなこと第二位に輝く「櫛」を持ち一回だけだからと髪をとかす。
凛子の髪は細く、ちゃんととかないと蜂の巣みたくなってしまう。綺麗に髪をとかしたので今度は仕上げの優しい風をあててゆく。
「はい、いいよ」
本当はもうちょっとかけたいけれどこれ以上は無理そうだ。声を掛けると途端に凛子は東園の腕から飛び出してリビングへ飛んでいった。
「お疲れ」
「陽向もな。風呂いいよ」
「あ、りんちゃんにお水飲ませてあげて」
「了解」
タオルを首に掛けたままリビングへ向かう東園に「上をすぐ着なさいよ。風邪引くよ」と声をかけて陽向は脱衣所のドアを閉めた。
入浴を済ませた陽向が戻ると凛子はリビングで鼻歌混じりに積み木をしていた。東園もちゃんと着替えを済ませている。いくら人に見せても恥ずかしくない身体であっても、いくら上半身だけであっても、この季節に長く裸でいるのはいただけない。
楽しそうに遊んでいた凛子だが、そのうちにふぁっと欠伸が出始めた。
「さあ、りんちゃんお部屋行こうか、今日はなんの本を読む?」
「キャンディの本!」
「よし、じゃあお片付けしようね」
凛子が積み木を片付け終わると、ダイニングでタブレットを眺めていた東園がこちらへやって来た。
凛子は行こうと伸ばされた東園の手を取り、空いた片手を陽向に伸ばす。三人、手を繋いで階段を上がる。早く帰宅できたとき、仕事が立て込んでないとき、東園は凛子の寝かしつけに付きそう。
凛子の部屋の本棚から凛子ご希望のキャンディがたくさん出てくるお化けの絵本をとってベッドへ向かう。
絵本好きの凛子の為に、布団で絵本を読むのが日課だ。
いつもは二人だが、今日は東園もいるので川の字だ。
部屋の電気を消しベッドサイドの照明をつける。
お化けと猫とともちゃんという女の子がお菓子が食べたくなり、キャンディをたくさん作るお話だ。
ストロベリー、マスカット、オレンジにレモン。
キャラメルにミルク、たくさんの種類のキャンディを可愛い形に作り上げていく。
カラフルなキャンディはそのうちにおうちからはみ出るほど出来てしまい、町のみんなに配ってみんなで美味しいね、と言い合いながら食べる。
ふと見ると凛子は目を閉じ規則的に呼吸を繰り返している。眠り始めたかなと思いながら物語を最後まで読んでいく。変なところで止めると起きてしまう事があるから。
本を閉じる頃にはしっかり眠ったようで凛子の向こうの東園と頷きあい、そっとベッドから出る。
陽向だけで寝かせるよりも東園がいた方が凛子の寝付きが良い。東園がいると心の底から安心するんだろうなと思う。
音を立てないようにドアを閉めて、陽向はふうと息を付いた。隣の東園は大あくびだ。
「陽向の声は聞いてると眠くなるな」
「子守唄でも歌ってあげようか」
「ぜひ頼む」
即答だったので冗談だよと吹き出した。
今日はウサギプリンのおかげでご機嫌がいいようだ。
陽向は凛子の部屋と自分の部屋から着替えをとり、脱衣所に置いた。
洗濯機の隣にある棚から凛子用のバスタオルを取り出しつつ、浴室から聞こえる凛子の歌に耳を澄ます。朝の幼児番組のオープニングテーマだ。上手に歌えているなあとほっこりしながらリビングに戻り自分のマグカップを流しに置いた。
凛子と東園が風呂から上がってきたら凛子はもう寝る時間だ。
そろそろかな、と浴室へ向かっていると「凛子がそっち行った」と東園の焦った声が聞こえたと同時に凛子が廊下に飛び出してきた。
ちょっと遅かったかと思いながらお湯でほかほかになった凛子をひょいと抱え上げ脱衣所に連れ戻す。
「りんちゃん、ちゃんとパジャマ着ないと風邪引いちゃうよ」
「ぶーんやー」
凛子は着替えの後のドライヤーが嫌いなのだ。分かっているけれどこの時期濡れた髪のままでは本当に風邪を引いてしまう。
陽向が凛子を着替えさせている間に東園は横で着替える。といってもいつも下着とスウェットのズボンだけ履いて凛子の着替えを待っている。
彼にはこの後重要な仕事がある。
「よし、馨いいよ、あ、」
着替えを終えた凛子を抱き上げて貰おうと声を掛けたら、それを合図とばかりに凛子が陽向の腕からするりと抜け、走り出そうとした。
「おおっと、凛子、ドライヤーがまだだぞ」
脱走の予測をしていた東園が先手を打っていたようで凛子は走り出す前に東園に抱き上げられてしまった。
「ああん」
「ごめんね、すぐ終わるから頑張ろう」
東園が暴れる凛子を抱いているうちに急いで凛子の長い髪を乾かしていく。
「りんちゃん、これ、音が嫌なのかな? それとも熱いのかな?」
「あちゅいの」
東園は顎を突っ張られて大変そうだ。
陽向も一度抱き手を経験しているが、陽向の力では抱いていられるものの右へ左へ身体ごと持って行かれ、乾かし手の東園がやりにくそうだった。よって今の作業分担に落ち着いたのだ。
「そっかー。でも冷たい風だと寒くなるから、あとちょっとだけ温かい風で頑張ろうね」
凛子の嫌いなこと第二位に輝く「櫛」を持ち一回だけだからと髪をとかす。
凛子の髪は細く、ちゃんととかないと蜂の巣みたくなってしまう。綺麗に髪をとかしたので今度は仕上げの優しい風をあててゆく。
「はい、いいよ」
本当はもうちょっとかけたいけれどこれ以上は無理そうだ。声を掛けると途端に凛子は東園の腕から飛び出してリビングへ飛んでいった。
「お疲れ」
「陽向もな。風呂いいよ」
「あ、りんちゃんにお水飲ませてあげて」
「了解」
タオルを首に掛けたままリビングへ向かう東園に「上をすぐ着なさいよ。風邪引くよ」と声をかけて陽向は脱衣所のドアを閉めた。
入浴を済ませた陽向が戻ると凛子はリビングで鼻歌混じりに積み木をしていた。東園もちゃんと着替えを済ませている。いくら人に見せても恥ずかしくない身体であっても、いくら上半身だけであっても、この季節に長く裸でいるのはいただけない。
楽しそうに遊んでいた凛子だが、そのうちにふぁっと欠伸が出始めた。
「さあ、りんちゃんお部屋行こうか、今日はなんの本を読む?」
「キャンディの本!」
「よし、じゃあお片付けしようね」
凛子が積み木を片付け終わると、ダイニングでタブレットを眺めていた東園がこちらへやって来た。
凛子は行こうと伸ばされた東園の手を取り、空いた片手を陽向に伸ばす。三人、手を繋いで階段を上がる。早く帰宅できたとき、仕事が立て込んでないとき、東園は凛子の寝かしつけに付きそう。
凛子の部屋の本棚から凛子ご希望のキャンディがたくさん出てくるお化けの絵本をとってベッドへ向かう。
絵本好きの凛子の為に、布団で絵本を読むのが日課だ。
いつもは二人だが、今日は東園もいるので川の字だ。
部屋の電気を消しベッドサイドの照明をつける。
お化けと猫とともちゃんという女の子がお菓子が食べたくなり、キャンディをたくさん作るお話だ。
ストロベリー、マスカット、オレンジにレモン。
キャラメルにミルク、たくさんの種類のキャンディを可愛い形に作り上げていく。
カラフルなキャンディはそのうちにおうちからはみ出るほど出来てしまい、町のみんなに配ってみんなで美味しいね、と言い合いながら食べる。
ふと見ると凛子は目を閉じ規則的に呼吸を繰り返している。眠り始めたかなと思いながら物語を最後まで読んでいく。変なところで止めると起きてしまう事があるから。
本を閉じる頃にはしっかり眠ったようで凛子の向こうの東園と頷きあい、そっとベッドから出る。
陽向だけで寝かせるよりも東園がいた方が凛子の寝付きが良い。東園がいると心の底から安心するんだろうなと思う。
音を立てないようにドアを閉めて、陽向はふうと息を付いた。隣の東園は大あくびだ。
「陽向の声は聞いてると眠くなるな」
「子守唄でも歌ってあげようか」
「ぜひ頼む」
即答だったので冗談だよと吹き出した。
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