巡る日常と殺人

すずもと

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巡る殺人

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俺は30歳の社畜だ。

小さな会社でwebサービスの営業をしているが、社長がパワハラで、深夜までサービス残業は当たり前、理不尽な営業目標だが数字が取れないとガミガミ言われる会社で働いている。
同期や同年代はとっくに辞めて、いまやたった30の俺が1番のベテランだ。

その日も深夜まで仕事をして帰ってきた。
一人暮らしをしているアパートの部屋の前にダンボールが置いてあった。
見ると実家の九州から送られてきた荷物だった。
俺は部屋に入り、早速段ボールを開けた。
元気か?という手紙とみかんが入っていた。

俺の実家はみかん農家をしている。
姉が一人いるが、結婚して家を出たので、必然的に俺が跡を継ぐのだろう、と思われていた。
でも、こんな何もない田舎で農家なんてしたくない、と言って都会に出た。

その結果が彼女もいない、毎日理不尽に怒られ、深夜まで働き、休日も家で終わらない仕事。都会にいるからお店はたくさんあるが、遊ぶ暇もない。

じわりとした焦りを押し殺し、みかんを食べながら持ち帰った仕事の続きをする。
これが俺の日常だ。



その次の週末、俺は久しぶりに持ち帰りの仕事がなかった。
さて、何をしよう。
実家から送られてきたみかんが目に留まる。
そういえば、この辺りにみかんの木とかあるのだろうか?

ふと気になった。俺は久しぶりにサイクリングをすることにした。
身体も動かしたいし、気分転換もしたい。

近所のシェアサイクルのステーションに行き、アプリで鍵の解錠をする。
ペダルを踏んで風を切って走る。
なんだか気分が晴れる気がした。
昔、子供の頃、隣町の駄菓子屋まで自転車で行ったことや、初恋の子と途中まで一緒に自転車で帰った思い出がふっと浮かんで思わずにやける。

都会には、みかんの木は無い。もう少し田舎のほうまで行ってみよう、と走ることにした。

1時間近く走っただろうか、ふと、みかんが坂道の下に落ちているのが見えた。
なぜか、そのツヤがうちの実家で作っているみかんのように見え気になった。

俺はふらふらと近づいた。
そして、車に撥ねられた。



目を覚ますと、家族の姿があった。
車に撥ねられ1週間目を覚さなかったらしい。気づくと病院のベッドの上で寝ていた。
みんな泣いていた。九州から飛行機で駆けつけてくれたらしい。

退院までさらに3ヶ月掛かった。母がその間こちらにホテルを取ってずっと面倒を見てくれていた。
もうずっと帰省できていなかったから家族に会うのは5年ぶりだった。
親は老けていた。
しわが増えたし、身体もこんなに小さかったか?

俺は、実家に帰ることにした。
都会にしがみついていたのが突然バカらしくなったのだ。

会社に連絡し、そのまま退職し、地元に帰ることになった。
社長にはお前が突然いなくなったせいでなんたらかんたら、なんて言われたが、キッパリと辞めた。


そして、みかん農家を継ぐことになった。
1年後には初恋の子と再会し、結婚まですることになった。夫婦でみかん農家をすることになった。
その翌年には子供が産まれる。
あの時、みかんが落ちていなければ、俺は、いつまでも社畜をしていただろう。
みかんを落としたのは誰か分からない、だけど俺は今とても幸せだ。



俺が、仕事を辞めた2年後、前の会社の社長が死んだと知らせが入った。
1番のベテランだった俺が辞めてから仕事が上手く回らなくなり、負債を抱えて、ヤケ酒をして橋から足を滑らせ落ちたらしい。


みかんを落としたのは、みりんを探していたおじいさんだったけど、まさか自分が落としたみかんが巡り合わせで人が死んだなんて、おじいさんは知らない。
なぜなら、そのおじいさんも、2年前に死んでいるのだから。
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