3 / 12
巡る殺人
しおりを挟む
俺は30歳の社畜だ。
小さな会社でwebサービスの営業をしているが、社長がパワハラで、深夜までサービス残業は当たり前、理不尽な営業目標だが数字が取れないとガミガミ言われる会社で働いている。
同期や同年代はとっくに辞めて、いまやたった30の俺が1番のベテランだ。
その日も深夜まで仕事をして帰ってきた。
一人暮らしをしているアパートの部屋の前にダンボールが置いてあった。
見ると実家の九州から送られてきた荷物だった。
俺は部屋に入り、早速段ボールを開けた。
元気か?という手紙とみかんが入っていた。
俺の実家はみかん農家をしている。
姉が一人いるが、結婚して家を出たので、必然的に俺が跡を継ぐのだろう、と思われていた。
でも、こんな何もない田舎で農家なんてしたくない、と言って都会に出た。
その結果が彼女もいない、毎日理不尽に怒られ、深夜まで働き、休日も家で終わらない仕事。都会にいるからお店はたくさんあるが、遊ぶ暇もない。
じわりとした焦りを押し殺し、みかんを食べながら持ち帰った仕事の続きをする。
これが俺の日常だ。
その次の週末、俺は久しぶりに持ち帰りの仕事がなかった。
さて、何をしよう。
実家から送られてきたみかんが目に留まる。
そういえば、この辺りにみかんの木とかあるのだろうか?
ふと気になった。俺は久しぶりにサイクリングをすることにした。
身体も動かしたいし、気分転換もしたい。
近所のシェアサイクルのステーションに行き、アプリで鍵の解錠をする。
ペダルを踏んで風を切って走る。
なんだか気分が晴れる気がした。
昔、子供の頃、隣町の駄菓子屋まで自転車で行ったことや、初恋の子と途中まで一緒に自転車で帰った思い出がふっと浮かんで思わずにやける。
都会には、みかんの木は無い。もう少し田舎のほうまで行ってみよう、と走ることにした。
1時間近く走っただろうか、ふと、みかんが坂道の下に落ちているのが見えた。
なぜか、そのツヤがうちの実家で作っているみかんのように見え気になった。
俺はふらふらと近づいた。
そして、車に撥ねられた。
目を覚ますと、家族の姿があった。
車に撥ねられ1週間目を覚さなかったらしい。気づくと病院のベッドの上で寝ていた。
みんな泣いていた。九州から飛行機で駆けつけてくれたらしい。
退院までさらに3ヶ月掛かった。母がその間こちらにホテルを取ってずっと面倒を見てくれていた。
もうずっと帰省できていなかったから家族に会うのは5年ぶりだった。
親は老けていた。
しわが増えたし、身体もこんなに小さかったか?
俺は、実家に帰ることにした。
都会にしがみついていたのが突然バカらしくなったのだ。
会社に連絡し、そのまま退職し、地元に帰ることになった。
社長にはお前が突然いなくなったせいでなんたらかんたら、なんて言われたが、キッパリと辞めた。
そして、みかん農家を継ぐことになった。
1年後には初恋の子と再会し、結婚まですることになった。夫婦でみかん農家をすることになった。
その翌年には子供が産まれる。
あの時、みかんが落ちていなければ、俺は、いつまでも社畜をしていただろう。
みかんを落としたのは誰か分からない、だけど俺は今とても幸せだ。
俺が、仕事を辞めた2年後、前の会社の社長が死んだと知らせが入った。
1番のベテランだった俺が辞めてから仕事が上手く回らなくなり、負債を抱えて、ヤケ酒をして橋から足を滑らせ落ちたらしい。
みかんを落としたのは、みりんを探していたおじいさんだったけど、まさか自分が落としたみかんが巡り合わせで人が死んだなんて、おじいさんは知らない。
なぜなら、そのおじいさんも、2年前に死んでいるのだから。
小さな会社でwebサービスの営業をしているが、社長がパワハラで、深夜までサービス残業は当たり前、理不尽な営業目標だが数字が取れないとガミガミ言われる会社で働いている。
同期や同年代はとっくに辞めて、いまやたった30の俺が1番のベテランだ。
その日も深夜まで仕事をして帰ってきた。
一人暮らしをしているアパートの部屋の前にダンボールが置いてあった。
見ると実家の九州から送られてきた荷物だった。
俺は部屋に入り、早速段ボールを開けた。
元気か?という手紙とみかんが入っていた。
俺の実家はみかん農家をしている。
姉が一人いるが、結婚して家を出たので、必然的に俺が跡を継ぐのだろう、と思われていた。
でも、こんな何もない田舎で農家なんてしたくない、と言って都会に出た。
その結果が彼女もいない、毎日理不尽に怒られ、深夜まで働き、休日も家で終わらない仕事。都会にいるからお店はたくさんあるが、遊ぶ暇もない。
じわりとした焦りを押し殺し、みかんを食べながら持ち帰った仕事の続きをする。
これが俺の日常だ。
その次の週末、俺は久しぶりに持ち帰りの仕事がなかった。
さて、何をしよう。
実家から送られてきたみかんが目に留まる。
そういえば、この辺りにみかんの木とかあるのだろうか?
ふと気になった。俺は久しぶりにサイクリングをすることにした。
身体も動かしたいし、気分転換もしたい。
近所のシェアサイクルのステーションに行き、アプリで鍵の解錠をする。
ペダルを踏んで風を切って走る。
なんだか気分が晴れる気がした。
昔、子供の頃、隣町の駄菓子屋まで自転車で行ったことや、初恋の子と途中まで一緒に自転車で帰った思い出がふっと浮かんで思わずにやける。
都会には、みかんの木は無い。もう少し田舎のほうまで行ってみよう、と走ることにした。
1時間近く走っただろうか、ふと、みかんが坂道の下に落ちているのが見えた。
なぜか、そのツヤがうちの実家で作っているみかんのように見え気になった。
俺はふらふらと近づいた。
そして、車に撥ねられた。
目を覚ますと、家族の姿があった。
車に撥ねられ1週間目を覚さなかったらしい。気づくと病院のベッドの上で寝ていた。
みんな泣いていた。九州から飛行機で駆けつけてくれたらしい。
退院までさらに3ヶ月掛かった。母がその間こちらにホテルを取ってずっと面倒を見てくれていた。
もうずっと帰省できていなかったから家族に会うのは5年ぶりだった。
親は老けていた。
しわが増えたし、身体もこんなに小さかったか?
俺は、実家に帰ることにした。
都会にしがみついていたのが突然バカらしくなったのだ。
会社に連絡し、そのまま退職し、地元に帰ることになった。
社長にはお前が突然いなくなったせいでなんたらかんたら、なんて言われたが、キッパリと辞めた。
そして、みかん農家を継ぐことになった。
1年後には初恋の子と再会し、結婚まですることになった。夫婦でみかん農家をすることになった。
その翌年には子供が産まれる。
あの時、みかんが落ちていなければ、俺は、いつまでも社畜をしていただろう。
みかんを落としたのは誰か分からない、だけど俺は今とても幸せだ。
俺が、仕事を辞めた2年後、前の会社の社長が死んだと知らせが入った。
1番のベテランだった俺が辞めてから仕事が上手く回らなくなり、負債を抱えて、ヤケ酒をして橋から足を滑らせ落ちたらしい。
みかんを落としたのは、みりんを探していたおじいさんだったけど、まさか自分が落としたみかんが巡り合わせで人が死んだなんて、おじいさんは知らない。
なぜなら、そのおじいさんも、2年前に死んでいるのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる