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私が殺したのは
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私は20代の社会人だ。
葬儀屋で事務をしている。社会人1年目で、まだまだミスも多い。
その日も葬儀場に1人の男性の遺体が運ばれてきた。
酔っ払って橋から落下し死亡したそうだ。
ご遺体と一緒に30代くらいの女性も付き添っていた。女性は今にも死にそうな顔をしていた。
女性と、葬儀の担当社員が応接室に入室したのを見て、お茶の準備をする。
急須に茶葉とお湯を入れ、適切な時間待つ。茶器は前もってお湯で温めておく。そして急須からお茶を注ぐ。注ぐ時の高さも重要だ。渋みが出ないようにそうっと入れる。
手順が多いが最初入社した時に先輩社員から教わったやり方だ。
葬儀場ではお茶入れからマナーまでみっちり教育される。
準備したお茶を持って応接室に入室した。
静かにノックをし、無表情で入る。けっして笑顔でご遺族の前に出てはならない。
女性は泣いていた。よほどショックだったのだろう。
しばらく葬儀の打ち合わせをした後、担当社員が出てきて、状況を話す。
女性は亡くなった男性の妹で、今回の葬儀の施主様になるそうだ。
親や親類はいない。
亡くなった男性はwebサービスの会社の社長だったが、会社が上手くいかなくなって色々な人から恨みを買っていた。
なので今回は密葬とする、とのことだった。
密葬、それは葬儀があることを秘密にすることだった。
例えば、電話で「○○webサービス会社の社長の葬儀はそこでやりますか?」とお問合せがあっても「いいえ、うちにはそのような方は運ばれてきていません」と答える、ということだ。
私は思わず苦い顔になった。
密葬対応は滅多に出ないから苦手なのだ。
葬儀場では葬儀をいくつか抱えるのだが、誰の葬儀が答えて良いのか答えてはいけないのか把握しておかないといけない。
まだ1年目で覚えることが盛りだくさんの私には結構ハードルが高い。
忘れないようにしないと、とパソコンに付箋を貼る。”○○webサービス会社 密葬”と。
葬儀は4日後に決まった。
それからしばらくして、1本の電話が入った。
「はい、△△△葬儀場でございます。」
「あの、そっちの○○さん葬儀って看板、webサービスの会社の社長?」
女性の声だった。密葬とはいえ、参列者のため、葬儀場の前に看板だけは出していた。
付箋が目に入り、思わず「○○webサービス会社・・・」と呟き、ハッとして
「いえ、○○様はそのようにはお伺いしておりません。」
と答えた。
「そう、ありがとう。」
そして電話は切れた。危なく答えるところだった。
私はふーと息を吐いた。もっと慣れるよう頑張ろう。
その後も2件ほど同じような電話が掛かってきたが、まあまあ良い感じに対応できた、と思う。
葬儀の日になった。
葬儀場に祭壇が運ばれていた。
私は思わず息を呑んだ。とても綺麗な祭壇だったからだ。
1番高い物で、よく芸能人とか、お金持ちの葬儀の時に使われる祭壇だった。
「妹さん、葬儀場に来た時ずっと泣いてたんだけどな…」
担当社員が説明してくれた。
「祭壇のパンフレットをいくつか見せたんだけど、この祭壇のパンフレットを見た瞬間ぱあっと顔色が変わってこれが良いってなったんだよ。」
「これで送り出したいって」
きっと妹さんにとってお兄さんはよっぽど大事な人だったのだろう。
葬儀はつつがなく終わった。会社の社長にしては少ない、でも普通のお年寄りが亡くなった時よりは多いくらいの人が葬儀に参列していた。
特に恨みを言う人はなく、静かに葬儀は進み、終えることができた。
妹さんの隣には男性の姿があった。彼氏のようで、ずっと側に寄り添っていた。
火葬も全て終わり、妹さんは遺骨の入った骨壺を抱えて、お礼を行って去っていった。
最初に来た頃に比べ、少し憑き物が取れたような顔をしていた。
一周忌には、葬儀の時支えてくれた彼氏と結婚することになったと話していて、三周忌の時には妊娠していた。
夫婦で三周忌をしっかりした後、
「あの時、あの祭壇で送り出せて本当に良かった」
と話してくれた。
確かに、誰かが死ぬのは悲しい。
葬儀屋で働いていると人の死をたくさん見ることがある。
でも、命って繋がっていくものなのかなあなんて、ぼんやりと私は思った。
葬儀屋で事務をしている。社会人1年目で、まだまだミスも多い。
その日も葬儀場に1人の男性の遺体が運ばれてきた。
酔っ払って橋から落下し死亡したそうだ。
ご遺体と一緒に30代くらいの女性も付き添っていた。女性は今にも死にそうな顔をしていた。
女性と、葬儀の担当社員が応接室に入室したのを見て、お茶の準備をする。
急須に茶葉とお湯を入れ、適切な時間待つ。茶器は前もってお湯で温めておく。そして急須からお茶を注ぐ。注ぐ時の高さも重要だ。渋みが出ないようにそうっと入れる。
手順が多いが最初入社した時に先輩社員から教わったやり方だ。
葬儀場ではお茶入れからマナーまでみっちり教育される。
準備したお茶を持って応接室に入室した。
静かにノックをし、無表情で入る。けっして笑顔でご遺族の前に出てはならない。
女性は泣いていた。よほどショックだったのだろう。
しばらく葬儀の打ち合わせをした後、担当社員が出てきて、状況を話す。
女性は亡くなった男性の妹で、今回の葬儀の施主様になるそうだ。
親や親類はいない。
亡くなった男性はwebサービスの会社の社長だったが、会社が上手くいかなくなって色々な人から恨みを買っていた。
なので今回は密葬とする、とのことだった。
密葬、それは葬儀があることを秘密にすることだった。
例えば、電話で「○○webサービス会社の社長の葬儀はそこでやりますか?」とお問合せがあっても「いいえ、うちにはそのような方は運ばれてきていません」と答える、ということだ。
私は思わず苦い顔になった。
密葬対応は滅多に出ないから苦手なのだ。
葬儀場では葬儀をいくつか抱えるのだが、誰の葬儀が答えて良いのか答えてはいけないのか把握しておかないといけない。
まだ1年目で覚えることが盛りだくさんの私には結構ハードルが高い。
忘れないようにしないと、とパソコンに付箋を貼る。”○○webサービス会社 密葬”と。
葬儀は4日後に決まった。
それからしばらくして、1本の電話が入った。
「はい、△△△葬儀場でございます。」
「あの、そっちの○○さん葬儀って看板、webサービスの会社の社長?」
女性の声だった。密葬とはいえ、参列者のため、葬儀場の前に看板だけは出していた。
付箋が目に入り、思わず「○○webサービス会社・・・」と呟き、ハッとして
「いえ、○○様はそのようにはお伺いしておりません。」
と答えた。
「そう、ありがとう。」
そして電話は切れた。危なく答えるところだった。
私はふーと息を吐いた。もっと慣れるよう頑張ろう。
その後も2件ほど同じような電話が掛かってきたが、まあまあ良い感じに対応できた、と思う。
葬儀の日になった。
葬儀場に祭壇が運ばれていた。
私は思わず息を呑んだ。とても綺麗な祭壇だったからだ。
1番高い物で、よく芸能人とか、お金持ちの葬儀の時に使われる祭壇だった。
「妹さん、葬儀場に来た時ずっと泣いてたんだけどな…」
担当社員が説明してくれた。
「祭壇のパンフレットをいくつか見せたんだけど、この祭壇のパンフレットを見た瞬間ぱあっと顔色が変わってこれが良いってなったんだよ。」
「これで送り出したいって」
きっと妹さんにとってお兄さんはよっぽど大事な人だったのだろう。
葬儀はつつがなく終わった。会社の社長にしては少ない、でも普通のお年寄りが亡くなった時よりは多いくらいの人が葬儀に参列していた。
特に恨みを言う人はなく、静かに葬儀は進み、終えることができた。
妹さんの隣には男性の姿があった。彼氏のようで、ずっと側に寄り添っていた。
火葬も全て終わり、妹さんは遺骨の入った骨壺を抱えて、お礼を行って去っていった。
最初に来た頃に比べ、少し憑き物が取れたような顔をしていた。
一周忌には、葬儀の時支えてくれた彼氏と結婚することになったと話していて、三周忌の時には妊娠していた。
夫婦で三周忌をしっかりした後、
「あの時、あの祭壇で送り出せて本当に良かった」
と話してくれた。
確かに、誰かが死ぬのは悲しい。
葬儀屋で働いていると人の死をたくさん見ることがある。
でも、命って繋がっていくものなのかなあなんて、ぼんやりと私は思った。
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