巡る日常と殺人

あるサラリーマン男性の日常

あるところに20代の男がいた。
男は、営業の仕事をしていて、ランチは出先で食べるのが楽しみだった。

一番はラーメン。
魚介系豚骨が一番好きで、営業が取れた後の一杯は格別だった。
大口の営業がある日は、元担ぎにカツ丼。

ある日、同期が表彰された。

同期はすごいイケメンで、美人の嫁がいる。
オイラはポッチャリ系。
まあ食べるの好きだからダイエットはしないけど。
もちろん嫁などいない。美味い飯が嫁だ！

同期は、なんでも要領が良い。
なんでも卒なくこなす感じ。

表彰されたと聞いて、おめでとー！と皆んなでお祝いの言葉を掛けた。
オイラも純粋に喜んでいた。
「今度お祝いに、ラーメン食べに行こうぜ！」
と約束をした。もちろん、と同僚が笑った。八重歯が見えて、少し犬みたいな顔も悔しいくらいイケメンだった。

周りから、なんでも卒なくこなすイケメンと、食べるの大好きポッチャリメンズのデコボココンビと言われていた。

そう、あの日、廊下で立ち聞きするまでは。

「そうそう、あいつの作った資料が当たったんだよね。あいつ、本当扱いやすくて助かるよ」
という声が聞こえてきた。
「あの子に電話もさせてたんでしょ？」
「そう、なんか担当とラーメンの話で盛り上がったみたいで、もう行った時にはウェルカム状態。本当ラッキーだったわー」

同僚の声と、経理の女性の声だった。
しばらく何か話した後
「じゃあホテルでね」
という声がして資料室から出てきた。

オイラは思わず他の部屋に隠れた。明らかに、オイラのことだった。営業電話で最近ラーメンの話で盛り上がった。
しかも、ホテルって不倫？

しばらくモヤモヤした気分で仕事をしていた。

そんなある日のことだった。

同期が死んだ。

営業回りの途中ランチを取り、その後別の営業先の会社で突然苦しみ出しあっという間に死んでしまったそうだ。
おそらく不整脈では無いか、とのことだった。

葬式は奥さんと、浮気相手が何人も出てきて、大惨事だった。
オイラは絶対浮気なんかしない、と心に誓った。
まあ、相手なんていないんだけど。



あの日、死んだ男性は姪っ子がアルバイトをしている蕎麦屋でランチを取った。
本当は、そこで食べた蕎麦が原因だった。
蕎麦にエビが入っていたのだが、メニュー表にそれを記載していなかったせいで死んだのだ。

だけど、自分が人を殺したのだとは思わず、姪っ子は日常を続けている。

もしかして、みんな、普通の日常を送りながら、気づかないうちに殺人を犯しているのかもしれない。