5 / 25
第5話「血の審判」
しおりを挟む
昼下がりの王城。
玉座の間に集められたのは、各派閥の有力な貴族たち、宮廷医官、そして──告発文を送った者たち。
「王太子殿下の番は、“実験により作られた者”だと聞いております」
冷えた声が響いたのは、保守派を束ねる公爵家の長、イグナートだった。
その言葉に、周囲の空気が一気に張り詰める。
中央に立つのは、レイグランとセイル。
セイルは背筋を伸ばして立っていたが、その指先は震えていた。
「番制度は“神意”に基づくもの。
それを人の手で捏造し、王太子殿下がそれに与するなど……王家の威信を損なう行為だ!」
イグナートの声に呼応するように、何人もの貴族たちが賛同の意を表す。
セイルは俯きかけた視線を、必死に持ち上げた。
否定されるのは慣れている。
けれど、“番として選ばれたこと”を責められるのは、また違う痛みだった。
自分がここに立っていることが、彼を──レイグランを、傷つけているのではないか。
「もうよい」
低く、そして威厳に満ちた声が広間を支配した。
レイグランだった。
「我が番が“作られた存在”であることは否定しない。
だが、それは過去の王族の罪であり、彼の罪ではない」
ざわめきが広がる中、レイグランはセイルの肩に手を置いた。
「俺は、この男を“番として”ではなく、“一人の人間として”選んだ。
制度に従ったのではなく、俺自身の意思で選んだのだ」
「ですが殿下、制度は伝統です。民はそれに従ってきたのです!」
イグナートが声を荒げる。
だがレイグランは、静かに一歩、玉座の前へ進んだ。
「ならば、俺はこの制度を終わらせる。
“番だから愛する”のではなく、“愛する者を番にする”未来を、俺が築く」
王太子の宣言に、広間の空気は凍りついた。
それは、国の根幹を揺るがす発言。
だが同時に──誰もが口にできなかった“真実”でもあった。
長い沈黙の後、王の重臣のひとりが呟いた。
「……しかし、民はどう受け取るか。
番制度を否定することは、信仰そのものを揺るがしかねない」
その問いに答えたのは、セイルだった。
「なら……僕が、その証になります」
誰よりも震えていた声が、今はまっすぐ前を向いていた。
「僕は、“作られた番”です。
でも、“選ばれた存在”でもあります」
「制度に反した存在として、人々に認められるのなら、
この制度が“絶対”じゃなかったと証明できる。
僕はそのために……ここに立ちます」
レイグランは目を細め、そっとセイルの手を握る。
「……それでも君が俺のそばにいてくれるなら、それだけでいい」
その手は、どこまでもあたたかかった。
やがて王は、重々しく口を開く。
「審議は保留とする。ただし、制度を揺るがす以上、試練は避けられぬ。
“愛で国を変える”など、理想で終わるかもしれぬのだ」
だがそれでも、レイグランは答えた。
「理想を抱けぬ王子に、王冠などいらぬ」
その声は、広間にいた誰よりも澄んでいた。
セイルとレイグランの戦いは、ここから始まる。
血の審判を越えた先に、“選ばれし愛”の未来があると信じて──
玉座の間に集められたのは、各派閥の有力な貴族たち、宮廷医官、そして──告発文を送った者たち。
「王太子殿下の番は、“実験により作られた者”だと聞いております」
冷えた声が響いたのは、保守派を束ねる公爵家の長、イグナートだった。
その言葉に、周囲の空気が一気に張り詰める。
中央に立つのは、レイグランとセイル。
セイルは背筋を伸ばして立っていたが、その指先は震えていた。
「番制度は“神意”に基づくもの。
それを人の手で捏造し、王太子殿下がそれに与するなど……王家の威信を損なう行為だ!」
イグナートの声に呼応するように、何人もの貴族たちが賛同の意を表す。
セイルは俯きかけた視線を、必死に持ち上げた。
否定されるのは慣れている。
けれど、“番として選ばれたこと”を責められるのは、また違う痛みだった。
自分がここに立っていることが、彼を──レイグランを、傷つけているのではないか。
「もうよい」
低く、そして威厳に満ちた声が広間を支配した。
レイグランだった。
「我が番が“作られた存在”であることは否定しない。
だが、それは過去の王族の罪であり、彼の罪ではない」
ざわめきが広がる中、レイグランはセイルの肩に手を置いた。
「俺は、この男を“番として”ではなく、“一人の人間として”選んだ。
制度に従ったのではなく、俺自身の意思で選んだのだ」
「ですが殿下、制度は伝統です。民はそれに従ってきたのです!」
イグナートが声を荒げる。
だがレイグランは、静かに一歩、玉座の前へ進んだ。
「ならば、俺はこの制度を終わらせる。
“番だから愛する”のではなく、“愛する者を番にする”未来を、俺が築く」
王太子の宣言に、広間の空気は凍りついた。
それは、国の根幹を揺るがす発言。
だが同時に──誰もが口にできなかった“真実”でもあった。
長い沈黙の後、王の重臣のひとりが呟いた。
「……しかし、民はどう受け取るか。
番制度を否定することは、信仰そのものを揺るがしかねない」
その問いに答えたのは、セイルだった。
「なら……僕が、その証になります」
誰よりも震えていた声が、今はまっすぐ前を向いていた。
「僕は、“作られた番”です。
でも、“選ばれた存在”でもあります」
「制度に反した存在として、人々に認められるのなら、
この制度が“絶対”じゃなかったと証明できる。
僕はそのために……ここに立ちます」
レイグランは目を細め、そっとセイルの手を握る。
「……それでも君が俺のそばにいてくれるなら、それだけでいい」
その手は、どこまでもあたたかかった。
やがて王は、重々しく口を開く。
「審議は保留とする。ただし、制度を揺るがす以上、試練は避けられぬ。
“愛で国を変える”など、理想で終わるかもしれぬのだ」
だがそれでも、レイグランは答えた。
「理想を抱けぬ王子に、王冠などいらぬ」
その声は、広間にいた誰よりも澄んでいた。
セイルとレイグランの戦いは、ここから始まる。
血の審判を越えた先に、“選ばれし愛”の未来があると信じて──
1
あなたにおすすめの小説
見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない
みん
恋愛
精霊に護られた国ルテリアル。精霊の加護のお陰で豊かで平和な国ではあったが、近年ではその精霊の加護も薄れていき、他国から侵略されそうになる。戦いを知らない国王は、スネフリング帝国に助けを求めるが、その見返りに要求されたのは──。
精霊に護られた国の王女として生まれたにも関わらず、魔力を持って生まれなかった事で、母である王妃以外から冷遇されているカミリア第二王女。このカミリアが、人質同然にスネフリング帝国に行く事になり─。
❋独自設定有り。
❋誤字脱字には気を付けていますが、あると思います。すみません。気付き次第修正していきます。
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。
しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。
突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。
『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。
表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。
【完結】「お前を愛することはない」と言われましたが借金返済の為にクズな旦那様に嫁ぎました
華抹茶
恋愛
度重なる不運により領地が大打撃を受け、復興するも被害が大きすぎて家は多額の借金を作ってしまい没落寸前まで追い込まれた。そんな時その借金を肩代わりするために申し込まれた縁談を受けることに。
「私はお前を愛することはない。これは契約結婚だ」
「…かしこまりました」
初めての顔合わせの日、開口一番そう言われて私はニコラーク伯爵家へと嫁ぐことになった。
そしてわずか1週間後、結婚式なんて挙げることもなく籍だけを入れて、私―アメリア・リンジーは身一つで伯爵家へと移った。
※なろうさんでも公開しています。
家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる