番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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第13話「もう一人の番」

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胸元に浮かび上がった紋様は、まるで生きているかのように脈動していた。

 それは、“番の証”とは異なる紋。
 だが、不思議とセイルは――その力を拒絶する気になれなかった。

(これは……僕の中の“何か”が目覚めた印……?)

「痛みはどうだ?」

 レイグランの声に、セイルは振り返った。
 窓辺に立つ王太子の瞳は、夜明けの光を反射し、揺れている。

「……少し、熱い。でも、痛くはないよ。どこか……懐かしいような、感覚」

「それは、君の血が動いている証拠だろう。おそらく、“番”の枠に収まらない存在としてのな」

 レイグランはゆっくりと歩み寄り、セイルの胸元に手を当てた。
 そこに確かに感じられる脈動。――命そのものが、彼に語りかけていた。

「昨日、夢を見たんだ。金の瞳をした獣が出てきて、僕に問うたの。“己を失う覚悟はあるか”って……」

「答えたのか?」

「うん。迷っていたけど……答えた。――うなずいた」

 レイグランは黙ってセイルを見つめていたが、やがてゆっくりと首を振った。

「なら、もう引き返せない。君の中にある“力”は、制度すら変えるかもしれない」

 セイルは笑う。どこか、諦めの中にある清々しい笑顔だった。

「それでも、僕は逃げない。たとえ“番”じゃなくても、選ばれた者でいたいから」

 その言葉に、レイグランはそっと頬を撫でるように口づけを落とした。

「……君は、俺の誇りだ。番などという名に縛られなくても、君以上の伴侶はいない」

 その頃。

 王宮の地下では、昨日の“番の石”を使って現れた男――エドガーが、ひとり牢にいた。

 牢を訪れたのは、王妃ユリエルであった。

「……あなたは、“彼”の末裔ね」

 ユリエルの声に、男は薄く笑う。

「“番”を拒んだあの御方の血……皮肉だろう。
 俺は“選ばれた番”として、生まれてきたというのに、王太子に拒絶された」

「選ばれたのではなく、選ばせようとしただけでしょう?
 それは、“運命”ではなく“執着”よ」

「それでも、俺は王太子の“番”だ。
 ……あのセイルとかいう少年を、力で排除してでも、その座を取り戻す」

 その瞳には狂気すら宿っていた。

 そしてユリエルは静かに告げる。

「ならば、その執着が自らを滅ぼすことになるわ。
 “もう一人の番”が、あなたではなかったという事実に、いずれ貴方も気づくはず」

 エドガーは笑った。だが、その笑みはすでに“傷”のようにひび割れていた。

 一方、セイルの背中に新たな紋様が広がっていた。
 まるで翼のように――それは、“番”を超えた契約の刻印だった。

 選ばれし者ではなく、“選んだ者”に宿る真の紋章。

 それが、“真の契り”であると、まだ誰も知らなかった。
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