番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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第12話「番の証明」

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「俺は“番”ではなく、自らの意志でこの人を選んだ。──それが、何か罪か?」

 王太子レイグランの堂々たる宣言が広場に響く。

 だがその声にかぶせるように、“番”を名乗った黒髪の男が一歩前へ出た。

「罪ではない。しかし、逃れられない“真実”がある。
 お前の“番”は、俺だ。セイルではない」

 セイルの肩がびくりと震えた。

(そんなはずはない……!)

 だが、男が懐から取り出したのは――赤く脈打つ、紋章石。

 それは、“番の契り”が本物であることを証明する禁忌の遺物だった。

「この石は、“番”が互いを認識した時にのみ反応する。
 セイルに触れても脈動しない。だが、レイグランに近づくと……」

 男がレイグランに歩み寄った瞬間、石が強く輝いた。

 広場の空気が凍りつく。

 セイルの指先が冷たくなり、視界がゆらいだ。

(まさか……僕は……“偽物”だったの?)

 レイグランの表情がぴくりとも動かないまま、男を見据える。

「その石が何を示そうと、俺の決意は揺るがない」

「王太子。あなたは、“番を拒絶する”のですか?
 それは命に反する。破滅を呼び込むぞ」

「ならば、破滅してでも守る」

 王太子としての威厳を宿した声に、群衆からどよめきが起きた。

 だがその中で、セイルだけは、ひとり自分の胸の内に沈んでいた。

(僕が彼の“番”じゃないなら……僕は、彼に何を与えられる?
 この想いも、ただの自己満足だったのか?)

 夜、王宮の私室に戻ったレイグランとセイルは、しばしの沈黙を保っていた。

 蝋燭の明かりがふたりの影を長く引き伸ばす中、セイルが口を開いた。

「……僕は、あなたの“番”じゃなかった」

「……ああ、そうらしいな」

「それでも、僕といるつもり?」

「逆だ。番だからじゃないからこそ、お前を選んでいるんだ」

 レイグランは、椅子から立ち上がり、そっとセイルの頬に触れた。

「番でなければ愛せない関係など、俺にはいらない。
 “選んだ”という誇りがなければ、絆とは呼べない」

 その言葉に、セイルの視界が潤む。

 けれど同時に、背後で何かが“きしむ”ような気配を感じた。

 その夜、セイルの夢に“金の瞳を持つ獣”が現れる。

 夢の中でその獣は、セイルに問う。

『お前の血に眠るものを、目覚めさせるか?
 “番”でなくとも選ばれる、その意味を知りたいか?』

 セイルはその問いに、ためらいながらも頷いた。

『ならば……己を、失う覚悟はあるか?』

 獣の爪が、胸に触れた瞬間――世界が白く、砕けた。

 翌朝。
 セイルは胸に焼けるような痛みを覚えて目を覚ました。

 その皮膚の上には、紋様が浮かび上がっていた。

 それは、“番の証”とは似て非なる、未知の紋。

 彼の中に、“古い血”が目を覚ましつつあった。
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