番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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第15話「契りの儀式」

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“契約の印”が浮かび上がったその翌日。
 レイグランとセイルは、王宮内の奥深く──かつて“番”が生まれるより前に存在した、古代の誓約殿へと足を運んでいた。

 ここでは、血ではなく「意志」によって愛を誓った者だけが、契約を交わすことが許されたという。

「……この場で“契りの儀”を果たせば、国は黙認せざるを得なくなるだろう」

 ユリエル王妃が厳かに語る。

「それほどまでに、“契約の印”は重い意味を持つ。古代の“王の証”でもあるから」

 だが当然、反発もある。

 王族評議会の一部貴族たちは、「番の否定は国家の秩序を揺るがす」として、儀式の中止を求めていた。

「彼らが儀式に干渉してくる可能性があるわ。……特に、“選ばれなかった番”は、危険よ」

 王妃の言葉に、セイルは一瞬だけ視線を伏せる。

(エドガー……あのままでは、終わらない)

 儀式は満月の夜に行われると決まった。

 誓約殿には、ふたりの姿を記録する“見届け役”として、王妃と数名の中立派のみが同席を許された。

 白い礼装に身を包んだレイグランは、かつてないほど凛々しく、そして穏やかに見えた。

 対するセイルは、深い青の衣に銀の刺繍がほどこされた特別な装束に身を包む。

 ──まるで、かつての“初代王”と“契りを結んだ伴侶”の姿そのものだった。

「セイル・アーデル。汝は、自らの意志で、この王太子レイグラン・ユールと、魂を重ねることを望むか?」

「はい。どの制度にも、血にも、命令にも縛られず、僕は彼を選びます」

「レイグラン・ユール。汝は、番という定めではなく、この者を、伴侶として認めるか?」

「当然だ。彼以外を望んだことなど、一度もない」

 ふたりの言葉が重なったとき、契約の印が鮮やかに輝いた。

 セイルの胸から背中へ、レイグランの掌から腕へと、同じ文様が浮かび上がる。

 それは“番”の力を超えた、原初の契り。

 まばゆい光が天井を突き抜け、夜空へと昇っていった。

 だが、その光の先にあったのは──

 屋根裏から覗き込む、“もう一人の番”、エドガーの狂気の双眸。

 契約の印の輝きが、自分には決して手に入らないことを突きつけた瞬間。

「……ならば、壊すしかない。絆ごと、王国ごと」

 抑えきれぬ衝動が、禁術を呼び起こす。

 彼が手にしたのは、封印された“番の契約書”の複写。

 それは、番に選ばれなかった者が、正統を主張する最後の手段──
 “偽りの契り”を押し通すための呪術だった。

 その夜。
 ふたりが契りを果たし、微睡みに落ちる直前。
 セイルの額に、じわりと異様な熱が走る。

「っ……レイグラン、何か……おかしい……!」

 見れば、先ほど浮かび上がった“契約の印”が、別の力に侵食されはじめていた。

「これは……っ、干渉されてる……!」

 ふたりの絆に、偽りの契約が重ねられようとしている。

 ――これは、再び“試される夜”の始まり。
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