番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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エピローグ「心を継ぐ王と、その隣に」

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王都の空が、高く澄み渡っていた。
 新しい年の始まりを告げる鐘が鳴り、民たちは祝いの装いで通りを彩っている。

 その中心――王城の玉座に、若き王が即位してから一年が経とうとしていた。

 名は、レイグラン・アルミナス。
 “契約の王”と呼ばれた男だ。

「……少しだけ、いいか?」

 玉座の間から抜け、王は一人の青年が待つ部屋を訪れた。

 そこには、変わらず本を読みながら紅茶を口にするセイル・アーデルの姿があった。

「来ると思って、温めておいたよ」

 笑いながら、セイルがもうひとつのカップを差し出す。

 レイグランはそのカップを受け取り、椅子に腰を下ろした。

「式典のあと、ずっと会いたかった。……ようやく、息ができる」

「王様がそんなこと言っていいの?」

「君の前では、誰にも見せない顔も許されるだろう?」

 その言葉に、セイルはふふっと笑う。

 即位からの一年、レイグランは前王の遺志を継ぎながらも、新しい風を吹き込んだ。

 “番”という制度は緩やかに形を変え、
 貴族も民も“自由な選択”という価値に触れるようになっていった。

 セイルは王妃ではない。
 けれど、国中の誰もが知っている――“王が生涯をかけて選んだ人”であることを。

「……まだ、夢みたいだなって思うことがある」

「なにが?」

「自分が、王と一緒にこの国にいるってこと。
 あの日、ただ名もない書記官として働いていた僕が――」

 レイグランはそっとその手を取り、重ねる。

「君は選ばれたんじゃない。君が、選んだからここにいる」

「……ずるい。そういうことを、真顔で言うなんて」

 けれど、セイルの目には涙ではなく、誇りがあった。

「君と出会って、恋をして、選びあって――
 ようやくここに辿り着けた。すべては“奇跡”じゃなく、“意志”だったんだ」

 それは、制度や血に頼らずに生きると決めたふたりの、答えだった。

 外では鐘の音が鳴り止まぬまま、祝福の歌が響いている。

 王と、その隣に立つひとりの青年。
 ふたりが選んだ未来は、国全体に“新しい始まり”をもたらしていた。

「さて、次の一年もまた忙しくなるね」

「構わない。君が隣にいるなら、俺はどこまでも進める」

 寄り添うふたりの姿に、侍女が扉越しにそっと微笑む。

 それは、“王と契約者”の物語が、伝説ではなく“日常”となった証だった。

 この国の未来は、もう誰かに決められるものではない。
 ひとりひとりが選び、信じ、愛を築いていく――その始まり。

 そして今日も、王とその隣に立つ青年は、静かに新しい歴史を紡いでいく。

──Fin.
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