『聖女の力が暴走した結果、無自覚にヤンデレ皇子を落としてしまった件』

春夜夢

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『第7話:聖女を外交の駒に? ならば奪って、逃げるまで』

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「聖女リディアを、隣国フロステリア王国へ“和平の証”として送還する」

王の宣言は、王宮内に衝撃を走らせた。

「お待ちくださいっ!」

レオン様が前へと出る。その瞳は、今にも怒りで燃え上がりそうだった。

「聖女はこの国の希望、我らが血で守るべき存在です! それを他国へ差し出すなど――」

「静まれ、レオン」

国王は冷たく言い放つ。

「お前の想いなど関係ない。我が国は魔王軍との戦で疲弊している。和平のための“駒”として、聖女は最もふさわしい」

「駒、だと……?」

レオン様の肩が、怒りで震えていた。
その手は、剣の柄にかけられている。

まさか――

「ならば……王命とあらば、私はそれに背こう」

広間に一気に緊張が走る。

「私は彼女を“外交の品”などと認めない。……この国が聖女を売るというのなら、俺が彼女を奪って逃げるまで」

「……レオン、貴様!」

「王であろうと、この想いを止めることはできない」

バッ――!

そのままレオン様は私の手を取り、王宮から駆け出した。

騎士たちの制止を振り切り、王都の門を強引に開け、私を馬に乗せる。

「れ、レオン様! 本当に、こんなこと……!」

「俺は国よりも、秩序よりも――お前一人を選ぶ。たとえ、この身を滅ぼすことになっても」

夜の闇を切り裂いて、私たちは走る。
王族が王命に逆らい、聖女を連れ去った。

……これはもう、逃げ場のない“罪”だ。

けれど。

「怖くはない。……お前がいる限り、俺は何も失っていない」

その言葉が、私の胸を温かく満たした。

そしてその夜、辿り着いた隠れ家の小屋。

レオン様は、震える私の髪を梳きながら言った。

「ここには誰も来ない。お前と、俺だけの場所だ」

「……もし、見つかったら?」

「殺すよ。近づいたやつは、全員」

微笑む彼は、優しくも、恐ろしいほど狂気に満ちていた。

「安心しろ。お前が逃げない限り、俺はただ優しく、お前を“調律”し続けるだけだ」

「レオン様……」

私は答えられなかった。

逃げたら壊れる。
けれど、逃げなければ、私自身が……彼に飼い慣らされてしまう。

それが、怖いと思う反面――どこか、心地よく感じている自分がいた。
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