婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?

春夜夢

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第二十一話:もう、強いふりはしたくない

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それは、何の前触れもなく、静かに起こった。

『聖女エリス・アルメリア殿は、神の御心に反し、政治的発言と身分を逸脱した行動を重ねております。
よって、聖女の地位の見直しを強く要請いたします。』

神託庁に届いた正式文書。
送り主は――王妃派を束ねる、カスティナ公爵夫人とその一派の連名。

「……ここまで露骨に来たのね」

私は文面を読み終え、そっと目を閉じた。
政務補佐官としての私。
聖女としての私。

すべてが、誰かにとっての“邪魔”になっている。

「私が、間違っていたのかしら……」

静かにこぼしたその言葉を、私は誰に向けたわけでもなかった。

その日の夕刻。

神託庁の一角、人目のない礼拝室。
私は一人、膝を抱えていた。

気づかれないように、涙を流していた。

「もう……強いふりなんて、したくなかったのに」

声が震えた。
誰かに弱さを見せることすら、忘れていた。

そこに――扉が静かに開いた。

「……見つけた」

ジルベルトだった。

「……どうしてここに」

「君が一人になるときは、必ず心が壊れる寸前だって、知ってるから」

そう言って、彼は迷いなく私の隣に座った。
そして、そっと手を差し出してきた。

「これは、政略じゃない。
王族でもなく、政治家でもなく、一人の人間として――君を救いたい」

その手は、何も求めてこなかった。
ただ、そこに“いてくれる”ことが、涙のあとを温かく包んだ。

「……ありがとう」

私は、小さな声でそう言って、彼の肩に額を預けた。

(……私は、いつまで“誰かの聖女”でいればいいの?)

その問いの答えは、まだ分からなかった。

けれど今だけは、
誰かの腕の中で、ほんの少しだけ眠っても――いいと思えた。
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