婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?

春夜夢

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第二十二話:あなたを守るのを、もうやめる

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「本日、神託庁および王宮連名による緊急会議を開催いたします。
議題は――“聖女エリス・アルメリア殿の資格について”」

その通達が、王都全域に走ったのは早朝のことだった。

各地から神官、貴族、民間代表が集い、
王宮第二議事堂にて行われる“裁きの会議”。

神託庁からの推薦者は、マリア・ヴェステリア。

完璧な聖女候補としての実績、そして民意。
ここまでの流れは、すべて王妃派の筋書き通りだった。

「マリア様の清らかさこそ、真なる聖女の証」

「エリス殿は過激すぎる。政治の道具になりつつある」

「民に近すぎるのは、聖性を損なうのでは?」

そんな声が、会議の場で次々と上がる。

けれど、私は一歩も引かなかった。

「神は、祈るだけの聖女を求めたのでしょうか。
誰かの血を見ぬ場所で、ただ綺麗な言葉を述べる存在を、
本当に“神の代弁者”と呼ぶのですか?」

その言葉に、一瞬だけ空気が止まる。

「私は、誰かのために膝をつき、泥を踏み、
泣きながら傷を洗ってきた。
それが、“私の祈り”です」

その瞬間、後方からひとりの男が壇上に立った。

「それこそが、真の聖女の姿だと、私は信じています」

――ユリウスだった。

「私は近衛として、五度、命を懸けてこの方を守った。
でも、今はそれだけでは足りない。
守るのではなく、彼女の人生を共にしたいと願っている」

ざわめきが起こる。

「お前、それは――!」

「言葉の責任は取ります。
この場で職を辞してもいい。
でも、それでも伝えたかった。
“誰にも渡したくない”と」

その言葉は、刃だった。

誰よりも優しく、
けれど誰よりも鋭く、私の心を貫いていく。

(……なんで今、そんなこと言うのよ)

泣きそうになるのを、必死で堪えた。

そのとき、ジルベルトが静かに立ち上がる。

「……私も、彼の言葉に異議はない」

会議場が、再び静まる。

「エリス・アルメリアは、王政を支える者としてふさわしい。
その存在は、国家にとって不可欠だ。
聖女の資格――いや、“新たな時代の礎”として、私は彼女を推挙する」

二人の男が、正反対の方法で、
同じ女性の隣を選んだ。

その中心で私は、
ようやく気づいたのかもしれない。

(私は、誰かに選ばれるだけの存在じゃない。
誰かを“選ぶ”ために、生きているんだ)

そして、神託庁長官が立ち上がり、告げる。

『神託庁、および王宮の審議をもって、
エリス・アルメリア殿は、引き続き“聖女”として任を全うすることを認める』

会場が、静かに揺れた。

私は、まだ“聖女”でいられる。
でも、その意味はきっと――今までとまるで違っている。
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