この世界で、君だけが平民だなんて嘘だろ?

春夜夢

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第4話 「護れなかった、あの少年に――君が似ていた」

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魔力量測定の騒ぎは、一瞬で学園中に広がった。

「平民のくせに、魔力量が会長並み……?」
「やっぱりただの孤児じゃなかったんだ」
「もしかして、どこかの貴族の落胤――?」

事実無根の噂が、尾ひれをつけて広がっていく。

だが当のリオは、表情一つ変えずにこう言った。

「……噂は、勝手に走るから仕方ない。
でも俺は、ここで誰にも迷惑かけないように生きるよ。
――あんたの顔を潰したくないから」

その言葉を聞いたユリウスは、目を細めてこう答えた。

「……リオ、お前は何もわかっていない」

「え?」

「“俺の顔”なんてどうでもいい。
――俺が怒るのは、“お前が傷つくかもしれないこと”だけだ」

* * *

そしてその夜。
リオは初めて、ユリウスの“過去”を知ることになる。

「昔――俺には、弟のように可愛がっていた少年がいた」

「……?」

「平民の子だった。魔力量が異常でな。
貴族たちは彼を“実験体”として囲おうとした。
俺は彼を助けられなかった。
……守ると言ったのに、結局、彼はどこかに消えた」

リオの胸が、痛んだ。

「その子に、俺が似てる……?」

ユリウスは、静かにうなずいた。

「最初は、重ねていた。……でも今は違う。
お前は、リオだ。
俺が過去に護れなかった“幻”じゃない。
今この瞬間、“俺が護りたい”と思った唯一の存在だ」

その言葉に、リオの心は大きく揺れた。

(この人は、俺に“代わり”を見ていたんじゃない。
ちゃんと“今の俺”を見てくれていたんだ……)

その夜、リオは生まれて初めて、自分から誰かに触れた。

「……ユリウス」

「なんだ」

「……ありがとう。俺、“君がいてくれてよかった”って思うよ」

その瞬間。

ふいに、扉がノックされた。

「会長。お入りになってますか?」

声の主は――
副会長、カミル・エルステッド。

学園でも五本の指に入る貴族であり、
常に冷静、そして誰にでも優しく、整った顔立ちの青年。

リオは以前、一度だけ廊下で彼とすれ違ったことがあった。

「……あの子か。魔力量五倍の“逸材”ってのは」

カミルは笑みを浮かべ、リオを一瞥する。

「平民の孤児。
けれど顔も綺麗で、態度も悪くない。……会長の趣味、変わった?」

「貴様には関係ない」

ユリウスの声が、珍しく冷たい。

その横で、リオは肩をすくめた。

(……なんか、嫌な予感がする)

そう思ったのは、間違いではなかった。

カミルの視線には、明らかな“興味”が宿っていたから。

(僕も、触れてみたくなったな。
あの瞳の奥にある、“まだ誰にも染まっていない何か”に)

副会長の影が、リオにじわじわと迫り始める。

そして――それは、ユリウスの中に眠る独占欲を、
少しずつ“暴走寸前”まで押し上げていくことになる。
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