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第5話 「キス、されそうになった。……君以外の人に」
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副会長・カミルの登場によって、リオの学園生活は再び落ち着かなくなっていた。
「リオくん、今日の授業、付き添ってもいいかな?」
「ちょっとお茶でもどう? この時間、ユリウス会長は執務中だよね?」
優雅で紳士的。
貴族らしい穏やかさに、誰もが好意的な笑顔を返す。
けれど――
(この人、どこかおかしい)
リオは、直感でわかっていた。
カミルの視線は、常に「品定めするような眼差し」だった。
“知りたい”と言いながら、“試したい”と語っているような、そんな目。
(俺が“ユリウスの大切なもの”であることを知って、
それを確かめに来てる……)
けれど、リオは断りきれなかった。
貴族社会の空気というものに、まだ不慣れだったから。
* * *
午後の講義後。
カミルに誘われ、人気のない回廊を歩く。
「リオくんって、不思議だね。
平民のはずなのに、礼儀も所作も美しくて、育ちの良さすら感じる」
「そんなこと、ないです」
「あるよ。ユリウス会長が夢中になるのも、なんとなく理解できた」
「……っ」
リオは立ち止まった。
「副会長。……用件は何ですか?」
「単純に、君に興味があってね」
「俺は、“物”じゃありません」
カミルの目が細められた。
「……ますます面白いね」
そう言って――
カミルがリオに手を伸ばした。
「……っ!?」
頬を撫でられた次の瞬間、
リオの背にあった石壁に、腕が回される。
「試してみたいんだ。
君が“どこまで、ユリウス会長だけのもの”なのかを」
「やめ……っ、ください!」
リオの拒絶は、届かなかった。
カミルの唇が、リオのそれに触れようと近づいた――そのとき。
バリィィンッ――!
魔力の奔流が、空間を引き裂いた。
「リオから、離れろ」
その声に、空気が凍る。
カミルが目を見開いたまま、動けなくなる。
次の瞬間、ユリウスの手がリオの腕を掴み、
ぐいと自分の胸元へと引き寄せた。
「お前、王政法典の“私的接触の禁止第十四条”を忘れたのか?
“他者が明確に拒否した接触は、未遂であっても侮辱と見なす”。
……貴族のくせに、それすら知らんとはな」
「……ごめん、ユリウス……」
リオの声が震える。
「キス……されそうになった。
……君以外の人に」
「…………」
その言葉に、ユリウスの目が鋭く細められる。
「今夜、覚悟しておけ」
「えっ?」
「“他人に触れられたお前”を、俺が上書きする」
「ちょ、まっ――え!? えぇ!?!?!?!?」
* * *
その夜。
リオの部屋の扉は、いつもより早く、静かに開いた。
「な、なんでスーツ脱ぎかけなの!? なにそのシャツのボタン――っ!」
「……キスくらい、もうしてもいい頃だろ」
「こ、心の準備というものがッ……!!」
「さっき、言ったな。“俺以外にされそうになった”と」
「……っ」
「なら、“俺にだけ許す”と口にしろ」
「…………ずるい」
リオの声が震えていた。
「ずるいよ、君。……全部持ってく。
こんな時にそんな声出されたら、拒めるわけないじゃん……」
「なら、いいな」
「……うん。……いいよ」
そう答えたリオの唇に、
ようやく、優しい、けれどどこまでも熱を孕んだ“初めてのキス”が落とされた。
部屋の外では、月が静かに、雲間から顔を出していた。
それはきっと、ふたりにとっての――
恋の“夜明け”だった。
「リオくん、今日の授業、付き添ってもいいかな?」
「ちょっとお茶でもどう? この時間、ユリウス会長は執務中だよね?」
優雅で紳士的。
貴族らしい穏やかさに、誰もが好意的な笑顔を返す。
けれど――
(この人、どこかおかしい)
リオは、直感でわかっていた。
カミルの視線は、常に「品定めするような眼差し」だった。
“知りたい”と言いながら、“試したい”と語っているような、そんな目。
(俺が“ユリウスの大切なもの”であることを知って、
それを確かめに来てる……)
けれど、リオは断りきれなかった。
貴族社会の空気というものに、まだ不慣れだったから。
* * *
午後の講義後。
カミルに誘われ、人気のない回廊を歩く。
「リオくんって、不思議だね。
平民のはずなのに、礼儀も所作も美しくて、育ちの良さすら感じる」
「そんなこと、ないです」
「あるよ。ユリウス会長が夢中になるのも、なんとなく理解できた」
「……っ」
リオは立ち止まった。
「副会長。……用件は何ですか?」
「単純に、君に興味があってね」
「俺は、“物”じゃありません」
カミルの目が細められた。
「……ますます面白いね」
そう言って――
カミルがリオに手を伸ばした。
「……っ!?」
頬を撫でられた次の瞬間、
リオの背にあった石壁に、腕が回される。
「試してみたいんだ。
君が“どこまで、ユリウス会長だけのもの”なのかを」
「やめ……っ、ください!」
リオの拒絶は、届かなかった。
カミルの唇が、リオのそれに触れようと近づいた――そのとき。
バリィィンッ――!
魔力の奔流が、空間を引き裂いた。
「リオから、離れろ」
その声に、空気が凍る。
カミルが目を見開いたまま、動けなくなる。
次の瞬間、ユリウスの手がリオの腕を掴み、
ぐいと自分の胸元へと引き寄せた。
「お前、王政法典の“私的接触の禁止第十四条”を忘れたのか?
“他者が明確に拒否した接触は、未遂であっても侮辱と見なす”。
……貴族のくせに、それすら知らんとはな」
「……ごめん、ユリウス……」
リオの声が震える。
「キス……されそうになった。
……君以外の人に」
「…………」
その言葉に、ユリウスの目が鋭く細められる。
「今夜、覚悟しておけ」
「えっ?」
「“他人に触れられたお前”を、俺が上書きする」
「ちょ、まっ――え!? えぇ!?!?!?!?」
* * *
その夜。
リオの部屋の扉は、いつもより早く、静かに開いた。
「な、なんでスーツ脱ぎかけなの!? なにそのシャツのボタン――っ!」
「……キスくらい、もうしてもいい頃だろ」
「こ、心の準備というものがッ……!!」
「さっき、言ったな。“俺以外にされそうになった”と」
「……っ」
「なら、“俺にだけ許す”と口にしろ」
「…………ずるい」
リオの声が震えていた。
「ずるいよ、君。……全部持ってく。
こんな時にそんな声出されたら、拒めるわけないじゃん……」
「なら、いいな」
「……うん。……いいよ」
そう答えたリオの唇に、
ようやく、優しい、けれどどこまでも熱を孕んだ“初めてのキス”が落とされた。
部屋の外では、月が静かに、雲間から顔を出していた。
それはきっと、ふたりにとっての――
恋の“夜明け”だった。
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