この世界で、君だけが平民だなんて嘘だろ?

春夜夢

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第6話 「君は、俺の“選んだ相手”だから」

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翌朝。

リオは、ふかふかの枕に頬を押しつけたまま、悶えていた。

「うああああああ……!」

昨夜――
初めてのキスは、甘くて、優しくて、でも逃げ場がなくて。
終わった後も、ユリウスは額をぴたりとくっつけて、耳元で囁いたのだ。

「……もう、誰にも渡さない」

(な、な、なにあれ……反則でしょ!?)

しかも、キスだけで終わったことに対し、

「今は、君の“初めて”を踏みにじりたくないから」

という配慮付き。

(やばい。好きが爆発しそう……!)

* * *

だが。

「お前、疲れが残ってる顔だ。今日は授業、出なくていい」

「いやいやいや!? ただのキスですよ!? 魔法戦の実技じゃないんですから!?」

「……心の動揺も、立派な疲労だ。俺にはわかる」

「過保護すぎるでしょ!!!」

ユリウスは、もう完全に“溺愛モード”に入っていた。

朝食は二人分を持ち込み、
リオの髪を寝癖のまま撫でつけながら、スプーンで食事を運ぼうとし――

「も、もう無理! 自分で食べます!!」

と、リオが叫ぶ始末。

(これが……“恋人”というやつか……)

* * *

その日の午後。

リオは一人、図書棟の上階にいた。
学園内でも静かな場所で、落ち着くのだ。

だがそこで、思わぬ人物と再会する。

「リオくん」

現れたのは、副会長・カミル。

昨日の一件以来、リオは彼を避けていたが――
今日は逃げ場がなかった。

「……副会長。……あのことは、謝っていただけましたよね」

「うん。でも、謝りに来たわけじゃないんだ」

カミルは、扉の鍵をそっと閉めた。

「君に、話したいことがあったから」

「……っ」

警戒心をあらわにするリオを前に、カミルはため息をついてから、
柔らかい微笑を浮かべた。

「……リオくん。
君の魔力量が“異常”なのは、実は昔から調査対象だったんだ」

「……調査?」

「君は、魔力量において《古代因子》を持つ個体。
数百年ぶりに現れた、“国家規模で動く価値がある”存在」

「……っ!」

リオの手が震えた。

「君が“平民”として扱われていたのは、身元保護のため。
でも、その正体を知っている貴族は、ごく少数。
僕も、ほんの偶然で知ることになった」

「どうして……そんな話を今さら……」

「ユリウス会長は、君を守っている。
でも、僕たちの世界では“強すぎる力”は、愛だけでは守れないこともある」

「……何が言いたいんですか」

カミルの目が細まった。

「――君に、“選ばせたい”んだ」

「え?」

「このまま、ユリウスと共に生きていくか。
それとも、王政直属の庇護下で、“管理される存在”として生きていくか」

リオの胸が、ぎゅうっと締めつけられる。

(選べって――そんなの、俺の意志と関係ないじゃん……!)

けれど、そのときだった。

バンッ!

扉が乱暴に開かれた。

「……ふざけるなよ、カミル」

そこに立っていたのは、当然――ユリウスだった。

(なんでわかったの?)

「お前が、またリオに接触する可能性があると踏んで、
この図書棟に監視魔法を張っていた。……正解だったな」

「相変わらずだね。監視と独占が得意な君らしい」

「そうでもしなければ、リオのような“無防備で純粋な奴”は、簡単に連れていかれる」

ユリウスは静かに歩み寄り、
リオを自分の背に隠すように立った。

「……リオ。選ぶなら、今だ」

リオの目が揺れる。

けれど、すぐにまっすぐな瞳になって――言った。

「俺は、“ユリウスを選ぶ”よ」

「……理由は?」

「君は、俺を“保護対象”とか“国家資産”とか、
そういう目でしか見ない」

「でもユリウスは、“俺自身”を見てくれる。
……それだけで、十分すぎる」

ユリウスの目が、すっと和らいだ。

「……バカが。
そんなふうに信じてくれるから、俺はもう、離れられない」

リオの背に回された手が、ぴたりと震えていた。

(この人は、いまでも怖いんだ。
俺を失うことが――)

(……でも、大丈夫。
俺は、もうどこにも行かないから)

そう心で返したその夜、
リオはユリウスの部屋に“自分から”足を運ぶ。

そして、そっと言った。

「ねえ。
今夜は、“君の隣で”寝ていい?」

「……ああ」

抱き寄せられた胸の中で、リオは初めて――
自分が“守られてる”だけじゃなくて、
“守ってあげたい”と思った。
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