落ちこぼれ予言者と、世界を救うただの少年

春夜夢

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導かれし地図と、選択の扉

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夜の静けさの中、焚き火のそばでレントは欠片を手に見つめていた。
 石版には淡い光が宿っており、見ていると心の奥に地図のような像が浮かび上がる。

「この場所……森を抜けて、北の高原地帯のさらに奥?」

「うん。あそこ、私も行ったことない。
 でも、そこには“神々の塔”があるって、伝承には残ってる」

 フィノが隣で頷く。
 彼女の記憶の中にも、断片的に語られた“神々が最後に姿を現した地”の話があった。

「この塔に行けば、僕の“中にある何か”がわかるのかな……」

「きっと。というか、知りに行こう。レント自身のことだもん」

 未来は定められていない。けれど、“選びに行く勇気”は持てる。
 それが今の二人にある、唯一の強さだった。

 翌朝──

 二人は再び森を抜け、北へと進む。
 旅の途中、隠れ村で食糧を補給したり、行商人に紛れて移動したりと慎重な行動を続けていたが──

「……追ってきてる。あの“未来の読めない男”が」

 フィノがぽつりと呟く。

 “ゼイン・ハルヴァード”。導律騎士団の特務隊長にして、フィノの未来視が通じない唯一の存在。
 彼は今、あらゆる手段を使ってレントを捉えようとしていた。

「目的地の塔には、**“選択の扉”**と呼ばれる神の試練があるらしい。
 レント、そこで下される選択によっては、君自身の記憶や過去が……」

「消えるの?」

「ううん、逆に“戻る”可能性がある。でもそれが、君にとってよいことかどうかは……」

 沈黙。
 だが、レントはゆっくりと頷いた。

「それでも、行くよ。知らないまま進むより、怖くても知りたい。
 ……僕はもう、“逃げるだけの存在”でいたくないから」

 その言葉に、フィノはふっと微笑んだ。

「うん。その覚悟があるなら、私も一緒に進める」

 二人の旅は、世界の“中心”へと近づきつつあった。

 そして──

 遠く離れた王都の玉座の間。
 ゼイン・ハルヴァードは、仮面をつけた老預言官からの報告を静かに聞いていた。

「“滅びの器”が塔を目指している。あなたの想定通りです」

「ならば、“裁定の刻”は近い。
 ……やがて、“選ぶ者”が、“選ばれる側”になる。フィノ・エルカ。君も、例外ではない」
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