闇に堕ちる月

春夜夢

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東京の夜は、雨のせいで赤く滲んでいた。
 ネオンの光が路地の水たまりに反射し、まるで血のように揺れている。
 その中を、青年――藤堂蓮はひとり歩いていた。

 23歳。組の下っ端で、日々の仕事は用心棒や雑用ばかり。
 笑顔で挨拶をしても、上の者たちに認められることはない。
 孤独――それが、彼の現実だった。

 「蓮、お前、今夜も張り込みだ」
 組長の声が電話越しに響く。
 蓮は無言で頷き、傘を握り直す。
 体の芯に寒さと疲労が染み渡る。

 雨の中、繁華街の裏路地。
 暗がりから、黒いスーツに身を包んだ青年――神代颯が現れた。
 颯は組の幹部で、冷徹な眼差しと計算高い頭脳を持つ。
 だが、蓮に向ける視線だけは、他の者とは違った。

 「藤堂、今日はお前に重要な仕事がある」
 颯の声は低く、甘さと危険が混ざっていた。
 蓮の心臓が一瞬、跳ねた。
 怖さと期待が入り混じる――それは彼にとって初めての感覚だった。

 張り込み中、蓮は颯の指示でクラブへ向かう。
 密室の駐車場で、危険な取引を監視する任務。
 拳銃を握る手が震える。
 ――自分は本当に、この世界で生き残れるのか。

 その時、颯が蓮の隣に立つ。
 肩が触れた瞬間、熱が伝わり、思わず息を飲む。

「……お前、無理するな」
 颯の声が耳元で低く響き、胸を締め付ける。
 蓮は否応なく視線を上げ、颯の瞳を見る。
 冷たく光る瞳の奥に、わずかな優しさが隠されていた。

 その夜、張り込みは無事終了する。
 だが、蓮の心は安らがなかった。
 颯の視線、声、存在――
 すべてが自分を揺さぶり、逃れられない感情を呼び起こす。

 孤独だった自分に、初めて“誰かが近くにいる温度”を感じる夜。
 そして蓮は、気づいてしまう。
 ――この危険な世界で、颯なしでは生きられないかもしれない、と。

 雨は上がり、路地には静寂が戻った。
 蓮はひとり、濡れた靴で水たまりを踏みしめながら歩く。
 背後に、颯の影が静かに寄り添うような気配を感じながら――。
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