闇に堕ちる月

春夜夢

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翌朝、東京の街はまだ雨の名残で湿っていた。
 蓮は組の事務所に顔を出すが、昨日の張り込みの疲れが身体に残る。
 だが、心は妙に落ち着かない――颯の視線が頭から離れなかった。

 「藤堂、お前、昨日の仕事、よくやったな」
 組長の声が事務所に響く。
 褒め言葉なのに、心に響かない。
 蓮の意識は、隣のデスクに座る颯に向かっていた。

 昼、組の幹部会議の後。
 颯が蓮に呼びかける。
 「今日、少し俺と来い」
 その声は低く、そして冷たくも甘い。
 蓮は無意識に、頷いてしまう。

 向かった先は、郊外の倉庫街。
 組の内部事情の確認と、下っ端としての教えを兼ねた“任務”だった。
 しかし、蓮の心は任務よりも颯の存在に翻弄されていた。

 颯は距離を保ちながらも、蓮の背後や横にぴったりと寄る。
 その度に、蓮は胸がざわつき、手の震えを感じる。
 「……俺、どうしてこんなに意識してしまうんだ?」
 蓮は心の中で自問した。

 倉庫での任務中、他組との小競り合いが発生する。
 拳銃の音、怒号、飛び交う煙。
 蓮は初めて、颯の冷静さと恐ろしさを目の当たりにする。
 颯は一切動じず、指示を的確に出しながら蓮を守る。

 その姿を見た蓮の心は、揺さぶられた。
 ――恐怖の中で、颯の存在だけが自分を落ち着かせる。
 危険と欲望が混ざり合い、蓮の胸に熱がこみ上げる。

 任務が終わり、倉庫の暗がりで二人きりになる。
 蓮は思わず呟いた。
 「……颯さん、俺、怖かった……でも、あなたがいたから……」
 颯はゆっくり近づき、低く響く声で答える。

 「……藤堂、お前は俺が守る。だから、怯えるな」

 その言葉に、蓮の身体が小さく震える。
 手が自然に颯の腕に触れ、指先が絡まる。
 互いの呼吸が近づき、危険と情欲が混ざり合った瞬間だった。

 夜、事務所に戻る道すがら。
 蓮は歩きながら、颯の影を常に感じる。
 視線も、心も、逃れられない。
 この危険な世界で、颯との関係は甘く、そして刺激的に深まっていく――。
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