闇に堕ちる月

春夜夢

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深夜の東京。
 蓮は組事務所の片隅で、一人残った書類整理をしていた。
 頭の中には、倉庫での颯の姿が焼き付いて離れない。
 あの冷徹な眼差しと、護ると決めた瞬間の温度。

 ドアの開く音に、蓮はハッとして顔を上げる。
 颯が静かに入ってきた。
 黒いスーツの上着を脱ぎ、シャツ姿の颯は、昼間とは違う柔らかさを漂わせる。

 「……まだ起きてたのか」
 蓮の心臓が一瞬、跳ねる。
 「はい……書類整理を」
 声が思わず震える。

 颯は蓮の隣に腰掛け、静かに視線を落とす。
 「……昨日のこと、覚えてるな?」
 蓮は顔を赤らめて頷く。
 倉庫での任務、他組との小競り合い、そして触れ合った手の温もり――
 すべてが鮮明に蘇る。

 「……俺、怖かった。でも、颯さんが……」
 言葉を途切れさせる蓮に、颯は軽く肩を叩く。
 その指先の温度に、蓮の胸が締め付けられる。

 「怖くて当然だ。だが、俺がいる」
 颯の声は低く、しかし甘く響き、蓮の理性を揺さぶる。

 事務所の蛍光灯が消え、街の灯りだけが二人を照らす。
 颯がそっと蓮の手を取る。
 指先が絡まり、心臓が暴走する。
 「……どうしてこんなに、胸が苦しいんだろう……」
 蓮は自分の心に問いかける。

 颯は蓮の視線をじっと見つめ、耳元で囁く。
 「……蓮、お前は俺のものだ」
 その言葉に、蓮の息が止まる。
 言葉以上の意味――欲望と独占の香りが、二人の間に漂う。

 静寂の中、二人は一歩、また一歩と距離を縮める。
 肩が触れ、息が重なり、唇がかすかに触れる。
 触れるたびに、互いの心と身体が揺れ、秘密の夜の甘い緊張が高まる。

 蓮は初めて、自分が颯に完全に依存していることを自覚する。
 孤独だった日々が、颯の存在によって崩れ、代わりに得たのは甘く危険な感情。

 その夜、事務所の片隅で、二人の距離は完全に縮まった。
 触れずとも、互いの鼓動が伝わる――
 秘密の夜は、二人だけの世界を創り出していた。
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