君に二度、恋をした。

春夜夢

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第12話 お前の未来に、俺はいないのか

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昼休み、遥が自席に戻らないことに気づいたのは、13時を少し過ぎた頃だった。

 

 「堂本さん、今日、会長室に呼ばれてるみたいですよ」
 「え?なんかあったんですか?」
 「さぁ……でも、なんか空気、ピリついてましたね」

 

 ざわつく声に、俺の背筋がひやりとした。

 ――会長室。
 そんなところに呼ばれるなんて、よほどのことだ。

 

 仕事が手につかず、定時すぎまでそわそわしていた俺の前に、ようやく遥が現れた。

 

 「……遅かったな」

 「ごめん、いろいろあって」

 

 その顔は、いつもの遥だった。
 けれど……どこか、作られた笑顔だった。

 

 「……なにがあった?」

 「大したことじゃないよ。ただ――親父がちょっと騒いでさ。
  “婚約話を蹴った報告もないまま、どこでなにやってるんだ”って」

 

 頭が真っ白になった。

 

 「……婚約?」

 「うん、決められてた。子供の頃から。財界の名家との縁談」

 「お前、そんなの……」

 

 「断ったよ。春翔がいるから」

 

 その言葉は、確かに優しかった。
 でも、どうしようもなく残酷だった。

 

 「……なんで、言わなかったんだ」

 「言ったら……怖がると思ったから」

 「怖がるんじゃなくて、“信じられなくなる”んだよ」

 

 遥が目を見開いた。

 

 「俺は……お前のこと、信じたいって思ってた。
  でも、お前の未来には、俺の知らない“何か”がたくさんあって、
  そこに――俺がいないみたいで、怖くなった」

 

 静かに、でも確かに、ふたりの間に壁ができた気がした。

 

 「……春翔」

 「今日は……帰る」

 

 背を向けた俺を、遥は追ってこなかった。

 

 それがなにより、痛かった。
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