君に二度、恋をした。

春夜夢

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第25話 もう一度だけ、自分の言葉で話してみたい

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その日、昼過ぎの部屋はとても静かだった。
 窓から差し込む日差しも、やけに柔らかく感じる。

 

 テーブルの上に置かれた、古びたアドレス帳。
 そこに書かれていた実家の番号は、もう何年も手を触れていなかった。

 

 「……今、かけるの?」

 遥が優しく聞いた。

 

 「うん。……今日を逃したら、また逃げる気がするから」

 

 指が、少し震える。

 

 着信音。
 数コール。
 そして――

 

 『……はい、◯◯です』

 

 懐かしすぎて、胸が詰まった。

 

 「……春翔、です。……俺」

 

 受話器の向こうに、沈黙。

 

 『……ああ……春翔……元気、だったの?』

 

 母の声だった。
 昔と変わらない。けれど少し年をとったような、優しさと弱さが滲む声。

 

 「……うん。元気だった。仕事もしてるし、ちゃんと……生きてる」

 

 気づけば、目の奥が熱くなっていた。

 

 『よかった……ずっと、心配してたのよ。どこにいるかも分からなかったから……』

 

 言葉にならない沈黙が、ふたりの間に流れる。

 それでも、今の俺には――繋がる勇気があった。

 

 「……今、隣に大事な人がいる。
  あの時の俺とは、たぶん違うと思う。
  ……だから、一度だけ、“今の俺”を見てもらえないかな」

 

 母は、しばらく黙ったあと――

 

 『……うん。ありがとう、春翔』

 

 その言葉に、涙が頬を伝っていた。

 

 電話を切ったあと、遥がそっとそばに来て、肩を抱いた。

 

 「……頑張ったな」

 

 その一言で、また涙がこぼれた。

 

 遥は、何も言わなかった。
 ただ、静かに隣にいてくれた。

 言葉よりも強く、あたたかく、そこにいてくれた。

 

 「遥、ありがとう」

 

 「……俺は何もしてない。君が自分で向き合ったんだ」

 

 それでも――この人がいたから、俺は前に進めた。

 “選んだ未来”が、過去まで優しく照らしてくれた。
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