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第9話 愛してしまった代償――『処刑人の妻』が狙われる
「……カイル様の妻なんですって?」
「まさかあの処刑人に“女”がいたなんて……ふふ、まるで冗談みたい」
廊下を歩けば、視線が集まる。
笑い、蔑み、警戒、好奇心……あらゆる感情が入り混じった目で。
――原因は、わかっている。
カイル様が、公式に「私が妻である」と書面を提出したからだ。
政略結婚だったものは、今や“公の愛”として認知されつつある。
けれどそれは同時に――
彼の“弱点”が、この国の上層部に知れ渡ったということでもある。
「気をつけろ。今後、お前は俺に仕える者ではなく、“俺の命綱”だ」
「命綱……?」
「俺にとって、唯一の交渉材料であり、致命的な穴だ。……つまり、狙われる」
数日後、それは現実となる。
護衛のついていない書庫で、私は突き飛ばされた。
一瞬、視界が揺れた――けれどその手は、あまりにも素早く口元を塞いできた。
「静かに。叫んだら、一瞬で気絶させてやる」
貴族の刺繍入りのマントを羽織った男。
誰かはわからない。でも、言葉の調子があまりにも“宮廷育ち”だった。
「カイル・ヴァレンティヌスは、化け物だ。あれをこの国の中枢に置いておくべきじゃない。……君はそれをよく知っているはずだ」
「……っ」
「だから、君には“消えて”もらう」
鋭く光った短剣が、私の喉元に近づいた――その瞬間。
「触れるな」
氷のような声。
次の瞬間、空気が震えた。
「――“無音氷壁(サイレント・フリーズ)”」
時間が止まったような冷気。
男の足元から、氷が一気にせり上がり、その腕を――完全に凍結させた。
「がっ……あ……!」
「苦しいか? 当然だ。俺の“妻”に手を出そうとしたんだからな」
カイル様の目は、いつもの数倍冷たい。
「……助けて、ください……!」
私のその一言で、彼の魔力がさらに膨れ上がった。
「その命、凍て死ぬまで晒してやろう」
男が絶叫する声も、氷の中に吸い込まれていく。
そして――
私を抱き上げた彼の腕は、あまりにも震えていた。
「俺は……お前を守るために、何人でも殺せる」
「……そんな言葉、嬉しくないです」
「違う。これは“誓い”だ」
「……誓い?」
「愛してしまった。だから、お前を守る以外に、もう生きる意味がない」
その言葉は甘いどころか、少し狂気すら含んでいて。
それでも私は、涙が止まらなかった。
私は気づいてしまった。
この愛は、あまりにも深く、
あまりにも重く――
そして、命に等しい代償を伴うものだということに。
(続く)
「まさかあの処刑人に“女”がいたなんて……ふふ、まるで冗談みたい」
廊下を歩けば、視線が集まる。
笑い、蔑み、警戒、好奇心……あらゆる感情が入り混じった目で。
――原因は、わかっている。
カイル様が、公式に「私が妻である」と書面を提出したからだ。
政略結婚だったものは、今や“公の愛”として認知されつつある。
けれどそれは同時に――
彼の“弱点”が、この国の上層部に知れ渡ったということでもある。
「気をつけろ。今後、お前は俺に仕える者ではなく、“俺の命綱”だ」
「命綱……?」
「俺にとって、唯一の交渉材料であり、致命的な穴だ。……つまり、狙われる」
数日後、それは現実となる。
護衛のついていない書庫で、私は突き飛ばされた。
一瞬、視界が揺れた――けれどその手は、あまりにも素早く口元を塞いできた。
「静かに。叫んだら、一瞬で気絶させてやる」
貴族の刺繍入りのマントを羽織った男。
誰かはわからない。でも、言葉の調子があまりにも“宮廷育ち”だった。
「カイル・ヴァレンティヌスは、化け物だ。あれをこの国の中枢に置いておくべきじゃない。……君はそれをよく知っているはずだ」
「……っ」
「だから、君には“消えて”もらう」
鋭く光った短剣が、私の喉元に近づいた――その瞬間。
「触れるな」
氷のような声。
次の瞬間、空気が震えた。
「――“無音氷壁(サイレント・フリーズ)”」
時間が止まったような冷気。
男の足元から、氷が一気にせり上がり、その腕を――完全に凍結させた。
「がっ……あ……!」
「苦しいか? 当然だ。俺の“妻”に手を出そうとしたんだからな」
カイル様の目は、いつもの数倍冷たい。
「……助けて、ください……!」
私のその一言で、彼の魔力がさらに膨れ上がった。
「その命、凍て死ぬまで晒してやろう」
男が絶叫する声も、氷の中に吸い込まれていく。
そして――
私を抱き上げた彼の腕は、あまりにも震えていた。
「俺は……お前を守るために、何人でも殺せる」
「……そんな言葉、嬉しくないです」
「違う。これは“誓い”だ」
「……誓い?」
「愛してしまった。だから、お前を守る以外に、もう生きる意味がない」
その言葉は甘いどころか、少し狂気すら含んでいて。
それでも私は、涙が止まらなかった。
私は気づいてしまった。
この愛は、あまりにも深く、
あまりにも重く――
そして、命に等しい代償を伴うものだということに。
(続く)
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