拷問官と政略結婚した令嬢、夜だけ激甘に囚われてます

春夜夢

文字の大きさ
16 / 20

第16話 毒入り茶と、“妻を奪われた男”の正体

「お茶を、どうぞ」

いつもと同じ、侍女の声。
いつもと同じ、銀のティーセット。

けれど――その時、私はふと違和感を覚えた。

(……香りが、違う?)

口をつけかけた瞬間、背後の扉が乱暴に開かれた。

「レオナ、飲むな!!」

カイルの怒鳴り声と同時に、ティーカップが弾き飛ばされ、床に砕け散った。

紅茶の香りとともに、何か鋭く鼻をつく匂いが立ち上る。

「――毒だ」

「えっ……?」

「その侍女、俺が任じた者ではない。入れ替えられていた」

「そんな……っ!」

床に膝をついたカイルは、砕けたカップの破片をひとつ拾い、魔力を通す。
瞬時に反応する青い光。

「この毒、王妃派の常用薬と類似している。“即死性”はないが、妊婦に使用すれば――」

彼は言葉を切った。
言わずとも、その先はわかっていた。

――胎児の命を、確実に奪う毒。

「……だれが」

カイルの声が、低く、震えていた。

「誰が、こんな真似を……」

「犯人は、捕らえました。ですが……指示役がいます」

アナスタシアが静かに差し出した文書には――
“かつての婚約者”の名が記されていた。

「……エルフィナ・クローディア様の、元婚約者。第三王子、ルヴェン殿下です」

「お前を奪ったあの男を、私は認めない」

そう言っていた、昔の彼の言葉。
政略で交わされただけの関係だったが、
第三王子ルヴェンは、かつてレオナに“執着”を見せていた。

「“処刑人風情”にお前を渡したくなかっただけだ」

それが、彼の動機だった。

失った女を取り戻すために――
王位も、命も、何もかもを捨てて、ルヴェンは狂っていた。

「殺す。もはや、“処刑”ですら生ぬるい」

カイルの目が、完全に“殺意”に染まっていた。

「お前と子を狙った者には、全員地獄を見せる」

「……でも、あなたが“国の敵”にされてしまう」

「構わない。もう国などいらない。お前と子が生きてくれるなら、それでいい」

その夜、レオナはカイルの胸の中で、かすかに震えていた。

「ごめんなさい、私が“関わった過去”のせいで……」

「違う。過去があったから、今のお前に出会えた」

「……でも、私が狙われるたびに、あなたが狂っていくのが怖い」

「なら、一緒に狂えばいい」

その言葉と共に、彼は静かに唇を重ねた。

「……レオナ、次に何かがあったら、もう手加減はしない。王でも、神でも、敵なら殺す」

それは、ただの宣言ではない。
“開戦の合図”だった。

王宮の均衡が崩れ始めていた。
愛の証である子を狙った陰謀は、
“処刑人の愛”を、完全に覚醒させてしまったのだ。

(続く)
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました

ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。 けれどその幸せは唐突に終わる。 両親が死んでから何もかもが変わってしまった。 叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。 今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。 どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥?? もう嫌ーー

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?