『加工アプリの女』

春夜夢

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第2話『後ろの人、誰?』

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「う、そ……」

言葉が出なかった。
自分のスマホ画面に映る“もう一人”の自分──そして、そのすぐ後ろに立つ“女”。

カメラアプリは勝手に起動し、フリーズしたように停止したまま、映像だけが動き続けている。画面の奥で、白い服の女の髪が、ゆっくりと揺れた。

「いや、やめて……やめて、やめて!!」

パニックになった沙月は、スマホをベッドに放り投げた。
心臓が暴れる。頭が真っ白になる。部屋の空気が一気に冷たくなった気がした。

思わず振り返る。

──誰もいない。

ただ、カーテンの隙間が、さっきより少し開いているような気がした。

「……やばい。これ、夢……だよね?」

恐怖を打ち消すように、無理やり笑おうとする。だけど口元は引きつるばかりで、震えが止まらなかった。

スマホを手に取り、もう一度アプリを強制終了しようとする。しかし、ホームボタンを押しても、アプリは閉じない。カメラの映像だけが延々と続く。

──しかも、女との距離が縮んでいる。

たった数秒前より、確実に。

沙月は震える指でスマホの電源ボタンを長押しした。

……画面が、消えない。

「……なんで!? 壊れたの!?」

不安と焦りが限界に達し、スマホを枕の下にねじ込んで、無理やり目を閉じた。

──だいじょうぶ。寝て起きたら、全部忘れてる。そう、ただの疲れ。悪い夢。幻覚。

深く、深く息を吐く。けれど──その夜、沙月はまどろみの中で“カシャ”というシャッター音を何度も聞いた。

それは、現実だったのか、夢だったのか。

* * *

翌朝。

いつもより早く目を覚ました沙月は、念のためにスマホの電源を確認する。

──普通に起動した。

昨日のアプリはなぜかアンインストールされていた。ホーム画面からも、ストアの履歴からも、完全に消えている。

「……え? なんで?」

記憶があいまいだった。

あの夜、本当にそんなことがあったのか? 夢だったのか? でも──

スマホのアルバムには、**“保存した覚えのない写真”**が1枚だけ残っていた。

自分の寝顔。

そしてその隣、黒く塗りつぶされた人影が写っていた。

「……だれ?」

その瞬間、背筋に氷のような冷気が走った。

誰かが、自分の寝顔を撮った。
しかも、隣に“何か”がいた。
じゃあ、カメラを持っていたのは──誰?

その時だった。
スマホの画面がパチパチと乱れ、勝手にブラウザが開いた。

そこには、こんな投稿が載っていた。

「#FaceRefe 被害者の会」
「あのアプリ、消しても戻ってくる。あの女、“加工された顔”に取り憑いてる」
「盛った顔の“裏側”に、いるんだよ」
「次は、誰の顔を使うのかな?」

沙月の指が、ふるふると震える。

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