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第3話『鏡の中の違和感』
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「沙月、大丈夫? 顔色悪いよ」
教室に入ってすぐ、美羽が心配そうに声をかけてきた。
いつもなら軽く流す沙月も、今朝ばかりは無視できなかった。
「……ちょっと寝不足で」
「なんかあったの?」
──うまく言葉にできなかった。
まさか、アプリに取り憑かれたかもしれないなんて言えない。
夢か現実かも曖昧なままの恐怖を、どう説明できる?
「……変な夢見ちゃってさ。まあ、気にしないで」
なんとか笑ってごまかす。美羽もそれ以上は追及しなかったが、どこか納得いかないような表情を浮かべたままだった。
1時間目の国語の授業中。ノートをとっている手が止まる。
──ピッ
教室のスピーカーから、一瞬だけ電子音のようなノイズが走った。
教師は気づかず授業を続ける。
(今の……何?)
ざわり、と背筋を撫でるような感覚。
ふと、黒板の上に設置された鏡が目に入る。
そこには、教室の様子が反射していた。沙月の席の後ろ──誰かが立っているように見えた。
振り返る。
……誰もいない。
もう一度、鏡を見る。今度は何も映っていない。
(……やっぱ、寝不足のせいかな)
けれど、その違和感は一日中ついて回った。
* * *
放課後。沙月は寮に戻らず、街の駅ビル内にあるドラッグストアのパウダールームへ向かった。
とにかく──鏡を確かめたかった。
誰かが後ろにいるような気がするたび、心が削られていく。
自分の顔が、自分じゃない気がする。
そう思っていた。
鏡の前に立ち、ゆっくりと覗き込む。
「…………っ!」
思わず声を漏らしそうになった。
鏡の中の自分が、笑っていないのだ。
顔だけは自分。だけど、目が笑っていない。
口角だけが、異様に吊り上がっていた。
「おかしい……こんなの、私じゃない」
誰かの“真似をした顔”。表情がズレてる。作り笑いのような、乾いた笑み。
カメラで撮ったような加工感が、なぜか鏡の中の“現実”に現れていた。
そのとき──
シャッター音。
パウダールームの個室の中から、“カシャ”と音がした。
ビクリと身体が硬直する。
店内には他に誰もいない。なのに、写真を撮る音だけが響いた。
「……誰か、いるの?」
個室のドアが、**コン……コン……**とノックされた。
返事はない。
恐る恐る覗き込もうとしたその瞬間──
スマホが震えた。
新着通知:
『satuki.2nd_real』がライブ配信を開始しました。
「……は?」
そのアカウントは、自分の偽物。顔写真は自分そっくりの“盛った顔”。
通知を開くと、ライブ映像が映し出された。
それは──パウダールームの鏡越しに、沙月を見下ろす視点だった。
つまり、誰かが沙月を“真上から”盗撮している。
配信タイトルには、こう記されていた。
「#新しい顔、いただきます。」
教室に入ってすぐ、美羽が心配そうに声をかけてきた。
いつもなら軽く流す沙月も、今朝ばかりは無視できなかった。
「……ちょっと寝不足で」
「なんかあったの?」
──うまく言葉にできなかった。
まさか、アプリに取り憑かれたかもしれないなんて言えない。
夢か現実かも曖昧なままの恐怖を、どう説明できる?
「……変な夢見ちゃってさ。まあ、気にしないで」
なんとか笑ってごまかす。美羽もそれ以上は追及しなかったが、どこか納得いかないような表情を浮かべたままだった。
1時間目の国語の授業中。ノートをとっている手が止まる。
──ピッ
教室のスピーカーから、一瞬だけ電子音のようなノイズが走った。
教師は気づかず授業を続ける。
(今の……何?)
ざわり、と背筋を撫でるような感覚。
ふと、黒板の上に設置された鏡が目に入る。
そこには、教室の様子が反射していた。沙月の席の後ろ──誰かが立っているように見えた。
振り返る。
……誰もいない。
もう一度、鏡を見る。今度は何も映っていない。
(……やっぱ、寝不足のせいかな)
けれど、その違和感は一日中ついて回った。
* * *
放課後。沙月は寮に戻らず、街の駅ビル内にあるドラッグストアのパウダールームへ向かった。
とにかく──鏡を確かめたかった。
誰かが後ろにいるような気がするたび、心が削られていく。
自分の顔が、自分じゃない気がする。
そう思っていた。
鏡の前に立ち、ゆっくりと覗き込む。
「…………っ!」
思わず声を漏らしそうになった。
鏡の中の自分が、笑っていないのだ。
顔だけは自分。だけど、目が笑っていない。
口角だけが、異様に吊り上がっていた。
「おかしい……こんなの、私じゃない」
誰かの“真似をした顔”。表情がズレてる。作り笑いのような、乾いた笑み。
カメラで撮ったような加工感が、なぜか鏡の中の“現実”に現れていた。
そのとき──
シャッター音。
パウダールームの個室の中から、“カシャ”と音がした。
ビクリと身体が硬直する。
店内には他に誰もいない。なのに、写真を撮る音だけが響いた。
「……誰か、いるの?」
個室のドアが、**コン……コン……**とノックされた。
返事はない。
恐る恐る覗き込もうとしたその瞬間──
スマホが震えた。
新着通知:
『satuki.2nd_real』がライブ配信を開始しました。
「……は?」
そのアカウントは、自分の偽物。顔写真は自分そっくりの“盛った顔”。
通知を開くと、ライブ映像が映し出された。
それは──パウダールームの鏡越しに、沙月を見下ろす視点だった。
つまり、誰かが沙月を“真上から”盗撮している。
配信タイトルには、こう記されていた。
「#新しい顔、いただきます。」
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