『加工アプリの女』

春夜夢

文字の大きさ
5 / 21

第5話『フォロワー1人、私じゃない』

しおりを挟む
“あなたの顔が更新されました。”

その不気味な通知を見てからというもの、沙月のスマホはまるで他人のもののように感じられた。
どこを見ても、何を開いても、“知らない自分”が映っている。

──けれど、それは確かに「沙月」の名前を持っていた。

怖くなって、SNSアプリを確認する。

自分の本アカウント──「@satuki.official」。

……のはずが、表示されていたのは**「@satuki_real」**というアカウントだった。

「……え? これ、私のじゃない……よね?」

プロフィール欄には、自分の自撮りが使われていた。
でも、その顔は──どこか違う。

肌が白すぎて、目の光がない。
加工された美しさが、不気味なマネキンのように整いすぎていた。

投稿も、勝手にされている。

「今日も、私の顔をかしてくれてありがとう。」
「明日には、きっと全部わたしのもの。」
「──君は、もう、いらないよね?」

ぞわっ、と背筋が凍る。

(私の顔を“かして”……?)

しかも、驚いたのはフォロワー数だった。

──「1」

たったひとり。
そのフォロワーをタップすると、表示されたのは──

沙月自身の、本物のアカウントだった。

「……嘘、私、あっちをフォローしてない!」

急いでブロックしようとする。
だが、画面にはこんな表示が浮かんだ。

「自分自身はブロックできません」

「……え?」

思わずスマホを放り出す。
手が震えて、冷たい汗が背中を伝う。

「私が……あれ? でも、あのアカウントは私じゃない……のに、私?」

何が本物で、何が偽物なのか。
画面の中の“もう一人の沙月”が、確実に“私”を侵食している。

──カシャッ。

また、勝手にカメラが起動した。
自分の顔が映る。

……けれど、その顔は、少し前よりも整っていた。

目が大きく、肌が滑らかで、左右対称。
アプリで盛ったときの顔が、“現実”になりつつある。

「……やだ、やだやだやだ、違う! これ、私じゃない!!」

叫びながら鏡に飛び込む。

映った顔も、やはり“完璧すぎる”。

「どいてよ……アンタなんか、知らない……!」

拳を振り上げる。
その瞬間、鏡の中の“沙月”がニヤリと笑った。

こちらが怒りで顔を歪めたのに、向こうは──笑った。

(違う。あれ、私じゃない。あれは──“彼女”だ)

バン! と鏡を叩く。

その衝撃で、何かが床に落ちた。

──スマホだった。
スリープ状態のまま、画面に通知が浮かんでいた。

『satuki_realがストーリーを更新しました』

恐る恐る開く。

そこには、“自分の部屋”の映像が映っていた。

今、まさに──この部屋が、外から撮影された映像。

「どこから……?」

部屋の窓を振り返る。

──そこに、白い顔が、ぬっと張りついていた。

半透明の瞳。裂けた口元。
沙月が盛りたかった“完璧な顔”の、成れの果て。

画面の中で、その女が囁いた。

「フォロー、ありがとう。これで……もう、ひとりじゃないね?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...