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第6話『転校生の正体』
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「転校生が来るって。今さらこの時期に珍しいよねー」
朝の教室で、そんな会話がひそひそと広がっていた。
5月の中旬。学期も落ち着いてきたこの時期に、転校生なんて確かに珍しい。
(こんなタイミングで……)
沙月はまだ、あの「顔の女」の恐怖を引きずっていた。
昨夜、窓の外に張りついていた“完璧すぎる顔”──あれは、自分が加工アプリで作り上げた、理想の自分の成れの果てだった。
(このままじゃ……そのうち、私の中身まで全部、乗っ取られる)
そんな焦りと恐怖の中、ホームルームが始まった。
「紹介します。今日からこのクラスに入ることになった、八重(やえ)さんです」
教室の前に立った転校生──**八重 美苑(やえ みその)**は、どこか雰囲気の浮いた少女だった。
肌が異様に白く、目の下には隈のような影。
姿勢は良いのに、どこか“人間らしさ”が欠けているような印象。
でも、沙月は見た瞬間、確信した。
(……この子、あの女を知ってる)
直感だった。
なぜかはわからない。でも、“知っている人間の目”をしていた。
* * *
その日の放課後。
沙月は意を決して、八重に話しかけた。
「ねえ……話、できる?」
校舎裏のベンチに並んで座る。
最初、八重は警戒していたが、沙月が「FaceRefe」という単語を口にした瞬間──
その目が鋭く変わった。
「……アンタも、見たんだ。あの“顔の女”」
「やっぱり……!」
「それ、もう“追ってきてる”でしょ。写真の中とか、画面越しとか、鏡とか。全部、彼女の通り道」
八重はポツリと語り始めた。
2か月前、彼女がいた学校で、「盛れる加工アプリ」が一瞬で流行った。
きっかけは、1人の生徒がアップした“完璧すぎる自撮り”。その顔に憧れ、同じアプリを使い始めた女子生徒たち。
でも──数日後から、次々と“顔に異変”が起きた。
鏡に違う顔が映る。写真が勝手に保存される。
最後には、自分が自分でなくなっていく感覚。
「その学校、今はもうない。閉鎖された。原因は、集団精神錯乱とされてる。でも違う。“彼女”が、全員の顔を奪ったんだよ」
「顔を……奪うって……」
「“彼女”はね、自分の顔を忘れた女の怨霊。SNSで作られた“偽りの美しさ”に嫉妬してる。そして──取り込もうとする。自分の“顔”として」
八重はシャツの袖をまくる。
そこには、焼け焦げたような“QRコード”のような痕が刻まれていた。
「これ、前に“彼女”が入りかけた時についた。ギリギリで、自分の“本当の顔”を思い出して、追い出した。けど──私だけしか、生き残らなかった」
沙月の背筋が凍った。
「自分の顔を、思い出す……」
「そう。盛った顔じゃなくて、加工前の、鏡の前で笑ってた、本当の顔。あの女に“乗っ取られる前”の顔を、自分でちゃんと覚えてるかどうか」
沙月の頭に、昨日の記憶がフラッシュバックする。
──鏡に映った“盛られた自分”
──SNSの中で動き出す“完璧な自分”
──リアルよりもリアルな、“作られた顔”
(……私、自分の顔……覚えてないかも)
「ヤバいのは、顔を忘れてるって気づいたとき。“彼女”は、そこを狙ってくる」
八重が真剣な目で言った。
「アンタ、今夜が分かれ目だよ。カメラに映っちゃダメ。SNS開くな。鏡もできれば……避けて」
「……わかった」
沙月は強く頷いた。
今、ようやく少しだけ、現実に抗う術が見えてきた気がした。
でもその夜、寮の部屋で沙月がドアを開けたとき、部屋の中央に置かれていたスマホがひとりでに動き出した。
画面には、こう表示されていた。
『“あなたの顔”を、もう一度スキャンします』
──反射的に振り返った鏡の中。
そこには、**八重の顔をした“沙月”**が、微笑んでいた。
朝の教室で、そんな会話がひそひそと広がっていた。
5月の中旬。学期も落ち着いてきたこの時期に、転校生なんて確かに珍しい。
(こんなタイミングで……)
沙月はまだ、あの「顔の女」の恐怖を引きずっていた。
昨夜、窓の外に張りついていた“完璧すぎる顔”──あれは、自分が加工アプリで作り上げた、理想の自分の成れの果てだった。
(このままじゃ……そのうち、私の中身まで全部、乗っ取られる)
そんな焦りと恐怖の中、ホームルームが始まった。
「紹介します。今日からこのクラスに入ることになった、八重(やえ)さんです」
教室の前に立った転校生──**八重 美苑(やえ みその)**は、どこか雰囲気の浮いた少女だった。
肌が異様に白く、目の下には隈のような影。
姿勢は良いのに、どこか“人間らしさ”が欠けているような印象。
でも、沙月は見た瞬間、確信した。
(……この子、あの女を知ってる)
直感だった。
なぜかはわからない。でも、“知っている人間の目”をしていた。
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その日の放課後。
沙月は意を決して、八重に話しかけた。
「ねえ……話、できる?」
校舎裏のベンチに並んで座る。
最初、八重は警戒していたが、沙月が「FaceRefe」という単語を口にした瞬間──
その目が鋭く変わった。
「……アンタも、見たんだ。あの“顔の女”」
「やっぱり……!」
「それ、もう“追ってきてる”でしょ。写真の中とか、画面越しとか、鏡とか。全部、彼女の通り道」
八重はポツリと語り始めた。
2か月前、彼女がいた学校で、「盛れる加工アプリ」が一瞬で流行った。
きっかけは、1人の生徒がアップした“完璧すぎる自撮り”。その顔に憧れ、同じアプリを使い始めた女子生徒たち。
でも──数日後から、次々と“顔に異変”が起きた。
鏡に違う顔が映る。写真が勝手に保存される。
最後には、自分が自分でなくなっていく感覚。
「その学校、今はもうない。閉鎖された。原因は、集団精神錯乱とされてる。でも違う。“彼女”が、全員の顔を奪ったんだよ」
「顔を……奪うって……」
「“彼女”はね、自分の顔を忘れた女の怨霊。SNSで作られた“偽りの美しさ”に嫉妬してる。そして──取り込もうとする。自分の“顔”として」
八重はシャツの袖をまくる。
そこには、焼け焦げたような“QRコード”のような痕が刻まれていた。
「これ、前に“彼女”が入りかけた時についた。ギリギリで、自分の“本当の顔”を思い出して、追い出した。けど──私だけしか、生き残らなかった」
沙月の背筋が凍った。
「自分の顔を、思い出す……」
「そう。盛った顔じゃなくて、加工前の、鏡の前で笑ってた、本当の顔。あの女に“乗っ取られる前”の顔を、自分でちゃんと覚えてるかどうか」
沙月の頭に、昨日の記憶がフラッシュバックする。
──鏡に映った“盛られた自分”
──SNSの中で動き出す“完璧な自分”
──リアルよりもリアルな、“作られた顔”
(……私、自分の顔……覚えてないかも)
「ヤバいのは、顔を忘れてるって気づいたとき。“彼女”は、そこを狙ってくる」
八重が真剣な目で言った。
「アンタ、今夜が分かれ目だよ。カメラに映っちゃダメ。SNS開くな。鏡もできれば……避けて」
「……わかった」
沙月は強く頷いた。
今、ようやく少しだけ、現実に抗う術が見えてきた気がした。
でもその夜、寮の部屋で沙月がドアを開けたとき、部屋の中央に置かれていたスマホがひとりでに動き出した。
画面には、こう表示されていた。
『“あなたの顔”を、もう一度スキャンします』
──反射的に振り返った鏡の中。
そこには、**八重の顔をした“沙月”**が、微笑んでいた。
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