『加工アプリの女』

春夜夢

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第7話『呪いのコードと開発者』

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「──“彼女”が動き出した?」

スマホに表示された八重の顔をした“偽沙月”を見て、沙月はすぐに八重に電話をかけた。
だが、コール音だけが虚しく鳴り響き、やがて自動で切れた。

(まずい……八重も狙われてる?)

恐怖と不安が渦巻く中、それでも沙月は一つの決意を固めていた。

(このまま怯えてるだけじゃ、全部奪われる)

今夜こそ、決着の糸口を見つけなければ。

* * *

翌日、沙月は学校を早退し、八重と約束していた“ある場所”へ向かった。

待ち合わせ場所は、都心から電車で1時間ほど離れた古いビル。
数年前までIT系スタートアップ企業が入っていたが、今はもう無人らしい。

「ここが“FaceRefe”の開発元、“Polaris Lab”の最初のオフィス」

八重は、すでに入り口に立っていた。
頬が青ざめている。昨夜、彼女にも“何か”があったのだと直感した。

「本当にここで、“彼女”が生まれたの?」

「たぶんね。FaceRefeの開発者、“志摩遼一(しま・りょういち)”──彼が最初にこのビルでアプリを組んでた。でも、2年前に自殺してる。謎のメッセージを残して」

「メッセージ?」

八重はスマホを取り出し、保存された画像を見せた。

『私が作ったのは、ただの“鏡”だった。でも、“誰か”がそこに入ってきた』
『顔を見たがってる。誰でもいいんだ。“美しい顔”なら、誰でも』

「これは彼が死の直前、自分のSNSに投稿した文章。それ以降、彼のアカウントも、会社も消えた」

「……“鏡”って、まさか」

「アプリのカメラ機能。“彼女”はコードのどこかに入り込んだ。“盛られる”ことで、形を得て、外に出てこようとしてる」

ふたりは恐る恐る、ビルの中へ足を踏み入れた。

廊下には、今もところどころ段ボールや古びたモニターが残されていた。
奥の一室、かつての開発ルームだった場所は、電気も通っていない。

だが、そこにあった一台の古いPCが──なぜか、電源が入っていた。

「……誰もいないはずなのに……!」

八重がPCに近づこうとすると、モニターが一瞬だけ点滅し、画面が真っ黒になった。

そして、そこに浮かび上がったのは──

『FaceRefe v0.0.1β 起動中』
『“彼女”がログインしました』

沙月の背後から、シャリ……シャリ……と何かを引きずるような音が聞こえてくる。

「……来た……!」

背筋が凍りつく。

振り返ると、廊下の奥から“白い女”がこちらへとゆっくり歩いてきていた。
顔は半分が沙月、半分が八重。
口元だけがにやりと吊り上がっている。

「沙月、目を合わせないで!! 鏡を探して!!」

八重の叫びで、沙月は我に返る。

室内に唯一あった、割れかけた姿見に駆け寄る。

「アンタは……私じゃない!!」

鏡の中の自分を、じっと見つめる。

――私は、誰?

写真で作った顔じゃない。
加工された目でも、盛られた顎でもない。

寝起きの顔。笑った時の皺。
怒った時の歪み。泣いたあとの赤い目。

「私は、私。……“私の顔”は、私が決める!!」

そう叫んだ瞬間、鏡の表面がビキッと音を立てて割れた。

同時に、“顔の女”が苦しそうにのたうち回り、電源の入ったPCから黒い煙のようなものが吹き出した。

──コードの中から、抜け出そうとしていた彼女が、押し戻される。

だが、その時だった。

画面に、最後の警告が表示される。

『ログアウト失敗』
『“彼女”は、まだどこかにいる』

八重が息をのむ。

「……これは、終わってない。今、私たちが追い返したのは、ほんの一部。あいつはまだ……アプリの中にいる」

沙月はスマホを見下ろす。

アプリはもう、インストールしていない。
……はずだった。

でも、画面の片隅に、小さな通知がまた表示された。

『FaceRefeが再インストールされました』
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